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変えるべきこと、刷新すべき時(18.山風蠱)

沢雷随の次に出てくるのが、山風蠱(さんぷうこ)。

山風蠱

蠱という字は、皿の上の食べ物に虫が湧いている様子を表した形です。
字のイメージの通り、山風蠱は、腐敗や澱みがあるような状況を表します。
一方で、その状況を「変えられる」「刷新できる」という力強さを同時に持ち合わせている卦でもあります。
 
風が山にぶつかって通り抜けられず、行き詰まり、空気が澱んでいるような、山風蠱。
それは、風通しの悪い状態や、流動性がなく閉鎖的な組織で不正や癒着が生じやすく、自浄作用が働かずに問題が長引きやすい様子に重なります。
 
たびたびニュースで報じられる、企業の不正問題や政治資金問題、組織の中での加害問題など、数十年にわたり問題が続いていたということは少なくありません。
長年続いてきた問題には、多くの人が関わっているはず。それは長い期間、多くの人が法律違反や犯罪となるような大きな問題を見逃したり隠したりし続けてきたということでもあります。閉鎖的な組織の中に入ってしまうと、だんだんと善悪の感覚が麻痺していくといいます。大きな組織で続いてきたものだから大丈夫だと問題から目を背けたり、保身のために長いものに巻かれ続け問題を問題と思わなくなったり。
善悪の基準や一般的な感覚が麻痺していく状態は、少しずつ蠱毒(こどく)に侵されるようなものかもしれません。蠱毒とは、気づかないように盛られた毒。
 
腐敗した物から目を背けて放置すると悪化するだけなのと同じように、山風蠱で表される問題は自然に消えることはなく、やがて全体を蝕んでいきます。
根本的な解決を図るべき時を表すのが、山風蠱です。
 
一つの前に出て来た沢雷随が、他者や環境に随(したが)うことを良しとしていたのに対して、山風蠱は、随うのではなく変えなければならない状況、そして状況を変える力があるということを表します。
 
『易経』の山風蠱の卦には次のような意味の言葉がかけられています。

大きな川を渡るような、大きなチャレンジをするのに適している。
事の始めの三日前、三日後のように、気持ちを新たに、丁寧に物事に取り組むこと。

(大川を渉るに利し。甲に先だつこと三日、甲に後るること三日。)

大きな川を渡ることを後押しする言葉は、リスクを取って行動すべきであるという状況を表します。チャレンジングではあるけれど、向こう岸に行くにはリスクを取って行動するしかない。
 
ただ、義憤にかられて衝動的に断罪したり、行きあたりばったりで対処したりするのではなく、問題を正しく把握し、できるだけ整理し、どうすればよいのか中長期的な視点で考えることを大切にしなければいけないことが、続く言葉で示されています。大きなことを変える場合は、時に根回しやフォローも大切です。
 
犯罪のような明らかに悪いことだけではなく、昔は良いとされたことでも、時代や環境の変化によって変えていく必要があることもあります。
隆盛を誇ったものや、成功を収めたことほど内部に、驕りや惰性が生じやすく、うまくいっているように見えることに従っていれば安心、という思考停止を生みやすい。そんな思考停止こそが、山風蠱の表す問題なのかもしれません。
 
山風蠱の示す、これまで続いてきた問題を断ち切り刷新しようとすることは、過去に囚われずに、時代の変化に対応していくことでもあるのだろうと思います。

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