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代金、引渡時期、支払方法が未定でも契約は成立しているとした判例


事実の概要

  • 高齢のYは、病気療養により入院しており、自宅に戻る可能性が無くなったことから、自宅を売却することとした。

  • YはXと商談し、Xへの売却を承諾した。しかしその後、「時価はいくらか」の調査中に、Yは病没した。

  • Xは、本件売買契約が成立しているとして、売買の履行を求め遺族を訴えた。

関連法令

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法555条

裁判所の判断

  • Yは、自宅を売却する意思があった。

  • 価格については、時価がいくらかについて交渉を行っていたものであるから、「時価で売却する合意」が確定的に成立していた。

  • 価格が不明でも、裁判の中で時価が明らかとなるので問題ない。価格が予想外であるなどの錯誤があれば、それをあらためて主張すれば良い。(が今回はされていない)

  • 以下は今回の交渉の中で未定であったが、契約成立の要素ではないため、契約成立の判断に関係しない。

    • 土地の引き渡し時期

    •  移転登記時期

    • 売買代金の支払い時期

    • 支払い方法

契約の成立

  • どこまでの合意であれば、「契約が成立した」といえるのかは重要な点です。

  • これは「本質的な部分の合意」が必要とされています。

「本質的な部分の合意」とは?

  • 取引の種類によってその内容は異なり、民法で定められた13種類の典型契約(贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金和解)においては、民法の「各典型契約の節の冒頭の条文」に規定された要件が基本となる、とされています。

  • 売買の場合は民法555条が、売買の節に記載された最初の条文です。条文は、「売買は、当事者の一方が①ある財産権を相手方に移転することを約し、②相手方がこれに対してその代金を支払うことを約する ことによって、その効力を生ずる。」とあります。今回の判例では、土地を引き渡すこと、代金を支払う事は決まっており、価格は決まっていなかったということで、上記条文に従って判断されているようにも見えます。

得られた教教訓と感想

  • 価格が未定でも、交渉経緯によっては、売買契約が成立する。(ことを認識しておく。)

  • 「商品は準備できますがいくらになるかは社に戻って確認します」といったセリフは契約が成立している可能性がある


東京高裁 昭和58年判6月30日 昭和57年(ネ)1260号

#契約の成立

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