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業務委託の実態は賃貸借であり解約できないとされた判例

登場人物

原告 スーパー 訴えた
被告 パン屋 訴えられた

事実の概要

  • スーパーは、パン屋に業務委託し、店舗内でパンの製造販売をさせていた。

  • パン屋の業績が振るわなくなってきたため、スーパーは店舗の入れ換えを計画し、「業務委託契約」の解約条項に基づき、3か月前予告での解約(退去)を申し入れた。

  • パン屋は退去を拒否。パン屋は「実質的には賃貸借契約であるため、正当事由のない立ち退きであり、不当」と主張した。

  • スーパーはパン屋を退去させるため訴訟を提起した。


スーパーの主張

  • 契約書には明確に以下のように記されている。

この契約は特定商品の販売業務の嘱託に関するものであって、特定の賃貸借契約ではない

契約の終了にあたって、いかなる金銭も請求することはできない。

  • パンの製造を委託していたのみであり、賃貸借ではない。

  • 店舗は、閉鎖された区画ではなく、何らの仕切りも儲けられておらず、パン屋は場所を独占的・排他的に支配していたものではない。

  • 開業時間、閉店時間、休日もスーパーと同じであり、被告が独自に営業していたわけではない。

  • 食品衛生法上の届け出も、スーパーの名義で届け出しており、独立の店舗でない。

  • 売上金も、一旦スーパーが回収し、歩合を差し引いて返還している。独立の経営とは言えない。

  • なお、万一賃貸借に該当するとしても、スーパーは立ち退き料として2000万を払う準備があり、正当事由が認められる。

パン屋の主張

  • 借り受け時に補償金を支払っている。これは敷金である。

  • 売上金から差し引く歩合も、最低保証金額が設定されている。これは家賃と評価できる。すなわち賃貸借である。

  • 原材料、陳列、製造、仕入れ、人員の採用、内装について、すべて独自の判断と経費で行っており、独立して経営している。

  • 年間売上が1億2千万であり、2000万の立ち退き料では不当である。

関連条文

賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法601条

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

借地借家法28条 

裁判所の判断

パン屋とスーパーの契約は賃貸借といえる。正当事由がないため、パン屋は立ち退く必要はない。

  • パン屋は、内装工事費や設備機材費をすべて自己負担のうえ、独自の経営判断で営業を行ってきたものである。

  • スーパーは、営業に関与せず、内装や機材も負担せず、まさに場所を提供する対価として歩合金を取得しているものである。

  • したがって、賃貸借に関する法の適用をうけるものである。

  • 契約書の「賃貸借契約ではない」の文言は、借地借家法28条が強行規定であることから、判断を左右するものではない。

  • 2000万円の解決金と、期限の猶予があったとしても、正当事由として認めることはできない。

本件から当社が得るべき教訓

業務委託先が社内で業務を行っていた場合、

  • 業務委託とみなせる実態がなければ、賃貸借になるかもしれない。

  • 賃貸借になれば、正当事由がなければ退去させることはできない。(正当事由が認められるには、それなりの立退料を払う必要がある。)


参照:大久保均 「その他–スーパー内のパン売場の明渡しと正当事由(東京地裁判決平成8.7.15) (借地借家法の正当事由の判断基準) – (判例における正当事由–借家関係–営利目的の借家)」 判例タイムズ 51巻 7号 151–153頁 (2000)

#賃貸借

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