見出し画像

実話怪談~闇夜に光るヘッドライト~

A子はその日残業でかなり遅くなった。

明日の総会に必要な資料を作成していた為だった本来なら別の人間が作成する予定の物であったが何度自宅に連絡を入れても返事は返らなかった。

やむ得ず上司は彼の同僚のA子に仕事を回した

突然託されたA子は戸惑ったが期日も迫り、 断れる雰囲気でなかった為渋々仕事を受けた

慣れない仕事に戸惑い連日残業の日が続いた

其でも何とか間に合わせ深夜遅くに社を出たが、今度は帰り道の途中で雨が降り出した。

雨の中を走りながら家路に急ぐ彼女の前に
一台の車のヘッドライトが見えた。

車はどんどん近づき彼女の前で停車した。
『こんな夜遅くにどうしたの?』
窓から顔を出したのは仕事の前任者たる彼

余りに間の抜けた彼の態度に激怒した彼女は
思わず『貴方のせいでこうなったのよ』と
金切り声を上げて叫んだ。

『其は悪かったね、お詫びに家まで送ろう』と後部座席の扉を開け彼女を招き入れた。

憤懣やる方ない感じの彼女ではあったが、
誘いを断って帰ればびしょ濡れになる。

故に不承不承ではあったが車に乗る事にした

然し彼女の怒りは収まらず暫く愚痴が続いた、その愚痴を彼は辛抱強く聞いてくれたという。

愚痴る事に疲れ始めふと景色を見て彼女は驚いた帰る道とは全く方向違いの道を進んでいたから、その事に又彼女は激怒し愚痴大会が再開した。

それでも苦笑いを見せつつ彼は夜の道を走る

ふと、車が急停止しA子は前のめりになった、
『もう!危ないじゃないのよ!』と言って顔を上げた瞬間彼女は我が目を疑った。

其処に彼の姿はなく助手席側は霊園になっており丁度彼女の扉の向こうはある人の墓の前
驚いて車を出て墓石に刻まれた家名を見て更に彼女は驚いた。

その墓石は彼の代々の御霊が眠る墓石の前だったりらである。

『ちょっともういい加減にしてよ、これどういう冗談なのよ!出てきて説明しなさいよ!』彼女は怒髪天を衝いたが其処に彼の姿は無かった。

仕方なく車を降りて何気なく墓石の横に刻まれた御霊の名前を見ていてA子は思わず腰を抜かした。

其処には紛れも無い彼の名前があったのだ、
そしてその命日は正に一ヶ月前の今日だった

頭の中が真っ白になりその場にへたり込む彼女の背後に人の気配を感じ驚いて振り向くと其処には寺の住職と思しき男性が傘をさして立っていた。

彼のお母さんとご住職は同級生らしく、
偶、彼の死亡原因について聞く事ができた。

彼は一ヶ月前この墓前で手首を切り自殺した

死亡推定時刻は深夜遅く巡回の間の隙間、
故に御住職は御霊を救えなかった事を迚も
悔いておられたが其はやむを得ぬ事である。

住職によると彼の死の原因を作ったのは彼女に彼の尻拭いを命じた上司その人であったと言う。

資料を何度提出してもやり直しの一点張り、
何処を直したらよいか訪ねても自分で考えろと突っぱねて何の助言もしてくれなかったとか

彼が社内で女子社員に人気だった事に上司が
嫉妬しパワハラを繰り返していたのだという

今の御時世ならコンプライアンス等で社員の
人権も守られる筈だが当時はその様な物も無く、上司のパワハラやセクハラで会社を辞めたり、自死に至る者も少なくなかったという事である。

或る会社は余り多く社員が亡くなった結果、亡くなった社員の亡霊に社全体が脅かされ、
次々と怪奇現象が頻発し結果倒産したという

当時は其程就業環境は劣悪であった。

彼は己の無念さを誰かに伝えたくて
ずっと現世に留まりその機会を待っていた。

そして遂にその機会が訪れ彼女に真相を
知って貰うに至ったのである。

彼と彼女は単なる同僚以上の関係は無いが、
その彼女をして事の真相を聞いた時の悲しさと怒りは相当な物であったという。

彼の無念をこのまま闇に葬らせてはいけない、白日の元に晒し彼の魂を成仏してあげねばと彼女は急いで社に戻り事の真相をまとめ上げ、会議当日の日を迎えた。

事前に資料を上司に渡し総会が始まるのを待ち、終盤に差し掛かった時いきなり会議室に乱入し事の真相を標した資料を株主に配布。

辞表を片手に社長に其を叩きつけた上で、
彼女は彼の無念を注ぎたい一心で行動を起こしたのであった。

そんな彼女の勇気に影響を受けたのか其迄沈黙を保ってきた上司にパワハラやセクハラを受けた社員達も次々となだれ込み自らの被害を告白するに至った。

株主総会は大混乱に陥ったが原因を作ったのは、紛れもない其処に居る上司である。

乱入してきた社員全員に罰が下ったのは勿論、その原因を作った張本人は懲戒処分となった。

A子は彼の墓前で事の仔細を説明しこれで貴方も成仏出来るわねと彼の墓に笑顔で応えた。

その時、彼女の耳にははっきりと
『有難う』と彼の声が聞こえたのだという。

その後彼女は新しい会社に入社しそこで運命の出会いを果たし結婚退職し今は子育てに奮闘中との事であった。

彼女曰く結婚迄ありえない速さでトントン拍子に事が運んだのはきっと彼が天国から後押しをしてくれたに違いないと言っているのだそうである。

そんな彼女の息子の名は彼の名前の一字を
貰ってつけられた物だと言う。

だからという訳では無いだろうが息子は小さい頃から目に見えぬ存在を察知する能力に長けているらしい。恐らく夫婦には見えなくても息子の目にはきっとあの彼の姿が見えているのだろう。

サポート頂いた方の思いを私なりに形にし世界へ発信していきたいと考えています。人は思いによって生かされている事を世界へ発進する為の資金に使わせて頂きます。