ホームメイド・スコーンを楽しむ
この記事では、家で作るスコーンのポイントや、クロテッドクリームの作り方、ジャムの選び方、おすすめの紅茶を紹介する。
なお、スコーンのレシピは別の記事(ホームメイド・スコーンとクロテッドクリームのレシピ)に掲載する。
はじめに
一昔前まで、スコーンと言うと「スナック菓子」「パサパサしたパン」と言った反応しかなくて、幼い頃から母の手作りスコーンをもりもり食べて育った私は悲しい思いをしていたのだが、今となってはTwitterやInstagramで「スコーン」と検索するだけで、美味しそうなスコーンの写真がたくさん出てくる。有名ホテルでは季節のテーマに沿ったアフタヌーンティー・メニューが登場し、特に人気のあるお店では予約が困難になることも珍しくない。また、アフタヌーンティーの専門店も増えてきており、さまざまな工夫を凝らしたメニューが提供されている。
ここ数年で一気に市民権を得たスコーンであるが、清く正しいオリジナルのスコーンを探してみると意外と見当たらない。というのも「美味しくて可愛い食べ物をSNSにアップしたい」という世の中のニーズを汲んで、まるでハンバーガーのようにクリームやフルーツを挟んだり、生地にしっかりと味をつけて単体でも楽しめるようにしているものがかなりの数を占めているのだ。
私は無類の甘いもの好きなので、こういった種類の「スコーン」を頭ごなしに否定するつもりはない。むしろそういった「スコーン」を買い求めたい気分のときもある。だが、そういったチャラチャラしたスコーンは私の中ではスコーンではない。「スコーン風焼き菓子」である。私にとってスコーンとは、母がおやつどきにオーブンで焼いてくれたような、あの素朴な味と形の、特別なことは何もしていないのになぜか美味しい焼き菓子なのである。
「手前味噌」ならぬ「手前スコーン」、つまり自分で作ったスコーンを自分で食べるのが、世界で一番美味しいスコーンを食べる近道である。
スコーン作りのポイント
スコーンを自分で作る際に覚えておいていただきたいポイントは、次の2つである。
小麦粉の素朴な味わいを生かす
なるべく同じ材料を使う
ほどほどに適当に作る
小麦粉の素朴な味わいを生かす
スコーンはクリームを食べる皿である。トラディショナルなスコーンは単体で食べるとパサパサする。一方、クロテッドクリームを単体で食べると脂肪分が多すぎる。これを同時に口の中に入れることで完璧なバランスになる。スコーンあってのクリームだし、クリームあってのスコーンなのである。
もしスコーン自体の味付けが強ければ、クロテッドクリームの味わいを邪魔することになる。茶葉やチョコチップを生地に少しだけ混ぜるのは許容範囲だが、それらはあくまでフレーバーであって、何味のスコーンにするかはジャムが決める。スコーン自体の主役はあくまで小麦粉である。
ところで、スコーンをめぐっては「ジャムを先に乗せるか」「クリームを先に乗せるか」という宗教戦争が現在も続いている。日本で言う「きのこ・たけのこ」「こしあん・つぶあん」のようなものと思って頂ければ良いだろう。クロテッドクリームの名産地の名前を取って、ジャムを先に乗せることを「コーンウォール式」、クリームを先に乗せることを「デヴォン式」と呼ぶ。
「クリームを食べる皿」と考える私は、断然「ジャムが先」派である。クリームがトップに来るコーンウォール式は、口に入れると初めにクリームのなめらかさとスコーンの小麦味がやってくる。それから2、3回咀嚼すると、間に挟まったジャムが舌に触れて、ジャムのフレーバーが口の中で見事に調和する。素朴な味わいのスコーンを食べるなら、ぜひコーンウォール式で召し上がっていただきたい。
なるべく同じ材料を使う
自分で作るスコーンに特別な材料を使ってはいけない。例えば同じレシピであっても、小麦粉が変われば味のバランスや生地の膨らみ方が変わってしまう。特に外国産の小麦粉は日本の小麦粉と異なり、粒子の細かさやグルテンの量がかなり異なるので、焼き上がりも全く別物になる。特別な材料を1回だけ使うのではなく、無理なく買い続けられる材料を使って美味しく作れる配合を見つけるべきだ。手軽に買える材料であれば、スコーン作りのハードルがぐっと下がる。
ただし、バターは色々変えてみてもさほど問題はない。バターはスコーンの風味に大きな影響を与えるが、どのメーカーのバターを選んでもおおむね配合を変えずに作ることができるからだ。製菓材料店等で大きなブロックで売っているバターを買って、冷凍保存をしておけば便利である。なお、私はよつ葉の発酵バターが風味豊かで一番好きだ。高級でありながら比較的スーパーでも入手しやすいカルピスバターは、割とあっさりした風味に仕上がる。
ほどほどに適当に作る
スコーンは丁寧に作るより、ある程度雑に作った方がかえって美味しくできる。家庭で作るスコーンレシピの王道である「サブラージュ法」では、小麦粉に冷たいバターを擦り合わせて混ぜるのだが、冷たいバターを用いることでバターと小麦粉が完全には馴染まず、オーブンの中ではじめてバターが溶けて生地の中に空気の層ができる。この層があることで、スコーンを口の中に入れたときにホロホロと溶けるような食感となる(パイを作るときと同じである)。また、この方法は粉を油脂でコーティングするのでグルテンが出にくく、さっくりした食感にすることができる。
