個室の話２

私はもう5年近く髪を染めていなかったのだけれど、自分の髪が黒くなっていることに気づくと、「病院の人が黒染めしてくれたんだ」と勝手に納得した。

同じようにもう何年もコンタクトレンズをしていなかったのだけど、病院の人がコンタクトを外してくれていないと思って焦ったりした。

私の脳にできた傷は、位置的には視覚に関するところといわれていたのだけれど、何故か記憶がおかしくなっていたようだった。

お見舞いに来てくれた人によると、急に「学校に行かなくちゃ」と言い出したり（もう卒業して何年もたちます）、時系列がめちゃくちゃだったようだ。

おまけに今あったことをすぐに忘れてしまうので、一回寝ると誰が来ていたのかを忘れて、起きるたびに「お母さん、いつ来たの？」などと聞いていたようだ。

主治医の先生は毎日病室に来て「今日の日付・名前・年齢・ここはどこか」を聞いていった。

私は名前しか正しく答えられず、年齢は6年くらい前のものを答えていた。他は全て「分かりません」と答えていた。

母が日記を書くようにノートを持ってきたのだけれど、何も書くことがないので放置していた。