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一歩を踏み出す(10.天沢履)

風天小畜の次に出てくるのが、天沢履(てんたくり)。

天沢履

履は、「履(ふ)む」こと、足を踏み出して物事を実際に行うことを指します。履行の履で実行すること。
風天小畜で少しの間止まっていたこと、留められている間に準備していたことや温めていた思いを実行に移すのが、天沢履。
それは未知の困難に踏み出すような挑戦でもあります。
 
『易経』の天沢履には次のような言葉がかけられています。

虎の尾を踏んでしまうが、虎は人に噛みつかない。思うことは通る

虎の尾を履む。人を咥わず。亨る

ここでの「虎」とは、立ちはだかる障害や危険やリスク。時には進むことを阻もうとする抵抗勢力や乗り越えなければならない壁かもしれませんし、失敗することや周りの反応やそれらへの恐怖感という場合もあるかもしれません。
 
天沢履の時というのは、どこか欠けた状態で進まなければならないようなものです。間違って虎の尾を踏んでしまうような失敗をする可能性も高い。けれど、正しく進めば、虎に噛みつかれるような取り返しのつかないような事態には陥らない、ということを上記の言葉は表しています。
 
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言いますが、何のリスクもなく何かを手に入れることはできないもの。完璧な状態になってから始めようなどと思ってもそんな時は永遠に来ないものですし、チャレンジには失敗がつきものです。小さな失敗を積み重ねてその経験から学び次に生かしていくことの方が大切。簡単に事は運ばないかもしれないけれど、それでも欲しいものがあれば行動が必要で、一歩踏み出すことを後押しするのが、天沢履の卦だと言えます。
 
ただ「虎の尾を履む」という慣用句は、非常に危険なことをすることのたとえとして使われるとおり、危険と隣合わせであることには変わりありません。
 
天沢履の一つ一つの陰陽を見ると「虎が人に噛みつく」すなわち取り返しのつかない失敗となる場合があります。それは、自分を過信し物事を甘く見て行動したり、他者への礼儀を欠く態度の場合。特に目上の人に対して礼を失することが命取りになることがある、ということも示しています。
 
新しいことに踏み出す時、怖がりすぎもいけないし、向こう見ずでもいけないもの。傲慢にならず慎重に、でも子供のような素直さや楽しむ気持ちを持って。
行きたい方向へと、目の前の小さなことでも行動に移していくこと。
 
天沢履の「履む」とは、そろりそろりと新しい一歩を踏み出すことだろうと思います。

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