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呟怖〜面会謝絶〜

#面会謝絶

夜勤の看護婦が定時の見回りから帰ってくるなり愚痴を零し始めた。

聞けば面会謝絶の札の掛かった患者さんの病室に多くの見舞い客が来ていたとの事であった。

患者さんは無菌室にいれられ見舞客は愚か身内ですらビニル越しにしか話せないというのにとかなりのお冠であった。

だがその話を聞いていた先輩看護師は小首を傾げ
その話ちょっとおかしくない?と言ってきた。

何がですか?と言葉を返した看護師に先輩看護師はその無菌室がある病室をペンの先で指し示した
きょとんとした顔をしていた看護師は暫くして意味を理解したらしく真っ青な顔になったのだ。

そう、面会謝絶の札の掛かった患者さんの部屋はナースステーションの左側に位置しておりその部屋へ行く為には必ずナースステーションの前を通らねばならなかった。其だけの大人数が横切れば流石の看護師も其に気づかぬ筈はない。

然し彼ら彼女らは足音一つ立てず姿一つ見せず
全員が病室に入っていたのだから余りに奇妙。

而も面会謝絶の部屋は治療用機材が置いてあり、
部屋は手狭であり大人数が入る余裕は無い。

彼ら彼女らはどうやって誰にも気づかれずに病室へ行きどうやって全員が入れたと言うのだろうか
そう考えると二人とも背筋が凍る思いがした。

後日患者さんに誰が来ていたのかを尋ねた時、
彼女達の恐怖は頂点に達していたと言う。

患者さんの言葉が真実ならば訪ねてきた方々は
全員既に鬼籍に入られている方々ばかりだったからである。

そしてその夜、患者さんは静かに息を引き取った
だがその表情は迚穏やかで満ち足りた表情だった丸で懐かしい人達にやっと会えたかの様な笑顔だったと言う。

きっと患者さんは自分を迎えに来た方々と共に
天国へ召されたのだろうと二人は話をしていたという事である。

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