見出し画像

機を待つ(5.水天需)

幼く無知な状態を表す山水蒙(さんすいもう)の次に並ぶのは、水天需(すいてんじゅ)。水天需は「待つ」ことを表します。

水天需

「待つ」という意味のほか「養う」という意味も持つ、水天需。幼い子どもが成長するには食事や身の回りの世話や教育などの他、必ず時間がかかります。作物が実をつけるにも人が技術を身につけるにも、必要になるのが時間であり「待つ」こと。成したいことが大きいほど時間がかかり、待つことが必要になるもの。時を待つことの大切さを説くのが水天需です。
 
水天需は、どこかに向かおうとしている時に雨が降り続いて、しばらく宿で待機をしている様子に例えてもいいかもしれません。人には雨を直接的に止ませることはできません。でも雨は必ずいつかは止むもの。状況が整わない中で無理に進もうとせず、英気を養ったり出発の時に備えて準備をしたりすべき時、といえるでしょう。
外的な環境は変えることはできないけれど、自分自身の力を高める努力はできる。それは、自分によいポジションが与えられないことを不満に思ったり、チャンスをもらえたら頑張れるのにと愚痴を言ったりして過ごすのではなくて、急にチャンスが巡ってきた時にすぐに力を発揮できるような状態になるべく今できることを一所懸命にするようなものかもしれません。
 
または、向かおうとする方向に大きな川が横切るように流れ、進行を阻まれているような状態と見ることもできます。やはり強引に向こう側へ進もうとするのではなく、渡るための準備をしつつ機を見ながら待つ必要があるという状態です。
この時の大きな河川は困難や危険の象徴ですが、水天需は内側の充実を図りながら機を待てば、いずれ困難は乗り越えられるという明るさを持つ卦。機をうかがう積極的な待ちの姿勢です。
 
機を待つこと、機を見ること。「機」は「時」ともいえますが、全体を通して「機」を重視するのが易。易の六十四卦そのものが、それぞれの卦はどのような時か、ということを表しています。
物事は往々にして実力や正しさだけではなく、タイミングや気運や流れといったものも結果に影響するものです。もちろん実力が大切なのは間違いありませんが、自分自身だけではなく環境も、物事の成就に影響するということ。それは春に蒔くべき種を秋に蒔いてもうまく育たないように、作物が実をつけるには時間がかかるように、自然に近い生活をしている時代の人々から生まれた考え方なのだろうと思います。
 
焦って無理に進もうとせず、時を待つ余裕を持つこと。それは長期的視点を持つことだったり、ゆったり構えることだったり、視野の広さであったり、今の自分にできることをすることだったり、忍耐力を持つことであったりするのでしょう。流れを掴む「運の良さ」とは、そういう精神的な余裕や視野の広さから来るのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?