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お客様は神様ですか?

私はこれまで、数々の神様と出会ってきた。今日は、その中の何名かを紹介しようと思う。


『憐れみの神』

それは、私が高校生の頃、近所の、小さな個人経営のスーパーで、初めてのアルバイトをしていた時だった。

レジ担当だった私は、商品の金額を打ち込んでいって、会計をする。

ある日、そこに現れた。

「暗算も出来ないの?かわいそうに…」

外見は、小綺麗にされているおば様といった感じ。私は、「すみません」と言って、教えられている通りのレジ作業を済ます。

暗算で済ませてよいわけではないので、「暗算、苦手なんです」と言った。

「あっそうなの。かわいそう。」

小さなお店なので、顔ぶれは、決まった人たちばかり。なので、その神様は、その後もよく現れて、その度に、スパイスのきいた一言を言って帰った。

まだ、神様との接し方に不慣れな私は疲弊したが、そのうち、そのスーパーは、店を閉じることになったので、当然私も辞めた。内心ホッとした。



『歪みの神』

それから私は、ファストフード店など、いくつかの場所での修行を経て、アパレルショップで修行を始めた。

そこでは、正社員だったので、強めの神様に接する機会が増えた。


ある日、電話が鳴った。

「おたくで買った服を洗濯したら、歪んだの。見てもらえないかしら?」

後日、その神様が、その服を持ってきた。

それは、そのお店で扱っている中では、一番安価の、シンプルなTシャツだった。

いや、そこに値段は関係ない。わかってはいるが、渡されたその服は、色褪せていて、もう何度も洗濯されたようなものだった。

私は、洗濯方法などを確認し、その服を預かり、歪み具合を調べるための調査に出した。

そして、その結果、多少の歪みはあるものの、その服の状態から、使用頻度を考えると、範囲内だろうということだった。

結果を神様に伝えた所、「あらそう、わかったわ。でも…」と、納得していない様子。

ただ、私は、以前の私と違い、神様と接することにだいぶ慣れてきていたので、その後、色々話をして、無事に帰ってもらえた。

つい、「この価格なんだから、こんなもんだろう」と思ってしまっていたが、『神様にそんなことは通用しない』という学びを得た。



『包装の神』

またある日、電話が鳴る。

「プレゼントで買ったけど、開けてみたら、値段がついたままだった。」

と言われた。

それは大変なことをしてしまった、と思い、丁重に謝って、どうするべきかその神様に相談した所、ラッピングしなおして欲しいとのことだった。

急いで準備をして、言われた住所に向かう。

Barのような雰囲気のお店だった。その神様は、プレゼントされた方なのか、プレゼントした方なのかはわからないが、男性だった。

渡された商品を確認すると、値段はついていなくて、「もうハズした」と言われた。

再び丁重に謝罪して、新しい包装紙でラッピングし、それを確認してもらい、納得して頂き、私は店に帰った。

そしてホッとしていたら、再び電話が。

さっきの神様だった。

「やっぱりもう一度ラッピングしなおしてほしい。」

「えっ?」

と思ったものの、断るわけにはいかないので、再び準備して向かう。当然さっきと同じ神様が待っていた。ニヤニヤしていた。

少し不審に思いながらも、再び包装しなおして、確認してもらい、再び納得してもらって、店に帰った。


ラッピングに不備はなかったのに、何故だったんだろう?と思いつつ、店に着いて、ホッとしていたら、再び電話。

またあの神様だった。

そして、また同じ内容。もう一度ラッピングしなおしてほしいと。


さすがに、その神様への対応に自信が無くなった私は、男性社員に、変わりに行ってもらうことにした。


そして、帰ってきた彼に、神様がどうだったか聞いてみると、「特にどうということもなく、普通に終えた」とのこと。


その後、もう電話はかかってこなかった。

私には、難しすぎる神様だった。まだまだだ。



『遅すぎた神』

私のいたアパレルショップでは、気に入った商品を、すぐには買わずに、「取り置き」出来るという、システムがあった。

伝票に、名前と連絡先を書いて頂く。

ただ、その伝票には、「いつまで」の表示が無かったので、なかなか取りに来ない人も多い。

なので、定期的に連絡し、どうするか確認する。連絡が取れない場合は、留守電に残す。

そのお店では、年2回、大きなセールを行うので、その時に、そのシーズンの商品を全てセール品で売り出して、もし余った場合は、本社に返品する。

つまり、古い商品は、お店には残さないシステム。


そんな中、取り置き商品を全然取りに来ない方がいた。

その方には何度も連絡していたが、それでも来ていただけなかったので、最終的に、「◯日までに来ていただけない場合は、キャンセルさせて頂きます。」と留守電を残した。

その時点で、取り置いてからすでに2か月ほど経っていた。


そこから、さらに2か月程経った頃、その方がやってきた。神様だった。

そして、もう商品がないことを伝えた所、びっくりするくらいにぶちギレた。神様がこんなにキレるとは。

キーキーとわめき散らして、私に文句を言い、「すぐにその商品を出せ!」と言ってくる。

代金をもらっていたわけでもないので、その神様のモノでは無かったのだが、まるで自分のモノかのように、キレまくっていた。

そんな神様は初めてで、私としては、何度も電話をしたことと、留守電に残したことと、日にちが経ち過ぎているので、商品がもう無いことを説明するしかなかった。

