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【異世界サムライ】月鍔ギンコちゃんは『目』がヤバい【感想文】

『異世界サムライ』を読みました。

「戦国時代の侍(女の子)が異世界に転移し、モンスター相手に無双しまくる」

ざっくりまとめるとそういう類の漫画です。「ああそういう類の漫画ね」と思いましたか? 私はめちゃくちゃ思いました。読み始めたのもとくに強い動機があったわけではなく、単なる偶然です。

じゃあなんでこんな感想文を書いているのか。

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 175頁

「この女の『目』をもっと見たい!!!!!!」

という気持ちを形にしたかったからです。漫画においてキャラの目は命、という格言もあります。目は口ほどに物を言う。ならば目を文で語ってもいいんじゃあないでしょうか。

今回は『異世界サムライ』のこの女こと月鍔ギンコちゃんの『目』を通して、いろいろ語りたいと思います。

ええ、そうです。どっぷりハマりました。

ギンコちゃんの好きな『目』その1

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 6頁

初の主人公顔面アップの絵面か? これが……。

『異世界サムライ』の主人公・月鍔ギンコちゃんは戦国時代末期を生きる女侍です。本作の冒頭は、名無しの侍との斬りあいにギンコちゃんが勝利する場面から始まります。

命のやりとりから生還したのになんでしょうねこの世の終わりみてぇな目は。今思えば、そんなちょっとした興味を持った時点でこの漫画に惹かれていたように思います。読者を掴むのが上手。掴みにこんなハイクオリティ絶望少女フェイス配置することあるんだ。

ギンコちゃんの好きな『目』その2

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 9頁

先ほどの目から5年前のギンコちゃんです。恋する乙女みたいな憂いと熱を帯びた表情がなんとも艶っぽいですね。
ちなみにどういうシーンかというと、

ギンコ
「武士は矢弾飛び交う合戦にて散るが誉れ」
「わた…某もそのように死にとうございます」

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 8頁

ちょっと様子が変だな。

ギンコ
「怒涛の如く押し寄せる敵兵相手に一騎当千に斬りまくり」
「そして討たれて死ぬのです」
「あとに残すは骸のみ」

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 8頁

恋する乙女のシーン、実は「侍として戦って死にたいです!!」という無邪気な夢を語っている初々しい場面だったんですねこの子怖っ。しかも相手は父です。この親子怖っ。

ギンコちゃんの根底には「戦場で散ってこそ武士の本懐」という願望が横たわっています。「死」が前提の死生観であり、「生」が当たり前の現代を生きる私たちには共感しえない価値観です。

たとえば「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」とかね。ちなみにこの格言は江戸時代中期の書物『葉隠』に書かれた思想で、本来は「死を意識してこそよりよく生きられる」みたいな意味合いだそうです。積極的に死にたがってるギンコちゃん武士目線でもどうかしてない?

娘の告白を受けたギンコちゃんの父はどうしたかというと「よくぞ言った!」と叫び、最後の稽古として真剣勝負を娘に挑みます。狂っているのはギンコちゃんだけじゃなくてこの世界と時代だった。

この一連の流れでは、父に刃を向ける瞬間にちょっとだけ泣いているギンコちゃんもぜひ見てほしいです。父であり剣の師である男との今生の別れに思うところがあるのだなぁ、と伝わってきます。そして「そういう親愛の情より戦って死にたい願望が上回るのどういう思考回路だよ」と最高に気持ちよく混乱できます。

ギンコちゃんの好きな『目』その3

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1話 KADOKAWA 27頁

父上を斬殺して天下分け目の関ヶ原に参戦するギンコちゃん。人って「これから死ぬぞ!」の気持ちでこんな爛々に目を輝かせられるんだ。

ギンコちゃんの好きな『目』その4

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1話 KADOKAWA 36頁

死ぬために挑んだ関ヶ原でしたが、ギンコちゃんは強すぎました。戦場で「鬼」と恐れられるほどの大立ち回りを見せるギンコちゃんを殺せる者はなく、見渡すばかりの屍の荒野のなか彼女ひとりが生き残ります。

生還"してしまった"ギンコちゃんが大粒の涙を流しながら回想した幼き日の自分が画像の目です。思い出の中のギンコちゃんは、未来に自分が殺すことになる父上から「侍とは何か」を教わります。

ギンコちゃんの父
「死は誰だって恐ろしい」
「しかし武士は不退転の覚悟でそれすら顧みず 信念のために 戦って死ぬことができる」
「私はそんな武士の生きざまに刀のようにまっすぐで潔い美しさを感じるのだ」

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 35-36頁

個人的な思いつきなんですけど、ギンコちゃんの「戦って死にたい」気持ちは「大好きな父上がこう言うのだから戦って死ぬ侍はすごいのだ」から始まったのではないでしょうか。武士道とか死の哲学とかそういう難しい話ではなく、子どもが親の真似をするように無垢な憧れを抱えたまま成長したのが、関ヶ原で生き残ってしまったギンコちゃんであると。画像の純粋すぎる瞳を見ると考えます。

だからこそ回想の直後に生首を持ちあげて「某(それがし)ひとりのけ者はいやです」と号泣するギンコちゃんの目が少女のように弱弱しいのかもしれません。

ギンコちゃんの好きな『目』その5

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1話 KADOKAWA 41頁

拙者「あ、こいつ終わってるんだな」と直感的にわからせてくれる目が大好き侍!

