【幻覚】PS Vita対応ADV『ウマ娘』アグネスタキオン√を忘れるな
2024/3/24
・二次創作ガイドラインをふまえて一部を修正、再公開したフィクションです。
劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』上映前後に公開終了するかもしれません。画像を除く本文の保存は個人使用の範囲でどうぞ。
2021/3/20追記 2021/3/22記事末尾より移動
・本記事の内容がウマ娘公式の「二次創作ガイドライン 」(https://umamusume.jp/derivativework_guidelines/)に抵触すると自己判断した場合、本記事は速やかに削除いたします。ご了承ください。
3月某日、スマホアプリ版『ウマ娘』でアグネスタキオンを育成した。
2015年に発売したPS Vita対応テキストアドベンチャーゲームの方の『ウマ娘』の一ファンとしては正直、期待7割不安3割の心境で手を出した。
だがグッドエンディングを見届けたころには「よくやってくれたサイゲームス」と清々しい気持ちになれた。
6年越しの"果て"を俺に見せてくれて本当にありがとう。
今回はPS Vita対応ADV『ウマ娘』アグネスタキオン√の思い出を語りつつ、スマホアプリ版『ウマ娘』のアグネスタキオンURAシナリオの話をしたい。
※両タイトルにおける核心が含まれるので、気にする人はアプリ版「Report『告白』」イベントだけでも先に見てほしい(クラシック級菊花賞クリア直後に発生)
1.アグネスタキオン√には4つのEDがあった
アプリ版アグネスタキオンシナリオの感動を語るには、やはりどうしてもPS Vita版アグネスタキオンルートをふり返らなければならない。
PS VitaはPSPの流れを汲んでおり、『STEINS;GATE』『ダンガンロンパ1・2 Reload』など名作ADVが多数遊べるハードだ。ギャルゲーに限っても廉価版『アマガミ(エビコレ+)』があるし、乙女ゲーならば『Collar×Malice』は文句なしの傑作だろう。
PS Vita版『ウマ娘』もその例に漏れず、サラブレッド美少女化サウンドノベルの金字塔としてPS Vita界隈をおおいに盛りあげた。
主人公は新人トレーナーとしてウマ娘の担当となり、トレーニングやレースをとおして3年間をともに過ごしていく。これはアプリ版と同じだ。
アグネスタキオンも違いは少ない。「ウマ娘の肉体的限界を超越し、限界の先の速度に到達する」という命題のためならなんでもやる科学者ヒロインとして登場。ダイワスカーレット、ナイスネイチャ攻略後に挑戦できる3人目のヒロインだ。
アグネスタキオンルートの主人公はひょんなことから彼女の走りを目撃し「彼女がめざす限界の先を見たい」その一心で自らモルモットを志願する狂気に落ちる。
タキオンも主人公のまっすぐな狂気にあてられ、故障寸前の足を切り捨てるおだやかな諦観を崩壊させていく。
お互いがお互いを狂わせていく展開が見どころの名シナリオだ。
その作風から「これはもはや乙女ゲー」「いやギャルゲーだ」など当時はちょっとした論争もあったが、本記事では中立の立場をとっておく。
さて、アグネスタキオンのルートの特徴はなんといってもエンディングの種類が多い点だろう。
本当に多い。ダイワスカーレットはトゥルーかグッド、ナイスネイチャがトゥルーかノーマルの2種類であるところ、アグネスタキオンは4種類もある。
これは彼女の核心である「プランA」「プランB」の存在が大きい。
「自らの足でウマ娘の限界速度の先をめざす」プランA。
「自分の足を犠牲にしてでも研究を進め、他のウマ娘に夢を託す」プランB。
アグネスタキオンルートの根幹をなす要素であり、4つのエンドを書きだしてみればその重要性は一目瞭然である。
ファンにとって印象深いのはやはりバッドエンドB、通称「泣き笑いルート」だろう。
このエンドは条件がとても厳しく、プランAをタキオンに選択させ、蓄積疲労ステータス150~189の状態で夏合宿を始めなければフラグが立たない。
蓄積疲労が低ければトゥルーエンド一直線だし、高すぎればプランBルートに入る。
この調整がとにかくシビアなのだ。とてもじゃないが偶然入ることはまずありえない。プレイヤーが意図的にこのエンドを見たいと思わなければまず到達できないバランスに調整されている。
そしてたどり着けば待っているのは、しわくちゃの勝負服を抱きしめながら大粒の涙をこぼし、それでも狂ったように笑いつづけるタキオンの姿である。
PS Vitaは生産を終了し、ソフトも中古市場にすら流れなくなって久しい本作。
