18/01/07 令嬢と絵描きの逢瀬 作:鳥丸氏

とろりと光る蜂蜜色の目を縁取るまつげは艶々と長い。肌はやわくしろく、窓から射し込む光を受けた髪の毛は肩からしゃらりと流れた。 彼女は、今日もうつくしい。 「あの、鳥丸おねえさん?」 かわいらしい声で我に返る。どうやら長いこと見つめてしまっていたようだ。落ち着かないといけない。 「あっ…ごめんね。そうだな、それじゃあ次は顔を横に向けてくれる?」 そう言うと、彼女は少し首を傾げてから横を向く。よし、誤魔化せた。平常心、平常心だ。いつもはなんてことは無いことなのに、この子の前ではとたんに難しくなってしまう。今も視界の端でスケッチブックがバタバタと動いた。彼女は気づいていないけれど、私の動揺はこうして目に見えてしまうので恥ずかしい。 頬の熱さを感じながら、こうしてこの可憐な令嬢の絵を描かせてもらう。信じられないけれど、信じたくないけれど、彼女の生は長くはないと担当医から聞いていた。周りを侵す彼女の毒は、彼女の体をも蝕んでいるのだ。 先の短いその貴重な時間を、私とのおしゃべりに当ててくれることがいつも泣きそうになるくらいに嬉しくて、胸をかきむしりたくなるほどに悲しい。 だから、彼女を描くのは私のわがままだ。そして、きっと禁忌だとわかっている。でも、それでも。 また黙り込んでしまった私に笑いかける、大好きなその姿を、疎ましく思ったこともあるこの力で描く。 いつまでもこの世に留めておきたいと、願いを込めて。

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