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創作する者なら見るべき「ル・ポールのドラァグレース」から貰えるパワー

Netflixに加入している方ならもしかしたらホーム画面でみたことがあるかもしれない「ル・ポールのドラァグレース」

もしあなたが何らかの創作者であったり、何かを表現することが好きだったりするのなら、是非「ドラァグレース」を見てほしい。ここにあるクリエイティブなエネルギーは、きっと人生を変えてくれる。多分そこらにある自己啓発本を読むよりも元気がもらえる。

1.ドラァグとは

動画の方はミズ・クラッカー。シーズン10に登場します。

ドラァグクイーンはクィアカルチャーから発祥したパフォーマーです。

ゲイの男性が誇張された女装で舞台上でパフォーマンスをする、というのが定番ではありますが、時にその姿は美女から宇宙人、モンスターまで幅広く様々な姿になることができます。

パフォーマンスは、曲に合わせて「リップシンク(口パク)」をするのが定番ではありますが、ドラァグの表現方法は人それぞれ。ファッションデザイナーや、メイクアップアーティストとして活躍する人から、歌手やダンサー、トークショーなどのコメディなど、幅広いパフォーマンスを見せてくれます。またLGBTの問題から、様々な社会問題のために活動する方もいます。

最近ではファッション誌「vogue」に取り上げられるなど、だんだんその存在はメジャーなものになってきています。

2.ル・ポールのドラァグレース

真ん中の方がルポール。愛称は「ママ・ルー」

でっか!!!でかいな!!かっこいい!!今年で60歳とは到底思えない美貌とカリスマ力…。

「ル・ポールのドラァグレース」では、超大御所ドラァグ、ル・ポールが「次世代のスーパードラァグスター」を見つけるために選んだ十数名のドラァグが、優勝を目指し競い合います。

2009年より放送が開始し、2020年現在シーズン12まで放送され、スペシャル版の「オールスターズ」や、裏話をお届けする「素顔のクイーンたち」まで含めるとなかなかボリューミー。しかし続きが気になって1シーズン一気に見てしまえることや、基本的にどのシーズンから入っても問題なしなのでサクッと見れてしまうのです。

ショーの構成は、1話ごとにクイーン達にチャレンジが課され、審査員により優勝者と下位を選定、1人ずつ脱落していきます。

トップのクイーンには賞金などの報酬があり、下位2名にはリップシンクでバトルで競い合ってもらい、最終的にはルポールが脱落者を決定します。

最終的に残った上位4名がグランドフィナーレへと進出し、最後に命を懸けたリップシンクバトルで、クイーンを決定します。

課題の内容は「衣装デザイン」「ミュージカル」「即興劇」「モノマネ」など様々。ただ美しいだけではなく、コメディセンスやチームをまとめる力などが求められます。

審査は厳しく、途中までは優勢だったクイーンが、苦手な課題であっといまに下位2名に決定してしまったりして、シーズン通して推しでもできようものならハラハラして目が離せなくなってしまう。

ただでさえ面白いのだが、私はこの作品を是非「創作活動」をする人たちにオススメしたい。

3.創作物を評価されること

こちらはシーズン11のクイーン入場シーン。各クイーンたちがすでに様々な個性やコンセプトをもって参加していることが伝わると思います。

しかし審査の場面で、なかなか厳しいお言葉が飛んでくることもしばしば。

技術的な面だけではなく、時として本人のやり方を否定されたように受け取れる場面もあり、そういった批評に対して「理解されなかった」とあきらめたようなクイーンや反発するクイーンもいます。

そういったクイーンに対し、ルーや審査員は「もっとあなたを見たい」「あなたの他の面が見たい」と告げるのです。

自己表現のために作品を作っていると、時として「自分にはこの方法があっている」と視野が狭まってしまうことがある。そして、「人に理解されなくても、これが私なんだから」となってしまう時がある。

しかし、インプットのないままでは、新しい表現に到達することができないときもある。

強い個性を持ったクイーンたちは、悩み、苦しみながらも新しい表現を模索し、次の課題で華々しく殻を破って見せる。しかし個性は弱まるどころか、より一層洗練された、強いスタイルで顕現する。

個性というものはインプットでは揺らがないものであり、新しいものを取り入れることを恐れてはいけないことを教えてくれる。

どんどん進化していく彼女たちの姿は、模索することへの勇気を与えてくれる。

シーズン終盤になるにつれて、より洗練され、強い個性を輝かせる彼女達を見るだけでものすごいエネルギーが貰える。

3.創作者同士のつながり

ショーの中でこそ明るい姿を見せてくれる彼女たちだが、過去に辛い経験をしてきたクイーンも多い。女装への理解を得られない者や、未だに家族に打ち明けられていない者、自信をもって表現ができないなど、弱い所も多々ある。

