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八谷和彦 特別展「M-02JとHK1」~無尾翼機に魅せられて~に関するメモ

展覧会チラシ

展覧会タイトル
八谷和彦 特別展「M-02JとHK1」~無尾翼機に魅せられて~


2022年4月27日(水)〜5月30日(月)あいち航空ミュージアム

あいち航空ミュージアムでの展示に際してのメモです。

2005年に開催された「愛・地球博」の会場「グローバル・ハウス」の片隅に、いっぷう変わった飛行機が展示されていました。

(2005年 愛・地球博 グローバルハウス・オレンジホールに展示されたM-01)

尾翼のないその機体は、宮崎駿氏のコミック・映画作品である「風の谷のナウシカ」に出てくる架空の飛行機『メーヴェ』をモチーフに制作された機体でした。このとき、本当にこの機体が飛ぶ、と思っていた人は、おそらくとても少なかったと思います。なぜならメーヴェは、宮崎監督自身も「実際にはこれは飛ばないだろう」と設定した飛行機でしたから。

1984年のアニメーション作品の公開以来「メーヴェに乗りたい、飛ばしたい」と考えた人はとても多いと思います。多くの方がきっと子供の頃「メーヴェに乗るナウシカごっこ」をしたことでしょう。しかし「劇中のサイズ、形状では絶対に飛ばない」というのが専門家も含めた多く人の意見でした。

しかし「適切にデザインすれば飛ぶのでは?」と考えはじめた私は、四分の1、二分の一などの模型飛行機をつくり、その後、人が乗れる実機を作れるか、東京、青梅の小型飛行機の専門会社、オリンポスの四戸哲(しのへさとる)社長に相談を持ちかけます。私達は2003年からプロジェクトを開始し、2005年には、実寸の機体を「愛・地球博」に持ち込んでいました。

「愛・地球博」で展示された機体「M-01」は、まだ実際に飛ばせる状態ではなかったのですが、その翌年2006年に完成した第二期設計の機体「M-02」は、エンジンのない初級滑空機として、強力なゴムでひっぱることで飛行し、実際に人間が乗って操縦可能なことを証明しました。

(2006年 ゴム索曳航で飛行する、M-02:朝霧高原)

私達が「自分たちも有人で飛ばせる」と心から信じたのは、遥かにさかのぼる1938年、今から84年前に、日本で最初の無尾翼機が民間人の手で飛んだ、という事実を知っていたからです。その機体の名は「HK1」(別名、萱場1型無尾翼グライダー)。

「HK1」に関わったのは萱場製作所(現KYB株式会社)の創業者、萱場資郎氏、日本で最初のパイロットである日野熊蔵氏、設計者は日本の民間航空機設計の第一人者、木村秀政氏(航研機やA-26他)、機体の製造は伊藤音次郎氏の伊藤飛行機製作所、パチンコと呼ばれるゴム索や飛行機曳航でパイロットを務めたのは島安博氏(後に極東航空を設立。運行部長に就任)でした。当時まだ世界的にも例が少ない無尾翼試作機を、安定して何回もとばすことができたのは、当時の民間のオールスターとも呼べるメンバーたちの情熱と未知のものに対する挑戦心があったからです。

(1938〜39年頃。ゴム索曳航で飛行するHK1:津田沼か柏飛行場のいずれかと思われる)

その後、日本は第二次世界大戦をむかえ、敗戦後は航空機の設計や製造が全面禁止されます。航空を研究すること・教えることを絶たれた木村秀政氏は東京大学を辞めることになりますが、航空解禁後は日本大学に移り、そこで多くの教え子たちを育てます。実は四戸哲氏は、そのような木村秀政氏の教えを受け継ぐひとりで、オリンポスの初代顧問は、木村秀政氏なのでした。

いっぽう、日本で最初の無尾翼機パイロットとなった島安博氏は、関西の民間航空会社「極東航空」設立の際、会社設立の認可申請やパイロットの勧誘、整備士の求人など、運行部長として実務面で重要な働きをしています。そして極東航空はその後、関東の航空会社「日本ヘリコプター輸送」と合併し、現在の「全日本空輸株式会社」(ANA)になるのでした。

海釣りが好きだった萱場資郎氏の夢想の先には、海鳥「かつをどり」とイカのジェット推進を合わせた「無尾翼ジェット機」がありました。構想が早すぎたため、HK1 やそれに続く機体がジェットエンジンを搭載する日は訪れなかったのですが、HK1初飛行から75年後の2013年、グライダー機「M-02」にジェットエンジンがついた姉妹機「M-02J」は日本の自作機で最初のジェットエンジンでの飛行を遂げます。同じく純民間・少人数チームの機体として。この機体は2019年には、アメリカの自作機の祭典、オシュコシュエアショーでもデモフライトを行いました。

(2019年 オシュコシュエアショーで飛行する、M-02J )

このような数奇な縁でつながる、HK1とM-02J。今回は木村秀政氏が基本構想にも参画したYS-11のすぐそばで、無尾翼機の実現にかけた人たちの情熱を実機と模型などで紹介していきます。

M-02Jの歴史紹介ムービー OpenSky Chronicle 2003--2016.

https://youtu.be/VkXRg8FkwlY

(参考文献)
我がヒコーキ人生 木村秀政著 日本図書センター

戦後日本民間航空のあけぼの 大空に夢を託した人々の記録
鈴木五郎著 光人社NF文庫

全翼機の世界 (横川裕一様)http://www2s.biglobe.ne.jp/~FlyWing/JapaneseTaillessPlane/Kayaba-1.html

開設100周年記念 立川飛行場戦前史 横川裕一

<展示模型> 

M-01 1/5模型
HK1 1/5模型 (模型製作サンパパ工房 中宮希史様)
HK-1(航空時代・昭和15年10月号)

<展覧会情報>

八谷和彦 特別展「M-02JとHK1」~無尾翼機に魅せられて~
2022年4月27日(水)〜5月30日(月)
5月5日トークショーあり。

あいち航空ミュージアム
西春日井郡豊山町大字豊場(県営名古屋空港内)
一般800円 高校・大学生 640円 小中学生400円 未就学児無料

予約不要。ミュージアム入館料だけでご覧いただけます。

https://aichi-mof.com/events/2022/04/m-02jhk1.html

チラシ裏。

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