しかし、まったく沈静する気配がない。


そのうち、そのお店が入っているフロアのマネージャーがやってきた。

その後は、そのマネージャーに神様の対応を変わってもらった。


私の知らない神様が、まだまだたくさんいることを思い知らされた。厳しい道のりだ。



『電話越しの神』

また電話がなる。

「XXXXXXXXXヤローッ!!!」


とにかく、めちゃくちゃ怒鳴られた。

子ども服を買って行った方で、サイズが違っていたらしい。謝罪の後、すぐに持って行くことを伝えると、

「当たり前やッ!!!すぐ持って来いやッ!」

文章では伝わりにくいが、関西の、勢いが強い、巻き舌口調の話し方。

だいぶ修行を積んだと思っていたが、それだけで、心が大幅にえぐられた。

さすがに、これは一人では行けないと判断し、上司に報告して、一緒に行ってもらう。


着いてみたら、神様は、職人風の出で立ち。また怒鳴られると思い、覚悟して謝った。


「わざわざ持ってきてくれてすまんな。ありがとう。」


「えっ?」

あまりの予想外の言葉に拍子抜けした。その神様は、ニコニコして、めちゃくちゃ優しかった。

でも、声は、さっきの電話と同じだったので、別人ではなさそう。

その神様は、電話の時だけ現れる神様だったらしい。また1つ学んだ。



『日付違いの神』

その後、アパレル店での修行を終え、今度は、とある施設のチケット売り場で修行を始めた。

私はそこでチケットの販売をしていたのだが、事前にコンビニで買ってきたものを、チケットに交換する場合もあった。


ある日、コンビニで買ったチケットを持ってきたカップルが来た。しかし、そのチケットは、別の日になっていた。

どうやら、日付を間違えて買ってきたらしい。

そのチケット売り場では、コンビニチケットの日付を変えることは出来ないため、再びコンビニに行って、変えてきてもらわなければならなかった。

その旨を伝えた所、そのカップルは、「あ、間違って買ってた!」とすんなり納得して、すぐにコンビニへ戻っていった。


それからしばらくして、コンビニで買ったチケットを持った家族連れが来た。

そして、またもや日付を間違えて買ってきていた。

さっきのカップルと同じ内容を伝えた所、さっきのカップルとは全く違って、父親らしき神様が、「なんとかしろ」と言ってくる。

なんとかしろと言われても、ここではどうしようもなく、もし出来るのなら、当然さっきのカップルにもやりましたよ。

…と思ったものの、そんなことを言うわけにもいかず、同じ説明をするしか出来ない。

しかし、その神様は、「なんとかしろ」の一点張り。どんどんヒートアップしていくため、私では、その神様の対応は出来ないと判断し、上司に委ねた。

その後も、かなりの時間を使って、結局、こちらでコンビニに行って、変更するという、まわりくどいやり方になった。


その時の私は、「ゴネ得」だと思ったのだが、そこに至るまでに、その家族が無駄にした時間を考えると、その神様よりも、さっきのカップルの方が断然得していると、今の私は思う。



『カタコトの神』

個人チケット売り場での経験をある程度積んだ後、私は、団体チケット売り場へと進んだ。

そして、団体チケット売り場へ行って間もない頃、その神様はやって来た。


それは、アジア系の外国からの神様で、私がチケットを発券している時に、後ろに、サポートをする人がいるのを見て、すぐに私が不慣れだと気づいたらしい。


「オイ、のろま、ハヤクシロ」


この言葉を、ニヤニヤしながら何度も言ってきて、私を焦らせた。

カタコトの日本語にも関わらず、「のろま」という単語は、しっかり使いこなしている。誰から学ぶんだろう?


どういう経緯で「のろま」という言葉を教えてもらおうと思ったのか?そして、教えた方も、どういうつもりで教えるのか?

作業が不慣れな上に、外国の神様の対応という状況に、私の焦りも増して、さらに手際が悪くなってしまった。

その神様は、本当に早くして欲しかったのか、それとも、「のろま」という言葉で、私の動きを鈍らせたかったのか、真意はわからない。


ただ、私の知らないタイプの神様がまだまだいることはわかった。



『異国の神』

それは、私がスペインに行った時のこと。


街のスーパーに入って、ミネラルウォーターなど、いくつか商品を手にして、レジに持って行った。

そこにはレジが2台あって、それぞれ女性の店員さんがいた。

2人は話に夢中で、私が商品を置いても、まだ話し込んでいて、チラリと私を見た後も、話をやめるこはなく、話をしながらレジを打っていった。

そして、打ち終わったら、話はやめずに、合計金額の表示が出ている所を指さして、また私をチラリと見た。

2人で話している時は笑顔なのに、私を見るときの顔は怖い。

私はおどおどしながら、お金を出した。

すると、やはり話をやめることなく、私が出したお札をとると、サッと手元で透かしか何かを確認して、本物かどうかのチェックをし、おつりを出した。

そして、目でチラリと合図をして、終わりを告げた。

最後まで、2人が話をやめることはなかった。


「そうか!ここ(異国)では、神様は、向こう側なんだ。」

まぁ、国によって違うかもしれないが、この時のそこでは、確かにその人が神様だった。

つい、自分が神様なんじゃないかと、勘違いしてしまった。違う違う。

まだまだだった。修行の道のりは長い。

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