丁寧に作業をしてしまうと、その分時間がかかってバターが溶けてしまう。生地を触る時間が長ければ長いほど、手の熱でバターが溶けて生地に馴染みすぎてしまい、サクサクホロホロ食感が失われてしまうのだ。だから、細かいことは気にせずワーっと作業をしてしまうのが良い。
なお、お店のように製菓機材が整っており、一度に大量に作る場合は「クリーミング法」と呼ばれる製法で作られることがある。この方法では室温に出しておいたバターをよく混ぜることで空気を含ませ、オーブンの中で気泡が膨らむことで、しっとりふんわりとした焼き上がりになる。ただしこの方法は、どのくらいバターを柔らかくするのかの塩梅が難しいので、家で作るスコーンにはあまりおすすめしない。
スコーンに合わせるクリーム
クリームを食べるためにスコーンを食べていると言っても過言ではないのだから、クロテッドクリームを出し惜しみせずたっぷり乗せよう。とはいえ、普段あまりクロテッドクリームを食べ慣れてなくて好みに合わなかったり、そもそも入手ができないという方は、乳脂肪分が45%前後の生クリームを硬めに泡立てて代用するのもアリだ。
ところで、クロテッドクリームはホットクックがあれば自宅で簡単に作ることができる。出来上がるまで丸一日ほど時間がかかるので、思い立ったときにすぐ食べられないのが難点であるが、作りたてのクロテッドクリームはフレッシュなミルク感があって格別に美味しいので、ホットクックをお持ちの方はぜひ一度試してみていただきたい(レシピは別の記事(ホームメイド・スコーンとクロテッドクリームのレシピ)に掲載する)。
ホットクックはクロテッドクリームの他にも、鶏ハムや無水カレーなどを簡単に作ることができる(しかもその間キッチンに立っていなくて良い)ので、ぜひ購入をお勧めしたい。とはいえホットクックのないご家庭でも「70度で8時間加熱する」ことができるなら、オーブンでも鍋でも代用可能だ。
プレーンなクロテッドクリームももちろん美味しいが、大人の方はほんの少しブランデーを垂らしてみるのも良いだろう。寒い時期や、リッチな気分になりたいときには特におすすめだ。
ジャムの選び方
ジャムは好みのものを選ぶのが一番だが、ストロベリーやラズベリーが王道の組み合わせである。もちろん自作することもできるが、ジャムは比較的どこでも手に入れやすく、種類も豊富なアイテムであるため、手作りする手間と買ってくる手間を比べると、特段の理由がない限りは買ってきた方が早いだろう。
個人的には、砂糖の甘みが強すぎるジャムはあまりスコーンに合わないと思う。素朴な小麦味のスコーンとミルキーなクロテッドクリームという繊細な組み合わせに、砂糖の暴力が襲いかかってバランスが崩れてしまうように感じる。少し奮発して、フルーツ由来の甘さが生きたフレッシュなジャムを選ぶと失敗が少ないのではないかと思う。
紅茶とのマリアージュ
スコーンを並べた食卓に欠かせないのが紅茶である。紅茶と言っても、世の中にはいろんな種類の紅茶があるので、どれを選べば良いのか迷ってしまうだろう。自分の中でのベストマッチを見つけるのもスコーンの面白さである。
紅茶の好みは人それぞれなので、どの紅茶が良いと断言することはできないが、少しでも参考になるよう、私がよく家で飲む紅茶をいくつか紹介したい。
JANAT:ダージリン(ティーバッグ)
いきなりティーバッグ?と思われたかもしれない。私もティーポットは持っているが、お手頃価格で簡単にそれなりの紅茶を飲め、食後の片付けも簡単に終わるティーバッグは我が家のスタメンである。家で楽しむ普通のおやつとしてのスコーンにはぴったりの相棒ではないだろうか。成城石井やカルディでよく見かける。
TWG TEA:1837 ブラックティー
シンガポール発の紅茶ブランドであるTWG Teaの看板商品である。リーフでもバッグ(コットンバッグ)でも取り扱っているので、お好みのスタイルを選ぶことができる。キャラメル系の香りがする紅茶で、おやつのお供にぴったりだ。東京、横浜、梅田にある店舗のほか、オンラインで購入することも可能。
NAKAMURA TEA LIFE STORE:BLACK TEA NEIGHBOR NO.1
100年続く静岡のお茶農家さんの紅茶で、最近よく聞く「和紅茶」というカテゴリの紅茶である。東京・蔵前にある店舗で購入することができる。この紅茶の特徴は、和三盆のようなまろやかな甘みが感じられることである。砂糖を一切入れていないはずなのに甘みが感じられるこの紅茶は、ほっこりしたい気分のときにおすすめだ。
HOJO:正山小種(ラプサンスーチョン) 傳統式 特級
普通、ラプサンスーチョンと言うと「あの正露丸の匂いのやつ…」と嫌な顔をされることが多く、私自身もあまり好きではなかったのだが、HOJOのラプサンスーチョンは別格である。正露丸を思い起こさせるきつい匂いはなく、純粋な燻製の優しい香りだけが感じられるのだ。とはいえ、スコーン単体というよりはサンドイッチ(特にサーモンが挟まっていればベストマッチ)を含めたアフタヌーンティー・スタイルに合う紅茶かもしれない。燻製好きにはぜひこの香りを一度試していただきたい。オンラインで購入できる。
おわりに
世の中にはたくさんスコーンがあるが、自分で作った焼き立てスコーンに勝るものはない。次の投稿でスコーンのレシピを紹介するので、ぜひ皆さんも作ってみていただきたい。