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外用薬について(処方保湿編)


保湿をすることで、アトピー性皮膚炎の発症が防げたという研究結果が、2014年にでてからは、赤ちゃんの保湿の重要性が広く知られるようになってきました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25282564/

赤ちゃんの皮膚のことを相談されるときには必ずと言っていいほど、保湿のことを質問されます。
先日のvoicyでのrocoさんとの対談でも保湿についてはいくつも質問されました。
今回は保湿についての色々をお伝えしたいと思います。
(※写真はヒルドイド®を載せていますが、特に企業のPRなどではありません)


処方できる保湿剤

今回は保湿の中でも処方できる保湿剤についてお伝えしたいと思います。

保湿の種類について

1.エモリエント
皮膚の水分が逃げない様にラップするような働きをする保湿剤です。
皮膚に水分を与えたり、水分を保持するような作用はなく、お風呂上りなどの水分を少し吸ったお肌の上に塗ると、その水分を逃がさない様にラップしてくれると考えていただければ、イメージしやすいかと思います。
代表的なものとして、ワセリンがあります。
ワセリンをもっと純度高く(混ざりけが少ない)したもので、プロペトというものもあります。
べたべたしますが、プロペトのほうが伸ばしやすい特徴があります。
エモリエントは後述する剤型の軟膏の区分に入るものがほとんどです。

.モイスチャライザー
皮膚に浸透して、水分を保持し、皮膚の機能を補ってくれる作用がある保湿剤です。
実は日本で処方で出せるモイスチャライザーはヒルドイド®系(一般名はヘパリン類似物質)がメインとなります。
ケラチナミン®などの尿素系クリームも位置づけとしてはモイスチャライザーに入りますが、角質溶解剤なので、角質をはがすことにより、角質の水分保持量が少し減ってくることもあるという報告があります。
保湿の効果を見るときに、角質水分量(皮膚の一番上の部分が水分を適度に含んでいる状態)と経表皮水分蒸散量(TEWLともいい、表皮から水分が蒸散していく量を測ったもので、蒸散が大きいほど、皮膚のバリア機能が落ちているので、この値が低いほどいい皮膚の状態)を見るのですが、この両方で比較すると、やはりヒルドイド®の方が良いかなと思います。
ヒルドイド®が無かった時代は、尿素クリームを保湿として処方するしかなかったのですが、今はヒルドイド®があるので、尿素クリームを保湿剤として処方することはかなり減っているのではと思います。
モイスチャライザーは次のチャプターで述べる色んな剤型があります。

エモリエントとモイスチャライザーを比べると、やはり保湿としてはモイスチャライザーがいいと思いますが、かなり皮膚が敏感な方はヒルドイド®が合わないという方もいらっしゃるので、そのような方で処方の保湿と言われると、ワセリンやプロペトを出しています。

剤型について

1.軟膏
いわゆる油脂で作られたもので、刺激は一番少ないのですが、ベタベタして塗り伸ばしがしにくいです。ワセリンをイメージしていただくと、冬場などは本当に伸ばしにくいのではないかと思います。温度が上がると、伸ばし薬少なるので、ワセリンを塗らなければいけない場合は手に載せて両手で包んで少し温めると伸びがよくなると思います。
エモリエントはほとんどこのタイプかと思います。

2.クリーム
実はヒルドイドソフト軟膏®は軟膏とありますが、外用薬の剤型区分からいうと、クリームになります。
クリームは水と油を混ぜて乳化したものです。水と油は諺にもあるように、本来は混ざらないものなので、混じり合わせるための添加物が必要になります。軟膏よりこの添加物の影響で刺激が出ることも時にあり、引っ掻いたようなキズのところに塗るとしみることもあります。
クリームの中には、油がメインのクリーム(油中水型)と水がメインのクリーム(水中油型)があります。
ヒルドイドソフト軟膏®が油メインのクリームで、ヒルドイドクリーム®とヒルドイドローション®が水がメインのクリームとなります。
でも実臨床ではヒルドイドクリーム®はあまり見ないかと思います。
油がメインのクリームですと、やはり油なので、ベタベタ感が強くなり、水がメインのクリームのほうがベタベタ感が少なく、伸ばしやすくなります。

