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葉巻——煙となり、消えゆく

一時期、葉巻に凝っていた。
北方謙三先生の影響だ。

葉巻(シガー)は大きく分けて、プレミアムシガードライシガーの2種類だ。ドライシガーは湿度や温度の管理が不要で、普通のタバコに近いシガリロも、ドライシガーに含まれる。

プレミアムシガーは、刻んでいない1枚のタバコ葉をタバコ葉で太く巻いたものを指す。
ハバナ産ともなると1本2000円以上するので、俺のような庶民は気軽に買えないが、北方作品に登場するコイーバを俺は好んで喫った。
おそらく現在、葉巻の価格は当時の1.5倍くらいに上がっていると思う。

ヒュミドールというスペインの杉でできた保管箱まで買った。湿度計や加湿器が付いていて、プレミアムシガーの保存には必須と言える。

25000円くらいのヒュミドール。店の人が少しまけてくれた。


ドライシガーも構わずぶちこんでた。左側の3本はプレミアムシガー。


ヒュミドール以外には、ワインセラーに入れておく、というのもある。
もっと手軽なものだと、タッパーにシガーと精製水を含ませた脱脂綿を入れ、冷蔵庫にしまっておく、というのもある。
ただ、熟成には向かないと思う。

プレミアムシガーは、ワインのように熟成する。もちろん、湿度や温度の管理はしっかり行う前提でだ。
湿度や温度が高すぎればカビが生え腐る。
湿度が低すぎれば、葉が乾燥して割れてしまう。もっと言えば、葉巻は死んでしまう。

俺は、小説を書きはじめた時、1本のシガーをヒュミドールに入れ、完結したら喫おう、と決めた。
パルタガスの、セリーD・No.4という葉巻だ。
店の人に選んでもらった、おすすめのシガー。
俺は4年間、加湿器に精製水を足したり、湿度を確認するたび、早く喫いたい気持ちを抑えていた。

執筆はマイペースで、4年かけて完結した。
ゲーム「ファイナルファンタジーⅡ」の二次創作で、『野ばらの旗』というタイトルだ。当時、ブログに掲載した。
加筆修正してnoteに再掲しているので、時間がある人は読んでみて欲しい。
北方謙三先生の『水滸伝』にインスパイアされていて、ゲームを題材にしつつ、戦記物のように仕立て、俺が理想とする男の生き様、死に様を描いている。

さて、4年かけ完結させた達成感とともに、俺はセリーD・No.4をヒュミドールから取り出した。

わざわざ日にちを書いていたんだな、すっかり忘れていた。

正直、熟成が上手くいったかはわからない。
喫い口をカットする際、少し乾燥している感じがした。
ただ、本体は適度に湿度を帯びてふっくらしてはいたので、失敗というほどではないだろう。

肝心の味、というか香りは、フルーティーで華やか、どこか果実味もあった。
煙を吸い、吐きながら、いろんなことをふり返った。
4,50分で、葉巻は灰になった。


余談だが、個人的にシガーに合うと思う酒は、ラムとブランデーだ。
酒以外だと、コーヒーもいい。
誰が言ったか、Cigarと頭にCが付くだけあり、Cが付く食べ物、飲み物と相性がいいのだ。
コーヒー、チーズ、チョコレート、ケーキも以外にいい。あとはコニャックとか。

シガーの火は、マッチかガスライターで着けるのがいい。
よく漫画でジッポーで着火しているのを見かけるが、これはNGだ。
オイルの匂いが、葉に移ってしまうからだ。
喫い口のカットは、俺はよく研いだステンレスのナイフを使った。よく見かけるのは、ギロチン式のカッターだ。


――ともあれ、その後の俺は、オリジナルの小説を書いたり、とある漫画家と組んで漫画のネームを作って出版社へ足を運んだりしたが、デビューは叶わなかった。
その後、シガーはやめた。行きつけのバーのマスターがヒュミドールを欲しいというので、ワイルドターキーのボトルを入れて貰い、譲った。

いつかまた、シガーを喫う日が来るのか。
煙を吐きながら、なにを思うのか。

その時は、パルタガスを喫おう。

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