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竜の話(1.乾為天)

易について書かれた書物『易経』(えききょう)の初めを飾るのは、陰陽の陽だけで構成された「乾為天(けんいてん)」。

(乾為天)

 健やかで力強いこと、また活動性や積極性の象徴である陽。そんな陽だけで成り立っているのが「乾為天」です。
 
「乾為天」には竜の六つの姿が描かれています。

① 地中に潜っている竜、行動してはならない
② 地上に現れた竜、優れた存在に会うのによい
③ 朝から晩までひたすらに努力する様子、夜にも過失がなかったかと自分を戒めるような態度ならば、危うさはあるものの問題はない
④ 迷いつつ試行錯誤する様子、そのように慎重な姿勢であれば問題はない
⑤ 空高く飛ぶ竜、優れた存在に会うのによい
⑥ 昇り過ぎてしまった竜、降りられなくなり後悔する

竜は、地中に潜むこともあれば天高く飛び回ることもある、変幻自在な想像上の生き物。農作物に不可欠な恵みの雨をもたらすとされる竜は、才能に溢れ大きなことを成すことのできる存在です。
ここで描かれる「竜」は比喩的に、天の働きを表すものとも読めますし、才能を持った人物、優れたものなどとも捉えることができます。
 
竜を天の働きとして捉えれば、六つの姿が示しているのは、ふさわしい時にふさわしい行動を取る必要があるということ。才能のある人や優れたものとして読めば、才を生かすためには、踏むべき段階があるということ。
 
すばらしい物であっても、その物が必要とされるタイミングでなければ無用の長物になりますし、優れたポテンシャルを持っていても、適切な訓練や準備のないままでは力は生かせません。竜が悠々と空を飛ぶ⑤の前の①~④の段階では、その時々に必要な行動や鍛練が積み重ねられていることが描かれており、物事がうまくいった後は高く昇り過ぎて降りられない竜という姿で、傲慢さや欲深さが生じて失敗しやすい様子を表しています。
 
易は古代からの知恵といえますが、物事の進み方や何かを成すのに大切なことは、今も昔も基本的なことは同じなのでしょう。初めの段階では焦らずしっかりと基礎を固め(①)、人からも学び(②)、一心不乱に努力する(③)。そうして行きつ戻りつしながら進み(④)、時が来れば空高く舞い上がるように存分に力を発揮する(⑤)。そして、うまくいっている時ほど自分を過信したり、驕ったり、欲をかいたりしないよう注意しなければならないこと(⑥)。竜の話は、自分は今どんな段階にいるか、どの段階の行動が必要かを考え、立ちかえる指針となります。 

「乾為天」の竜の六つの姿は、竜が広い空を悠々と飛ぶイメージとともに、目標に向かって進んでいくために必要なことを教えてくれます。
 
今年は辰年。年明早々、大きな災害のニュースが流れ、心が揺さぶられるような感覚があります。しかし陽の象徴でもある竜は主体性の象徴。入ってくる情報に振り回されすぎず、自分ができることやすべきことに集中すること。大空を舞う竜の姿を思い浮かべるように目標を描いた後は、一日一日、目の前のことに集中してやるべきことをやっていく。大変な中だからこそ改めてそんな姿勢を大切にしたいと思う年の始めです。

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