角谷美知夫、腐っていくテレパシーズを聴いている
角谷美知夫、腐っていくテレパシーズ
テレパシーなんてウンザリだ。から始まる12トラックのCD。途中にはライブ音源も3つほど挟まっていて、当時の70年代後半から80年代の時代の角谷が生きている世界が丸ごと詰まっているCD。このCDは現在1万円くらいするので俺はまだ手に入れられていない。これに1万を払う価値があるかどうかは人それぞれだと思うが、少なくとも俺にはその値段は払えないな。
そんな風に書くと良くないのかというと全く逆でずっとYouTubeでずっと音楽が聴ける時間はずっと聞いている。軽い中毒症状が出ている。一人のアーティスト、アルバムにハマったのは久々な感じがするのでこうして文章にしてみているというわけだ。
理屈的な良さみたいなことを書くのは苦手なので俺の感覚的なことを書いていきたいと思う。
1.テレパシーなんてウンザリだ
1曲を通して基本は同じビートの繰り返しでコードの妙みたいなものもなく繰り返しばかり。ただその合間合間に「こんな女たちウンザリだ」「ウンザリだ」とかなんだか色々文句のようなものが飛び交う。リズムをやや無視したリードギターがなったり、右から左へ左から右へ、ギターのトラックが移動していたり。そしてまた「いつまで考え続けなければいけないのか」とか早回しにした声とかが飛び交う。聞いていると頭の中でイライラしたりヘラヘラしたり、悲しくなったりしている気まぐれな精神状態にピッタリはまってきている。リズムはずっとドラムマシーンがピーシャカピーシャカなっていて、それが時たまクリアに耳に入ってきたり、なっていない気がしたりする。そうこうしているうちに一曲が終わってしまう。
2.俺のそばに
甘いギターが流れ、相変わらずのリズムマシーン、「ちっちち ちっちち」
「俺のそばに誰もいないのに 気づけなかった」と言っている。歌っているというより言っているのだ。角谷美知夫の声が朗読のように聞こえている。ただ紛れもなくソングなのだ。
1曲目とは対照的な甘ったるいトーンのギターが懐かしい気分にさせてくれる。何が懐かしいかわからないけど、ガロを読んでいるような気持ちだったり昭和の風景写真を見ているような気分。
全体が5分くらいで展開がほとんどない曲でこういうまったりとした時間がずっと続くとやはり後半心地良くなってくるもので、後半バスドラムみたいなものに物凄く長いリバーブがかかって「どーーーん どーーーん」と花火が打ち上がっているような気分にさせてくれる。サイケデリック。
3.青い再会
相変わらずリズムマシーン「ツチっチー、ツチっチー」である。このトラックではベースが聞こえる。なんとなくコード回しも増えてきて、なるほどなという感じがする。青い再会とは一体どういう意味で名付けられたのだろうか。声が全然入っておらず、最初の二曲とは違い音のイメージが膨らむ。言語情報や人の肉声によって想起させられる肉体感がない。そのまま気づくと終わってしまう。気づいたら終わってしまう感じがまた良い。
4.エスケイプ・アウェイ
何を言っているかわからない声が短いディレイをかけられて流れる。うめき声に近い声で何かを言っているような気がするのだが聞き取れない。リズムトラックがなっておらず、ギターの有機的なサウンドが印象的だ。エスケイプ・アウェイ。どこかに逃げているのか、ぶっ飛んでいるのか。おそらく後者であろう。長いこと酒を飲んだり(角谷自身はドラックをかなりやっていた人らしいのでおそらく薬)した真ん中あたりな気がする。なんだかバッドトリップまでもいかず、だが確実に酔っている感じ。一番ちょうど良い具合を表している曲な気がする。
5.Live at JAM 82年2月5日
今の曲、歌詞が間違って聞こえたので注意してくれ」と言ってトラックが始まっている(?)(もしかするとトラック4の終わりなのかもしれないが、俺はYouTubeで通しできくことしかできないのでどっちのトラックかわからない)どの歌詞が間違って聞こえるのか。考えてしまった、そこが面白いな。ライブの音源も基本はテンポが変わったり何か大きな展開を見せることなく、そのまま淡々と演奏がされている。何か喋っているような気がする。音源よりさらに聞こえづらく何を言っているのだろうか。
6.Live at ぎゃてい 82年4月28日
7.Live at Goodman 82年1月7日
8.死ぬほど普通のふりをしなければ
5、6、7、を聞いた後でこれが流れてだいぶ安心。やっぱり白昼夢な感じがするなと再確認。早い時間帯からお酒を飲み始めてしまったときの感じがする。タイトルが印象的で落ち着いた気持ちになる。
「1円玉と5円玉が足の裏に~」詩が面白いなと思って聞いている。
ポヤポヤとなっているギターや跳ねるようなギターが複数絡み合っているような絡まっていないような音が乱雑に並んでいる感じが良い。
9.砂
不思議な音がドガガガガガガと流れたり、映画のセリフをサンプリングしているような声。リズムマシーンがもうなっていないのだな、と思った。ジョンジャジャジョンジャジャとギターがリズムを刻んでいて、時たまマシンガンのようなドガガガガ。ドガガガガ。
素材としてはそれらがずっと流れたり止まったりなのだがずっと聞いていると馴染んでくる。砂というタイトルは砂漠っぽさからきているのかなと思う。砂漠っぽいフレーズ
10.同時の2人
リズムマシーン復活。ディレイリバーブがたっぷりかかったギターや高い声と低い声の歌。リバーブがかかりまくった声、ノイズがうっすらぐしゃぐしゃとなったり、つかみどころがない、リズムマシーンが鳴っていて掴みどころが増すかと思ったら逆でどんどん掴みどころがなくなっていく。完全に溶けている。
11.現実
ギターがフレーズらしいフレーズで始まる。リズムマシーンもドタッタッタタッタ。はっきりと「もうだめだ、テレパシーは耐えられない」と言っている。不安になる。大丈夫か。目を覚ましてくれと思う。力強くリズムマシーンがなって「例の鑑賞で、〜」ハイハットがシャッシャーッッシャー。声が左に移動して「テレパシーが〜」「もうダメだ〜」「限界だ〜」現実に引き戻されていく感覚があり、ダメになっていくのだろうか。「いつになったら」「俺はもうダメだ、耐えられない」
12.無題
静かに始まるギター。リズムマシーンが軽快にリズムを刻む。リコーダーをはじめて吹いた時のようなメロディ。出鱈目と言い切れない演奏が丁寧に続く。このトラックには声が入っていない。投げやりではないがかなりキワっぽいフレーズ。
中島らもの本に出てくる分裂症のカドくんがこの角谷美知夫らしい。こういう音楽が世の中に存在していて、それを現代の俺が聞けるなんて。嬉しいなと思う。ヒッピームーブメントを通ってきている世代の大人と話すたびに感じる10代20代の頃に体験してきたカルチャーや開放的な生活を送ろうとしていた感じ。長生きをすればいいという感じでもなく、ただ生を実感しやりたいことをやるという感じが羨ましくもある。
インターネットの日陰でコソコソやっている俺はある意味、今の時代特有の人間性なのかもしれないと思うと堂々とコソコソしてやろうと思った。10年代20年代が将来どういう時代として語られるのかが楽しみだ。80年代のミュージシャンや作家に触れるたびにそう思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?