35歳、女、独身、無職、ASD。

2022の梅雨
私は無職になった。

契約社員になって丁度1年が経とうとしていたある日のことだった。

朝礼が終わって、上長が私の名前を呼ぶ。
「山田さん、部長から話があるから11時になったら会議室に行ってくれる?」

わかりました。と言った後、私は冗談で隣の席のおばちゃんにクビですかね?と半笑いでジェスチャーをした。

今思うと、おばちゃんの顔は全然笑ってなかったしむしろ目を逸らされていたような気がする。

11時になって、私は会議室へ行った。

まさかクビなわけないよなー。契約解除なんてそうそうないってゆってたし。入社してからそこそこがんばってきたし、社員に昇格か?

なんて思いながら部屋のドアをあけた。

知らないおっさん2人が座っている。

「どうぞ」

目の前の席に私は座った。

おっさんの一人が口を開く。

「8月で、契約解除となりますので、よろしくお願いします。1年間ありがとうございました。転職等あると思いますので2ヶ月前におっ伝えしました。以上です。」


頭が真っ白になった。

去年の末、事務のおばちゃんに「山田さんがきてくれてほんとによかった。助かってる。来年も期待してるからね。がんばってね」

あの言葉はなんだったんだろう。勉強して、担当任されて、管理して。他の誰よりもがんばっていた気がしていた。昔、働いていた場所だったら無断欠勤したり遅刻したりしていたのに。ここではやってないのに。がんばったのに。

いろんな事がたくさん頭の中に溢れかえった。

「はい。わかりました。」

おっさん二人にはそれしか言えなかった。何も言い返せなかった。

会議室を出て、倉庫で泣き崩れた。

約1年間、私は何をしてきたんだろう。あのおっさん二人に何がわかるんだろう。なんだこの会社は。周りの人達は知ってたのか?私のこれからは?悔しい。

契約解除された事が辛いよりも、悔しいが勝った。

一人で泣いていると、事務のおばちゃんが倉庫に入ってきた。

「何があったの?何か言われた?大丈夫?」

そういいながら、私の背中をさすった。

「契約解除って言われて、、」

泣きながらそれだけ言った。

「え!!なんで!山田さんがんばってるのに!とりあえず、お昼にいこう。話聞くから」

ひとしきり泣いて、落ち着いた私はおばちゃんとお昼ご飯に行った。

ご飯を食べながら、おかしいよね。なんでだろう。聞いてみるね。なんておばちゃんは言ってたけど、話をすればするほど、怒りは込み上げてくるし、知らないはずはなかったろ、聞くって何を聞くんだ。あなたに何かを変える権力はあるのか。そんなことを思いながら、口にすることもなく、仕事に戻った。

事務所に帰って、今日の仕事を終わらせて帰らせてもらうことにした。

私のすることはここにはもうないんだ。私の居場所はもうないんだ。

帰りながら、友達に電話をした。悔しさと怒りをぶつけた。どうにもならないのに。

次の日、会社に行って仲のいい人たちに、契約解除されたことを伝えた。

みんな口を揃えて言う。「山田さんいなくなったら困る。意味がわからない。」

みんな私を肯定してくれた。悲しんでくれた。怒ってくれた。それが嬉しかった。

でも、誰も上司に、会社に、抗議してくれる人はいなかった。

会社ってそんなもんなんだろう。仕事が手につかなかった。

最近入った新人と、2年目くらいの若い社員の子に引き継いで欲しいと言われ、自分がやってきたことや考え方を事細かく教えた。

「山田さんいなくなると困りますぅ。私同じように出来ないですよぉ」

2年目の社員の子は言った。

お前はいいよな。若くて、社員で。頑張らなくてもチヤホヤされるんだから。そう思った。

別に難しい仕事ではなかったから、引き継ぐ事なんてそんなになかった。

上長は、ほんとにごめん。俺にもよくわからないんだと言うだけだった。

よくわからないのはこっちの方だった。

契約期間を満了することなく、私は会社を去った。どうでもよくなってしまった。

また仕事探せばいいか、なんとか頑張るしかないか。とりあえず前向きにいこう。

(TT)