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郡山周遊紀行

第8章 PEAK ACTION


18:30

時間がきた。
ライブハウス『PEAK ACTION』は
歩いて2分とかからない場所にあった。

今日の目当ては
グッナイ小形さんのバンドセットである。

グッナイ小形さんは、東京を拠点に
活動されているミュージシャンである。
普段はソロでライブや路上演奏をしている。

最近だと、キンプリの髙橋海人さんが
推して下さっており…

「ありがたいなぁ…」

自然と四国に行った時の
大泉洋さんみたいな声がでてしまう。

バンドセットは、なかなか見られないので
万難廃してやって来たと言うわけである。

夜はまた違って見えるね、不思議


遠目から建物を撮影していると
入口向かいの少し離れた所に
品のいい顔をした人影。
おっと、あのボルゾイみたいな
カッコいい容姿、見たことある人だぞ。

そこにはアキトさんがいた。

アキトさんは、小形さんの友人であり
バンドではキーボードを担当している。
ライブや映画の試写会なんかで
東京に行った時に、小形さんともども
お会いすることが多い。声をかける

「アキトさ~ん。どうもどうもー」

「え…、マジですか…」

と、若干引き気味で、驚いている。

勿論、彼も、今日私が来ることを知らない。
生活圏の三重県から福島県まで
その距離を考えたら無理もない反応だ。
一般人がホイホイ移動して良い距離じゃない。

少しだけ談笑する。

「これ…いい加減なライブできませんね…」

と彼は言いかけ、すぐにハッとして

「いつもいい加減にはやってませんけどね!」

と笑って訂正する。

練習を重ねたりレコーディングしたり
最近活動的だとSNSの発信から見聞きしてる。
楽しみだと返す。


脳内
「いよいよ、ですね…」「ライブ楽しみだなぁ!」

彼に電話がかかってきたのを機に
ライブハウスの中へ。地下への階段を降り
カウンターで受付を済ませる。

店内を眺める。

ざっくばらんに壁に張られている
ポスターや写真、フライヤーや注意書き
何年くらい経ているのだろう…いや
時間の長さは関係ないな。良い空間だ

ライブステージ間近の椅子に座る。
「ここにいていい」と、この空間の
たくさんの意志や意識から感じ取れる。

そんなことを考えていたら
見知った顔がひょっこり現れる。
マスク姿でもわかる明るい笑み。
手を振り、隣へ招く。

Iさん。
X(旧Twitter)のフォロワーさんである。
この旅の始まりに、事前に郡山について
諸々(何もないと)教えて下さった善人である。

彼女とはこれまでに
2度ほどお会いしている。

1度目は、昨年の12月。名古屋にて。
確かケケでのライブだった。
藤山拓さん、ふるかわののこさん
そして、甲斐大河さん出演のライブ。
帰り道、客の3人で話しながら
駅まで行ったことを覚えている。

2度目は、今年の4月に小形さんが
高円寺での路上ライブに一区切りした時。

高架下で路上演奏を見ていると

「はぐぱぱさん…ですよね?」

と、声をかけてくださった。

(東京に知り合いなんていたっけ?)

声掛けがなければ気付けなかった。
まったくもって失礼な話だ。

その日、彼女は福島から
別のバンドのライブを見に来ていたらしい。

「奇妙なところでお会いしますねぇ」

なんて頓狂な言葉をかけたような気がする。
あの時は菅野創一朗さんにも会ったよなぁ。

「京樽前」は再開発の対象区画となり
その看板もシャッターもなくなった。

思い出がチラリと頭をかすめるも、Iさんの

「お土産です…」
の言葉に、あっさり吹き飛んでしまう。
我ながら現金な奴である。

パンダの可愛いイラストがちりばめられた
小振りのビニール袋に、なんと
福島の銘菓が3種も入っている。

「移動中にでも食べてください」

「ワァ…優しぃ」

ちいかわみたいな感想しか出ない。

「わし、なんのお礼も用意もしてないのに…」
優しさに当てられた、後ろめたさが声になる。

「全然!気にしないでください!!」
と、彼女は笑っている。誠に良い人である。


そんなやり取りをしていると
またまた見知った顔がのそりと登場する。

私を発見すると声にならない笑いと

「(どうして…!)」
が顔に浮かんでいる。

グッナイ小形さんである。

困惑が

「えー…」
と、声となっている。

「来ちゃった///」

「マジすか」

「マジマジ。ほら、レディオショーでも
 言ってたよね?“福島は意外と近い”って」

「言ったかもだけど。えー…
 でも名古屋から…。いや、あー(察し)。
 いつもありがとうございます!」

いつものやり取りになりつつあるなぁ。
嬉しいなぁ。驚く顔が見られて。
大きな目標は達成した。
良かった良かった、大成功かな。
1人、少しほっとして、満足感を享受する。

ライブが始まる少しの間、3人で談笑する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ライブについて
私はライブハウスへ
実際に足を運んで体感することは
とても大切なことだと思っている。

この話を読んでくださる人にも
叶うなら見て聴いて体感してほしい。

ただ、自分の他愛ない言葉や拙い文章で
ライブの魅力が十分にお伝えできるとは
思っていない。
アイドルほどの集客力もない。
誘える友達すらいない。

ライブの演奏や、演者について
あまり詳しく文章にすることも
写真に残すことも、しようとは思えない。
きっと正しく伝えきれないから。
美しく伝えられそうにもないから。

