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クラウドのデータが消えたが、クラウドサーバー事業者は約款により免責される、とした判例

登場人物

  •  原告 サプリメント販売会社とそのグループ複数社 (以下「サプリ屋」といいます。)

  •  被告 クラウドサーバー運営会社(「サーバー運営会社」といいます。)

  •  訴外 システム会社、個人事業主(以下、「システム会社」といいます。)

事実の概要

  • サプリ屋は、システム会社に依頼してwebページを構築。アンケートに答えるとオーダーメイドのサプリが提案され、購入できる「サプリメントプラザ」を運営していた。

  • システム会社は、サーバー運営会社のクラウドサーバーを借り、そのサーバー上にwebページを構築した。(※ サプリ屋とサーバー運営会社は、システム会社を介した関係であり、直接の契約関係はない。)

  • サイト運営開始から2年後、サーバー運営会社のサーバー故障により、「サプリメントプラザ」のデータは全て消失した。

  • サプリ屋はデータ消失に伴う損害金1億9千9百万円の支払いを求め、「記録の消失防止義務違反」の不法行為があるとして、サーバー運営会社を訴えた。

契約関係

  • サプリ屋と、システム会社の契約書には以下の内容があった。

(データの取り扱い)
本サービスにおける当社のサーバーのデータが、滅失、既存、当社の責によらない第三者による漏洩・傍受、その他の事由により本来の利用目的以外に利用されたとしても、その結果発生する損害について、当社はいかなる責任も負わないものとします。

システム会社と、サーバー運営会社の契約「サーバーホスティング契約利用規約」には以下の内容があった。

(権利の譲渡)
契約者は、第三者が本規約その外当社の定める制限事項を遵守することに同意する場合に限り、第三者に対して本サービスを利用させることができる。

(責任の制限)
1 当社は、障害発生時刻における契約者との契約内容の月額料金を限度として、損害の賠償をする。
2 故意または重大な過失により本サービスを提供しなかった場合には、前項の規定は適用しない。

(免責)
(責任の制限)条項は、本契約に関して当社が負う一切の責任を規定したものである。当社は契約者、その他いかなる者に対しても、本サービスを利用した結果について、本サービスの提供に必要な設備の不具合・故障その他による、直接または間接の損害について、(責任の制限)条項以外には、いかなる責任も負わない。


サプリ屋の主張

  • サーバー運営会社は、プログラムに関する預託契約を締結していたと言える。契約者だけでなく、預託した者全てに対して、善管注意義務が発生する。

  • サプリ屋とサーバー運営会社は直接の契約関係で無いため、利用規約の免責規定は関係ない。

  • 免責条項が適用されるとしても、このような不平等な条項は、公序良俗違反で無効である。

サーバー運営会社の主張

  • 利用規約の免責に同意した者のみ、利用を許可している。直接の契約は無くとも、サーバー運営会社は免責される。

  • このような免責条項は、業界でも普通である。公序良俗違反ではない。

関連条文

民法第657条(預託)
寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。


裁判所の判断

サーバー運営会社は免責され、賠償金を支払う必要はない。

  • データの保存は預託契約ではない。不法行為上の善管注意義務は発生しない。

  • サーバー運営会社は、利用規約をホームページで公開している。サプリ会社も、詳細はともかく、免責規定が存在していることを知ったうえでサービスを利用したと類推されるから、サーバー運営会社が免責規定を超えて責任を負う理由は無いといえる。

  • サーバーは完全無欠ではなく、障害が生じてデータが消失することもあり得るものであるが、利用者がデータを保存していれば、再稼働できるのであり、サプリ屋は消失防止策を容易に講じることができる。このような状況に照らせば、サーバー運営会社に消失防止義務まで負わせるのは酷である。免責規定が公序良俗に反するということはできない。

  • サーバー故障について、サーバー運営会社に格段の落ち度はなく、重過失があったという証拠はない。

  • サーバー運営会社は有料オプションのバックアップを提供しており、サプリ屋はそれに申し込んでいれば、消失を回避できる状況であった。

得られた教訓と感想

  • データは有形物とは違い、複製が容易であるため、「データを消してしまっても免責」規定は、公序良俗違反で無効にならない。

  • クラウドサーバーにおいては、データが消えても、クラウドサーバー会社への法的請求は困難な場合があるため、バックアップの体制を整えておくこと。

  • サービス提供側の場合は、自社が利用しているクラウドサービスの約款を超えて、顧客に対し責任を負う契約書を作らないこと。


  • 東京地判平21年5月20日 判タ1308号260頁

#システム系 #損害賠償

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