だが、未プレイの方はぜひその目でアグネスタキオンが心から折れる唯一のシーンを、絶句するほど美しい夕焼けのスチル絵と「私は●りたかったんだ」というモノローグとともに見てほしい。心身の健康は保証しないが。
※備考※
バッドエンドBは当時さまざまな解釈、考察、妄想、幻覚などが広まり、後日のDLCで追加されたマンハッタンカフェ√で真相が明かされた。
2021年3月時点でアプリ版『ウマ娘』にマンハッタンカフェ育成シナリオは未実装のため、この記事ではふれないでおく。
2.時限爆弾のマッドサイエンティスト
他にもアグネスタキオンルートはなにかとプレイヤーの心にダメージを与える演出が多い。
初回は必ずタキオンが故障してしまうプランB固定もなかなかだが、もっと凶悪な演出は彼女が3番目に攻略するヒロインである、という点だろう。
他ルートでのタキオンは「トラブルメーカーのマッドサイエンティスト」というありがちな属性のサブヒロインでしかない。
唯一ダイワスカーレット√ではやけに首をつっこんできてギャルゲーの親友ポジションになっていくが、攻略ヒロインが4レース目で目標を達成すると急に出番がなくなる。
本当にパッタリと。なんの前触れもなくいなくなる。
4レース目とはアグネスタキオンルートで彼女がプランBの本格化を画策するタイミングだ。
主人公という運命に出会えなかった他ルートの彼女は、だれにも気づかれぬようひっそりと消えてしまう。
他ヒロインのエンディングで言及されることもなく、真相が判明するのはアグネスタキオン本人のルートだけだ。
運命に出会えなかったウマ娘を2回も見過ごさなければ本当のアグネスタキオンとは出会えない。
しかもその事実をプレイヤーが知るのはトゥルーエンドに到達した瞬間なのだ。"あの"トラブルメーカーのマッドサイエンティストはどこへ行ってしまったのか、知る由はない。
このように、なにかと強烈な3人目のせいで4人目のトウカイテイオー√(通称:憧れの人が母親だったらどうする?ルート)以降を遊ぶ気になれずPS Vitaを引き出しにそっと封印したプレイヤーも少なくない。
かくいう筆者も当時受けたアグネスタキオンの衝撃を忘れることができないまま6年が過ぎた。そして6年後に登場したのがいま大ブレイク中の人気スマホアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』である。
もちろん、アグネスタキオンもそこにいた。
3.アプリ版が見せてくれた"果て"
アプリ版でのアグネスタキオンの物語はPS Vita版トゥルーエンドを根底に、往年のファンが夢見た果て、いわば救いを用意してくれた。
「Report『告白』」から「翌年の有マ記念」までの空白の1年、さらにその先をいかんなく見せてくれたのだ。
PS Vita版では「Report『告白』」イベントから一気に年末の有マ記念まで時間が飛んでしまう。そこに至るまでのアグネスタキオンの活躍は回想のかたちで語られるのだ。
出走直前の控え室で主人公とアグネスタキオンは懐かしむように数々のレースを語りあう。
大阪杯での完全勝利、天皇賞春におけるステイヤーとしての覚醒、ジャパンカップでくり広げた海外強豪との死闘……いずれもその走りをプレイヤーに見せることはなかった。
アプリ版は育成ゲームだからこそプレイヤーも彼女の激走を見届けられる。まさに"超光速の粒子"たる才能をいかんなく発揮し、トゥインクルシリーズを蹂躙するアグネスタキオンと6年越しに出会えるのだ。
日常パートの補完も見逃せない。
プランA後のアグネスタキオンはさらに貪欲に速さを求め、感情に興味を抱くようになる。
観客の声援が筋力発揮に優位に働く新発見。
マンハッタンカフェとのライバル関係。
下心なしで過ごしたモルモット君とのクリスマス。
いずれも限定販売の設定資料集『トゥインクル☆マテリアル』で簡単に触れられたイベントだったが、くわしい内容は語られないまま終わってしまった展開だ。
トゥインクルシリーズでの活躍ともども「そこをちゃんとやれよ!!!」と叫んだプレイヤーは数知れず。
pixivはイラスト漫画小説を問わず「Report『告白』」~「翌年の有マ記念」の日々を描いたアグネスタキオン二次創作で溢れかえっていた。
そんなファン待望の展開を公式はアプリ版ですべて出してくれた。
有マ記念に至るまでの激走も、感情の研究にまつわる日常もすべてだ。さらにはグッドエンディングというかたちで「有マ記念後の2人がどうなったか」までを示した。
それらは6年前、あの日アグネスタキオンというウマ娘に捉われたプレイヤーが夢見た"果て"そのものだった。
よくやってくれた、サイゲームス。
ありがとう、ウマ娘プリティーダービー。
4.Report『真相』
え?