クイーンたちは互いに競い合ったり、時として相手とドロドロの喧嘩をしたりするのだが、長期間のレースの中で、仲間同士の絆が生まれている。

そんな中で、「初めて仲間に出会えた」「ここでは本当の自分になれた気がする」と告白する。

奇異な目で見られがちな「女装」という表現を、同じステージで競い合い、語り合うことができる。

最後のリップシンクで競い合った相手とも、健闘をたたえ合う姿はもはやスポーツである。

自分の好きなことや趣味が認められる仲間と出会えた姿は、そういった仲間がいない孤独を知る人にはものすごく刺さると思うし、表現や創作活動をする人ならばこの孤独の経験があるのではないだろうか。

番組の中、ルーのお決まりの台詞に、「if you can't love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?」というのがある。「自分自身を愛せなければ、他の人を愛することはできない」という。

一人、趣味で創作をしている人の中には、自信が持てない人も多いのではないだろうか。わかってもらえない悲しみや、理解が得られない苦しみ、創作をしつつも表に出せない恥のような感覚。

最近はSNSで個々の創作を発表したり、仲間を得やすい環境ではあるが、思春期の頃にそういったものがあまり身近でなかった人には覚えがあるのではないだろうか。

シーズン12でとても印象深いシーンがある。ミュージカルの中でのワンシーン。

「ドレスを身につけた私を見つけたママ。私のお尻を打ち、懺悔してと言ったママ」

ここでどうしようもなく涙が溢れてしまった。恋い焦がれる程に好きなものが、実の母に理解してもらえない苦しさや、寧ろ罪であると叱られる経験。きっとそれを押し隠そうとしてきたであろう。現にこの台詞を演じたジャッキーは、母親にドラァグであることは隠しており、また母の期待に添えないことを悔いていた。

自分の好きを疑い、自信を失った経験も多々あっただろうクイーン達が、ステージで輝き、観客達から憧れを抱かれるようになっている。その姿はあまりにも眩しい。

この番組では、ただ競争し合うだけではなく、ドラァグクイーンという創作者達が仲間と出会い、自分自身を見つめ直し、また仲間たちとの絆を得て、ファンたちへ愛を返す姿が見られる。

創作者の孤独が華々しく開花する瞬間は、きっと孤独を知る人々に強く刺さるだろう。

4.イチオシドラァグ

最後に個人的に推している、癖の強い個性豊かなドラァグたちをご紹介します。

1.イーヴィ・オドリー(Yvie Oddly)(シーズン11)

正統派綺麗目クイーンとはまた違うジャンルのクイーンですが、彼女のすごいところは、モンスターのみにとどまらず、美しいドレスやメイクアップもこなせるところ。

独特の低い笑い声も印象的です。レースに臨む姿勢は誠実で、他のクイーンを励ます場面もありますが、時に真直な意見ゆえに他の出演者とぶつかってしまう場面もあります。

体の柔軟性がものすごく、ダンスも圧巻の一言。

2.ロック・M・サクラ(Rock M. Sakura)(シーズン12)

最新シーズン12にて登場。名前の由来はおそらくサクラ大戦かなあ、どうなんだろう。

日本のアニメカルチャーから発想を得ているということ。プロモーションの衣装も確かにガンダムみたいな印象…トリコロールカラーなのもあるけど。同じくアジア圏のドラァグに、キムチー(Kim Chi)がいますが、より元気で変わり者な印象。

シーズン12では素直すぎる性格がゆえに打たれ弱い場面もありましたが、愛嬌があり、ムードメイカーで、出演者たちからも愛されているのを感じました。

3.クリスタル・メシッド(Crystal Methyd)(シーズン12)

ミズーリ州で活動しているドラァグ。ドラァグとしてのパフォーマンスは女装だけでは終わらないものを感じます。ユーモアのセンスがあり、出演中どこかに映ってるときいつもニコニコしているのが見えてとってもかわいいです。始め周りの出演者から、「変わり者」「最後まで残らないと思う」という評価をされますが、目覚ましい成長を見せてくれます!

4.アリッサ・エドワーズ(Alyssa Edwards)(シーズン5)

メディアへの出演も多く、普段はダンス教室の先生をされているとのこと。Netflixにそのダンスの先生としてのアリッサを追うドキュメンタリー「ダンシング・ドラァグ・クイーン」があるのですがこれもまた元気をもらえる作品。気品、カリスマ性、美貌の持ち主なのですが、ユーモアも持ち合わせている。誇張された気取った振る舞いはアリッサのキャラクターとして確立されており、クイーンたちの間でもネタになったり。表現や、生きることへの姿勢はとても力強く、とても勇気をもらえるクイーンです。

5.ドラァグレースはいいぞ

まだまだ語り切れない部分も多く、表層的な部分しか述べてはいないけれど、ル・ポールのドラァグレースはいいぞ。目の保養、抑うつ気分改善、創作意欲の向上に役立つのだ。

最近はYoutube上にてメイクアップ動画も多く上がっているので、気になったクイーンの出演する回から視聴してみるのがいいかもしれない。

最新のシーズン12は昨今のコロナウィルスによる被害や、スキャンダルなどもあったが、全体的に仲が良く、また一人一人のクォリティがかなり高いのでお勧めのシーズンでした。

みんなもおいでよドラァグの森!