矛盾してしまうのだが。それでも。

それでも、素晴らしいものは
素晴らしいのだと記しておきたいし。
美しい夜は確かにあるのだと
記録しておきたく願う気持ちもあって。

そう思える夜が少なくても
これが私の見てきたものだと思うから。
少しだけ言葉を残すことを許してほしい。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

19:00

ライブが始まる。

佐古勇気さん

「東京から来ました」と短く語り
ギターを描き鳴らす。
懐かしさを感じる歌詞と熱い歌声。
面と向かってはいつも言えないが、
少しだけ気恥ずかしそうに話をする姿は、
チャーミングだし、愛らしくもある。
年上だとか、関係なく。私はそう思っている。

「むかしのむさしの」
「ライブハウスの妖精たち」
「今夜、すべてのバーで」など

心の底の魂からうたう歌は、美しい。

不躾なことだが、佐古さんのライブの時
私はいつも金欠である。
物販が買えない歯がゆさ、胸が痛む。
京都でも、名古屋でも、東京でも
佐古さんのライブはしっかり見ている。
だが1枚もCDを購入できていない。
悲しい歯軋りをいつもしている。

演奏の後、お話しさせてもらった。
私を覚えていてくれた。
そりゃあ、小形さんの行くところ行くところ
ライブハウスに大体いたら顔も覚えるよなぁ。
本当にバツが悪い…。
悔しいので、次は絶対に物販を買おう。


工藤将也さん

初めましてのライブ演奏。
とても都会的な歌詞の印象
それでいて素朴で優しく甘い歌声。
美しく歌い上げるメロディーが熔ける。
今回ご挨拶もできず仕舞いだったので
またライブハウスでお見掛けしたら
声掛けをしたく思う。


グッナイ小形さん(bund set)

小形さんは弾き語りメインで活動しているが
常々、バンドをやりたいと言っていた。
以前、東京にてバンド「汽~yuge~」で
ライブをしてから暫くぶりである。
前回骨折していたタジマさんも復活している。 全体、音が骨太になった。
音楽をこうしたいというベクトルが
バンドメンバーで同じ方向に
強く、まとまったような印象。

「速度」
「丁度いい」
「もったいないよ」など

音の広がり、仕上がりに感涙。
これは各地でバンド編成してほしい。
沢山の人に聴いてほしい。
今日来られて本当に良かった。

※後から知ったが、この日の演奏は
 収録していたらしい。
 いずれ動画になるとか。


甲斐大河さん

今回のライブを企画した福島在住の彼は
観る度に良くなる素晴らしいミュージシャン。
地元郡山で、水を得た甲斐大河さん。
「来てくださってありがとう
 大好きな面々と対バンさせてもらって
 本当に感謝します」と言うように
その思いが溢れ余すことのない
ライブパフォーマンスを魅せてくれた。

「始発駅にて」
「慕情」
「のぼせていたい」
「横顔」など

会場を全てを包み込むような
雄々しく輝いた歌と演奏で締めくくる。

こんなに来て良かったと思える夜は
これからも先、幾度もない気がする。


 21:30

全ての演目終了後に
グッナイ小形さんのバンドの
ギターのタジマさん
ドラムのコロさん
ベースのQさんらとも
少し言葉を交わした。

けれども、伝えるべき本当の言葉は
いつだって喉から先にでてきてくれない。
難儀なものである。

「タジマさんのギター痺れた!
 めちゃくちゃかっこよかった!
 全力の演奏が観られて嬉しい!
 最高だった!またみたい!」

って言えなかった。

「Qさん!キーボードにぶつかってたけど
 ベース全然ブレなかったの凄い!
 『速度』のコーラス、素敵だった!」

って言いそびれた。

「コロさん、今日の演奏聴けて嬉しかった!
 皆で集まってレコーディングしてるって
 聞きました!新作楽しみです!
 ソロの小形さんも良いけど
 バンドはバンドで最高ですね!」

って言いたかった。


「アキトさん、前回はアキトさんを
 ほぼ観られない立ち位置だったけど
 今回バッチリ観られました。
 めちゃめちゃ楽しめました。
 時たまメガネにモニターが反射して光って
 真犯人見つけた人みたいになってた」

って言えば良かった。


甲斐大河 @kaitaigadesu さんのX投稿より

集合写真に笑顔で収まる姿を朗らかに眺めつつ
また会えることを望む自分がいる。
そして、自分の言葉を伝える難しさ、
もどかしさを感じる。

近隣から来ている観客らと言葉を交わす。
ちゃんとライブハウスに来ている人たち。
何も不安のない気持ちにさせてくれる。
この地域のライブ文化を守ってくださる
大切な人たちだ。

私が言うのも烏滸がましく
言葉にこそ絞り出せずにいた。

「ありがとう…ありがとうございます」

と、胸の内で彼らに送りつづけている。

甲斐さんとも、少し言葉を交わせた。
やはり何度か彼の出演するライブに
足を運んだのもあったからか
覚えていてくださった。

今回の企画をしてくれたこと
郡山へ来られたこと、謝意を伝えた。
うまく言葉にはできなかったが

「本当にありがとう
 是非いろんなとこでやってほしい」
とお伝えしていたような気がする。


言葉はいつも足りないなぁ。

心はいつも満たされようとする。

夜は、こんなにも素晴らしいのに。



つづく



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