ない?
2015年発売PS Vita対応ADV『ウマ娘』アグネスタキオン√なんてない?
プランAへの後悔と背中を押してくれたトレーナーへの気持ちと自身の本当の願いすべてに気づいた美しきアグネスタキオンは実在しない?????
4レース目を最後に日常パートでもエンディングでもその後が語られないままフェードアウトした"あの"アグネスタキオンはどこにもいない?????
ウマ娘のゲームは2021年2月リリースのスマホアプリ&DMMゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』だけ???????????????????
ジャパンカップで強豪たちと熾烈な直接対決をくり広げるも「彼女たちはライバルとはいえないな。実力的には申し分ないのだが…」と語って終わるお気に入りの二次創作小説あったよ。10000user入りしていた。
バッドエンドB後のタキオンとモルモット君が同棲するだけの漫画もあったよ。Twitterで流れてきたからりついいねしたし。
タキオンのお弁当をつくる謎のミニゲームめっちゃやりこんだし3レース目終了後に控え室に意味深に佇むタキオンのイラストとか有名でしょちなみにモルモット君はダイワスカーレットのトレーナーなので4レース目が終わったらこのタキオンはあとあとあとええと。
ないの!?
本当に!?
どうやら長い夢を見ていたらしい。
だが、それもやむなし。そう言い切れるほどにアグネスタキオンのURAシナリオは名作サウンドノベルと言い張っても通るであろう、非常に上質な狂人たちの物語だった。
トレーナーはアグネスタキオンに狂い、アグネスタキオンもまたトレーナーによって諦めを拒絶する。
その先に待っていたハッピーエンドは、史実において故障でわずか4戦しか走れなかったとある名馬が有馬記念を駆けぬける極上のイフだった。
史実のアグネスタキオンは2000年12月新馬戦から2001年4月の皐月賞までのわずか4ヵ月、わずか4戦で人々の目を眩ませた、正真正銘光のようなサラブレッドだった。
故障さえなければ三冠達成も十分にありえたとすらいわれている。
「もしアグネスタキオンが5戦目、6戦目、さらにその先も走っていれば」
それはあのサラブレッドを知る者ならだれもが夢想する"もしも"だ。
ウマ娘から興味をもって調べた新参者の私ですらそう思うのだから、当時を知る競馬ファンの心境は計り知れない。それほど映像に残るアグネスタキオンは速い。とてつもなく。
ウマ娘のだいご味のひとつ「"もしも"への挑戦」をケレン味たっぷりに、しかし光速のサラブレッドへのリスペクトを存分に込めている。
狂っていながらも誠実。
それがアグネスタキオンURAシナリオだった。
めちゃくちゃ面白かったんだ。幻覚を見るほどに。
最後に
ここまで読んでおいてアグネスタキオンをまだ育てていないトレーナーは今からでも遅くない。ぜひ彼女をURAに挑戦させてやってほしい。
そしてあわよくばPS Vita対応ADV『ウマ娘』アグネスタキオン√は不可抗力の幻覚だったとほんの少しでも思えるような感動を受け取ってくれれば幸いである。
でもドブ川みてえに綺麗な瞳にハイライトが差したトゥルーエンドのスチル絵だけは絶対に見たことあるんだ。
うまぴょい伝説でハイライト多めなのはそのモチーフなんだ。
そうに違いないんだ……。
ないんだよ……。
※2021/3/20追記
・こちらの記事はあくまで与太話です。ウマ娘のゲームがPS Vitaで発売された事実は本当にありません。
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