18/01/04 ご主人様とご主人様 作:ブルータス氏
「昔ね、ペットを飼うのが夢だったの。これはその名残よ」
彼女は寂しそうに手元の首輪を撫でた。この令嬢はとても病弱だ。ペットの持つ雑菌やダ 二、毛などは彼女の身体にとって有害になりうる。そしてペットにとっても彼女の身体の 毒は致命的なものになる。今では割りきったところのあるはちみつ子だが幼い頃にはまだ 諦められなかったのだろう。遠目に見る犬や物語に登場するペットを美ましがり、せめて気分だけでもと革の首輪を買ってもらったのだという。
「手で遊んでるだけじゃ寂しいから自分の首に着けたりもしたのよ。ホラ、ぴったり」
私はただ物置で見つけた首輪を処分していいか間きたかっただけだ。彼女のこんな寂しそうな顔を見たかったわけじゃない。思わず口が滑る。
「じゃあ今日は私を飼ってみる? 毛も落とさないしダ二もいないわよ」
鋼鉄の魔嬢だもの。口にしてからその意味に気づく。バ力なことを言った。訂正しようとして彼女の戸惑いと期待に満ちた目に諦める。こぼしたミルクは皿には戻せない。
「じ、じゃあ首輪を着けても良いかしら」
少し震えた声で彼女は要求する。断ったら冗談だと言いつつ表情に出さずに傷つくパターンだ。全てを受け入れる覚悟完了。今日の私はペットである。エリザベートの持つペットのデータがかつてメイドとして雇ったキャットの物しか見当たらなかったことだけが不安 要素だワン。やっぱこのデータやめ。
彼女に首を差し出す。首を外して渡すジョークなども考えたが破棄。ゆっくりと彼女の手 で首輪が巻かれる。自分の首に巻くときと勝手がちがうのか留め具で少々の苦戦があったが無事装着完了。恥ずかしさは人心回路に押し込めておく。
「似合うかしら」
「とても。ありがとうⅡ号機。ところでもうひとつお願いがあるのだけど」
令嬢はごそごそと普段書き物に使用している机の引き出しからもうひとつ首輪を取り出し て渡してきた。まぶたを閉じて首を差し出してくる。あるいはそれはキスを迫っているよ うにも見えるが、渡された物から考えると違うのだろう。毒を食らわば皿まで。何をやっているんだと振り返ってはならない。彼女を傷つけないように慎重に首輪を巻く。というかコレ人間用じゃないけど大丈夫かしら。
「おそろいねご主人様」
「ええ、何かしてほしいかしらご主人様」
以後この奇妙な主従関係は時々行われたという。
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