17/12/19 ハニーシュガーシリーズ② 作:どくどくウール氏

「マスター、また夜更かしして本を読んでいるのね」「うっ、Ⅱ号機…これはその…」

最近どうもマスターの体調が不安定だと思って見張っていたら、案の定だ。

マスターは面白い本を見つけると寝食を忘れて夢中で読み続けてしまうクセがある。

普通の人間ならまだしも、病弱な自分の体のことも考えてもらわないと。

「これはその?何だというのかしら。私は昨日も早く寝なさいと言ったでしょう?」

「うぅ…ごめんなさいⅡ号機。でもこの本とっても面白くて…お願い、せめて主人公のお誕生日会をするところまで読ませて!」

「ダメよ。前もそういって結局徹夜して最後まで読んでいたじゃない。今回は許しません。今すぐ寝なさい」

「むむ…わかった、わかりました!もう寝ます!」「よろしい」

ばふっと掛け布団をかぶり、マスターは眠り始めた……と、思って部屋を出てはいけない。

彼女は身体の弱さと反比例するように精神がタフであり、したたかだ。油断して部屋を出れば、また読書を再開するだろう。

「……」「……」「……」「…あの、Ⅱ号機?」「なにかしら、マスター」「どうして…出て行かないのかな?」

「私が今部屋を出ればあなたがどうするかは統計的にもハッキリしているわ。寝付くまで見張るつもりよ」

「うぐぐ…Ⅱ号機のいじわる…」「前にも言わなかったかしら?私は甘くないって。わかったのなら早く寝なさい、ハニー」

「ッ!そ、そのハニーって呼ぶのはやめてって言ったじゃないのぉ!」「先に約束を破ったのはあなたよ?ハニー」

どうも彼女は『ハニー』と呼ばれると途端に気弱になるらしい。便利なので利用してみた。このまま寝かしつけてしまおう。

「あ、あう…うぅ…だからって…そんな…」「寝るまで私が隣で見ててあげるから、観念するのねハニー」「あうっ!」

とうとう耳まで真っ赤にして顔を隠してしまった。普段あれだけ私を手玉に取ろうとしてくるのだから、仕返しというものだ。

…少し意地悪してやりたくなった。私は機械だけれど、たまにはこういう日もある。変なスイッチが入ったのかもしれない。

「ふふ、ハニーったら何を恥ずかしがっているのかしら?」「やめてぇ…」「顔を見せて頂戴ハニー。寝ているかわからないわ」

「やめ…」「いい子だからゆっくりお休みなさい、ハニー」「~~~ッ!」

「…わかった?こうやって意地悪されたくなければちゃんと寝」「もう、もう怒ったわよシュガーコート!!」

がばっと起き上がり真っ赤な顔で普段出さないような大声を上げる。しまった。少しやりすぎてしまったか。

「シュガーコート!あなたがそのつもりなら私にだって考えがあります!」「ちょっと、マスター何を!」

止める間もなく彼女は私の頭部に顔を寄せて、頬を…舌で?舐めてきた?エラーが出そうになる。理解が追い付かない。

「ぺろっ…」「何をしているの。早くやめなさい」「んん…甘くない…」「当然よ。私のボディは鋼鉄なのだから…じゃなくて」

「あなたが私をハニーと呼ぶのなら、私もあなたを砂糖菓子扱いして舐め溶かしてあげる」「言っている意味がまるでわからない」

「う…そう冷静に返されるとますます恥ずかしく…」「実際恥ずかしいし、身体にも良くないわ。すぐにやめなさい」

「…もうちょっとだけ」「甘くないって言ったじゃない」「甘くないけど甘いのよ」「意味がわからないわ、ダメよ」「おねがい」「ダメ!」

「やめないわシュガーコート。あなたが溶けるまで続けます」「やめなさいハニーシロップ。私は機械よ。溶けるなんてありえない」

「それでも。いつかあなたが溶けてしまえるようになるまで、私は…」「…疲れているのよマスター。早く寝なさい」

…寝不足と恥ずかしさでおかしくなっているようだ。結局なだめて寝かしつけて部屋を出るまでに37分も掛かってしまった。

明日起こしにいく時には枕に顔をうずめて悶絶しているだろう。朝から忙しくなりそうだ。

そう考えながら私は格納庫でスリープモードに入る。人心回路が妙にザワついて落ち着かないのはきっと、気のせいに違いない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?