戦国時代に終止符が打たれ世間が天下泰平へと向かっていく中、ギンコちゃんは死に場所を探す人斬りと化します。もちろん自害はありえません。ギンコちゃんは「侍として戦って死ぬ」のが望みなのですから。そのため、斬る相手も自分を殺してくれそうな強い武士のみを狙います。

しかし誇り高く死ぬために鍛えぬいたギンコちゃんの剣技を受けきれる者はなく、気づけば100人を超える骸を積み重ねることに。クリア後のやりこみ高難易度コンテンツなのになぜかそこらへんのダンジョンに発生する触れちゃいけないタイプの敵か?

矛盾するんですけど、関ヶ原で死に損なかった時点でギンコちゃんは死んだのだと思います。平和な世で武士を斬りつづけるギンコちゃんは、いわば歩く死体、あるいは生きているだけの抜け殻か。

『異世界サムライ』の面白いところは、第1話を「異世界に転移する前の主人公の半生」の説明に費やしている点です。

「もうこの子は平和な江戸時代を生きられないから異世界でも行ってきなよ……」

そう読者に思わせてから、満を持してギンコちゃんが異世界に転移して第1話は幕を閉じます。初見では「異世界に行ってくれてよかった……!」とホッとしたのをよく覚えています。

戦国時代では見つけられなかった死に場所にギンコちゃんがたどり着くのか、それともまったく違う結末になるのか。カタルシスと期待感を同時に味わわせてくれる、すばらしい第1話でした。

え、この記事ここまで読んでおいて実は読んでない!?

第1話はここで無料で読めるから読みな!!! もう読んだならもう1回読みな!!!

ギンコちゃんの好きな『目』その6

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 72頁

「今日の晩御飯なにかなー?」みたいな目してるだろ? オーク輪切りしてるんだぜ。

異世界に飛ばされたギンコちゃん初の戦闘です。街を襲うオークを見開きでサクッとやっつけてます。序盤の無双展開は異世界転移ものの華ですね。
この目が好きな理由は「今日の晩御飯なにかなー?」って思ってそうなところです。命を奪っているのに何も感じてなさそうなんですよね。

異形とはいえ命は命です。私たち現代人も虫や鼠を駆除するときにちょっとは「うえ」って顔しちゃう人が多いと思います。自分で死体を作りたくない、命を処理したくない。言い方はいろいろありますが、そういうケガレを忌避する精神は普遍的なものでしょう。

ギンコちゃんにはそういう"ためらい"がありません。日常と殺害が違和感なく同居している。読者にとって異質な精神性を絵だけで表現しているこの目には惹きつけられるものがあります。

ギンコちゃんの好きな『目』その7

齋藤勁吾『異世界サムライ』第1巻 KADOKAWA 126頁

恋を見つけた瞳をしておる。少女漫画ならヒーローのカッコいいところを見たヒロインで通用しますね。ここはシンプルにかわいいから好きです。

実際は異世界を守護する勇者の存在を知って「自身の希望(きょうしゃとしにばしょ)がここにある!」と感じ入った顔なんですけど。そのうち勇者襲って世界の敵にならないだろうなこの子。

ギンコちゃんの好きな『目』その8

齋藤勁吾『異世界サムライ』第5話後編 6頁

いろいろあって異世界の主要都市・王都(アヴァロン)にたどり着いたギンコちゃん。人々が賑わい魔物の影もなく、平和を象徴するような王都を見たギンコちゃんの目です。瞳孔ガン開きで平和な街を品定めするの人でなしポイントが高すぎる。

ギンコちゃんって死生観は蛮族戦国時代ですけど、人並みの倫理観はちゃんとあるんですよね。平和な王都を見て「くだらない」とかではなく「自分のいろべき場所ではない」と考えるんです。自分の方が異端でまっとうなのは向こう側である。その境目を把握できているわけです。

そんな冷静な人格の持ち主が「強者と戦いたい」「誉れある死を遂げたい」狂気を抱えている二面性が、ギンコちゃんという主人公に深みを与えているのかもしれません。

ギンコちゃんの好きな『目』その9

齋藤勁吾『異世界サムライ』第5話後編 12頁

「見ろよこの何も考えてなさそうな目」

「失敬なちゃんと考えてるぞ『魔物に人質とられたけど人質も潔い死を望んでいるだろうから気にせず斬り殺してもいいだろ』って」

「何も考えてない方がましだよ」

ギンコちゃんの好きな『目』その10

齋藤勁吾『異世界サムライ』第6話 14頁

夜道で後ろにコレがいたらショックで死ぬ。

でも最後に見る光景がギンコちゃんの目ならそれはそれでいいかな……。

最後に

今回はギンコちゃんの目に絞って『異世界サムライ』の話をしました。性癖だけでnote書くってこんなに楽しいんですね。

さて、『異世界サムライ』はコミックウォーカー、ニコニコ静画で連載中です。今回は主人公のギンコちゃんだけに焦点を当てましたが、ほかにも見どころは盛りだくさん。圧巻の画力をフル起動させた剣戟アクション、テンポのいい展開、乳と腹筋とパンツラインが浮かび上がる不思議修道服を愛用するエルフシスターetcetc……ええい御託はいいからさっさとお読み! 単行本1巻も発売中だよ!

今回はこのへんで。ではまた。


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