3.フォーム剤
泡の外用薬です。初めてみたとき、泡って洗い流すイメージだったので、びっくりしたのですが、ベタベタ感が少なく、かなり伸ばしやすい製剤です。

1,2,3と比べると、フォームは伸ばしやすいけど保湿効果はやはりヒルドイドソフト軟膏®のほうが高いです。
乾燥が強い方にはヒルドイドソフト軟膏®をお勧めして、塗り心地、子どもがベタベタすぎて嫌がるなどあれば、ローションを出し、乾燥強くない、あるいは夏場の保湿に使いたいなどという時には、フォームを処方したりしています。

と、先発品で説明すると、このようになりますが、保湿分野はジェネリックがさらに幅があり、そちらも少し取り上げさせていただきます。

ヒルドイド®のジェネリックについて

ジェネリック医薬品の是非については、なかなか判断が難しい分野かと思います。主成分が一緒だからと言って、生体内で同じように働いてくれるはわからないのです。外用薬の場合、主成分でない部分が、接触皮膚炎(かぶれ)の原因となる場合もあるし、皮膚科医はジェネリックを嫌がる先生もいるようです。
私もジェネリックが出始めた頃は、同じ理由で先発品を好んで出していました。
しかし、次第にこちらが先発品と書かなければ、ジェネリックに薬局側で変更可能な決まりになり、ジェネリックの種類も増えてきて、うまく付き合っていく必要があると考えるようになりました。
たしかにヒルドイドでも、ヒルドイドソフト軟膏®とビーソフテンクリーム®を比較したときに、先発品の方が、角質水分量が多く保持されたという結果もあります。

日本皮膚科学会雑誌 122 (2), 371-373, 2012

外用薬では、内服薬ほど吸収の過程が複雑ではないため、ジェネリックの基準が厳しくない現実もあります。
だからジェネリックはやめた方がいいと主張をしているのではありません。
同等ではない可能性はあるけれど、個々の薬や患者さんの症状を医師が見て慎重な判断をしなければいけないと私は考えています。
例えば、ヒルドイドソフト軟膏®はよくステロイドと混合して処方されることもあります。先発品のヒルドイドソフト軟膏®とステロイドを混合しても、薬の効果が変わらなくても、ヒルドイド®のジェネリックと混ぜると薬の効果が落ちてしまうということも起こりえます。なので、私の場合は基本混ぜずに処方できるものは混ぜずに処方させていただきます。そうすると、ステロイドの働き、保湿の働きをそれぞれ維持しながら効果を判定できます。その上でやはり効きが悪くて先発品でないといけないだったり、接触皮膚炎を疑わなければいけないと判断すれば、先発品希望と処方箋に記載したりします。
医療費が高騰している日本では、闇雲にジェネリックを避けてばかりは通れないとは思います。それにお値段が安いということは、日本全体の医療費のみならず、患者さんの負担を減らすことになるので、継続しやすくなるとおもます。多くの方はジェネリックでもかぶれは起きずに薬の効果は出ています。みんなが合わないというわけではないのです。
自分はどうかな、どっちがいいかなと迷ったり、不安があれば、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。

ヒルドイド®ジェネリックの剤型について

ヒルドイドソフト軟膏®のジェネリックは基本ヘパリン類似物質油性クリームと記載があるものが多く、保湿効果高いですが、ややベタベタ感があります。(ビーソフテンクリームというのもありますが)
一方、水中油型のヒルドイドローション®のジェネリックには、かなり色んな使い心地のものがあります。
先発品は白くて乳液のようなローションですが、後発品はほとんどが化粧水のような透明なローションがほとんどです。さらに化粧水タイプのものが、スプレー容器に入ったものもあります。
これは実はジェネリックの利点ではないかと思います。
乳液くらいの保湿がいいか、化粧水くらいの保湿がいいかや、スプレーの方が使いやすく塗ってもらえるようになるか、などで、分けて処方することができます。もちろん、皮膚を見た上で、化粧水タイプだと、少し保湿効果が足りないかなと思ったら、その旨をアドバイスして、剤型を調節させてもらいます。
知識をいつもアップデートして、情報をきちんとお伝えした上で、その患者さんにとって、使いやすく効果もきちんと出るものを処方できればなと思います。

次回は、処方ではない、ドラッグストアやネット購入できるような保湿剤について、お話しさせていただこうと思います。(実際、すっごくたくさんあるので、絶対これがおすすめっていうのは難しいのではないかなと感じており、私たち皮膚科医が、外用薬だったり、化粧品系だったりに対してどう選ぶかを考える思考のような回になってしまうかもしれませんが、ご興味あれば次回もぜひお付き合いいただけると嬉しいです。)


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