18/01/04 開かなくても良い扉 作:ブルータス氏
「こまったわねえⅡ号機」
まったく困ってなさそうな声で彼女は叱いた。一緒に荒縄で動けない身としてはどうして この状況で危機感を覚えてないのかが気になる。
それは完全に不幸な事故だった。アマゾネスドットコムでは大量の物資を購入すると荷物を荒縄で纏めて配達することがある。こちらとしても纏めてあれば楽なので次の受け取りの際、前回使用した荒縄を返却していた。リサイクルもまたイノベーション。今回はそれが悪い方へ転がってしまったのだ。
ほどいた荒縄を纏めるのをはちみつ子が手伝ってくれた。二人で雑談しながら縄を弄って いると地震が発生。そして停電。暗闇の中二人でもみくちゃになり、気がつくとお互いの身体に縄が絡まっていたというわけだ。こういうのはエリザベートオリジナルの領分ではないだろうか。言い訳をさせてもらうなら彼女の身体を下敷きにしないように必死だったのだ。
都合の悪いことに病弱な令嬢の首をぐるりと荒縄が一周しており、ぴったりとくっつくように縄の絡み付いた私の両手がある。迂圏に動けば直ぐに彼女の首が絞まるだろう。自分 一人ならば力ずくで抜け出すなり兵装で焼き切るところだが彼女の命を危機にさらすわけ にはいかない。困った。
「マスター、何か気づいたことはあるかしら」
「Ⅱ号機に床ドンされてるってことくらいね。あと首がチクチクする」
割と余裕があるようだ。前半についてはあまり意識しないように頑張る。手を動かさないように意識しつつ下半身に動けるスペースが無いかを探ってみる。尻尾が長すぎて引っかかる。メカエリチャンⅢ号機の開発の際には収納式か着脱式を提案しよう。
「ちょっとくらいなら首絞まっても大丈夫よ?」
「大丈夫なわけないでしょ。私と違ってすぐ天国行きよ」
首、くび。あ、その手があった。
体勢を調節して被害の無いように実行する。
「よいしよっと」
私の首が外れ、頭が床に落ちる。この頭分のスペースを活用して身体から縄を外していく。
「でも、少し楽しかったわ」
そんな舌気な事を言いながら彼女は私の首を再装着。はちみつ子が開かなくても良い扉を垣間見た一時だった。
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