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男の子の名前「蓮」の人気は何を意味するのか?

明治安田生命が毎年「子供の名前ランキング」を発表しているのだが、これを見るのが面白い。

名前とは親が子供に与える社会的な記号であり、子供の今後の人生にとって大きな意味を持つ。親が与えた名前によって子供が人生で得をすることもあれば、損をすることもある。今後の社会生活で有利に働くこともあれば不利に働くこともある。
子供の名前ランキングを見ることで、親が子に何を与えようとしているのかがわかるのだ。

私が見るのは男の子の名前の方である。女の子の方は見ない。理由は後ほど説明する。
男の子の名前ランキング2022年の第1位は「蒼」だった。だが「蒼」がトップ10入りしたのは2017年以降。それより前はトップ10どころか30位〜80位程度の人気度だった。

本当に人気なのは第3位の「蓮」である。「蓮」が1位を獲得したのが2004年、2011年、2012年、2014年、2018年、2019年、2021年の計7回。2位は3回、3位は4回。1999年から2022年までの年で「蓮」がトップ10入りしなかったのは2005年(11位)と2010年(19位)のみ。つまり、それ以外の年はすべてトップ10入りしているという圧倒的人気を誇る。

なぜ「蓮」という名前はここまで人気なのか。「蓮」といえば蓮の花だ。蓮の花といえばヒンドゥー教や仏教で特別な意味を持つが、もちろんそれは関係ない。「蓮」の読み方である「レン」という響きがカッコいいーーそれこそが「蓮」という名前が人気の理由である。

半世紀ほど前までの時代であれば響きよりも意味を重視していたのがランキングを見るとわかる。たとえば戦時中だと「勲」「勝」「武」など戦争に関係する名前が人気であったし、終戦後から70年代くらいまでは「修」「学」「博」など知識や勉学に関係する名前が人気だった。一方、現代では読みの響きの良さを重視する。「蓮」の人気の理由もそこにある。しかし、それにしてもなぜ「蓮」がこれほど人気なのだろうか。「蓮」を名付ける親はどこから名前のネタを調達しているのか。

その前に、まず「蓮」の人気が特に高くなったのはいつ頃からなのかを見てみよう。「蓮」は1999年にランキング入りをしてから安定して10位以内の位置を保ち続けていたのだが、特に2011年以降に着目すると人気度がさらに上昇しているのがわかる。1位が6回、2位が2回、3位が2回、5位が1回。
「蓮」は2010年代の王といってもいいだろう。

なぜ「蓮」は2010年代に人気となったのか。実はその前の2000年代に「蓮」という名前が大衆に認知されるきっかけがあった。

漫画『NANA』の大ヒットである。
『NANA』は2000年に『Cookie』で連載を開始し、累計発行部数4300万部、歴代少女漫画中3位の発行部数を誇る。この漫画の主人公である大崎ナナの婚約者が本城蓮(ほんじょうれん)という名前である。長身のイケメンベーシストというキャラクターであり、実写映画版では松田龍平がこの役を演じた。

また、『NANA』と同時期(2007年〜2010年)に連載していた『ストロボ・エッジ』という漫画にも一ノ瀬蓮(いちのせれん)というキャラクターが登場する。主人公の女の子が恋するクールなイケメンで、学年一のモテ男という設定である。こちらも『NANA』ほどではないが人気の漫画であり、累計発行部数は580万部を突破し実写映画化もされている。

「蓮」の元ネタは少女漫画のイケメンキャラだったのだ。他の可能性は考えられない。「蓮」という名前の有名人や著名人は思い浮かばない。強いて挙げるなら大杉漣だが、字が微妙に違うし現代の親が名付けるには(大杉氏には失礼ながら)ネタが古い。

現代の親は、自分の息子に強さでも頭の良さでもなく、イケメンであること、モテ男であることを願う

「男の人生にはもっと大事なことがあるのではないか?」と言いたくなる向きもあるだろう。だが、そうではないのだ。イケメンであることやモテ男であることがこれほど重視されるということは、現代において男の戦いは国民国家の戦争や受験・会社での立身出世競争から学校という小さなコミュニティでの身分カースト争いに移行したということを意味している。

私が冒頭で女の子の名前ランキングは見ないと書いた理由はここにある。社会の中心は常に「男の戦い」の場がどこにあるかによって決まる。その意味で戦いの当事者ではない女の子は戦利品、男の付属品程度の意味しか持たず、社会にとっては人口再生産の手段でしかない。端的に言えば女など社会にとって重要ではないのである。

ところで、社会には身分カースト制の他にメンバーシップ制があると思っているのだが、学校という限定的な期間・場所での身分カースト制よりも、私はこちらの方が重要だと思っている。社会のメンバーシップ制については別の記事で書いてみたいと思う。

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