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呟怖~視線~

#呟怖
#創作大賞2022
#創作怪談

或る頃からかA氏は誰かの視線を  
感じるようになっていた。

最所は単なる気のせいと 
余り気にも留めなかったのだが、
日毎その感覚は鋭くなり
遂には直ぐ側から見られている、
そんな感覚に襲われた。

流石にこれでは仕事に支障が出ると、
神経内科を受診、薬を処方され
服用するもやはり突き刺すような視線が
消える事は無くほとほと困り果てていた。

そして遂に事件は起きた。

交差点で信号待ちしている時、
いきなり是迄感じた事の無い
強い視線を感じた彼は
咄嗟に飛び出してしまい
乗用車に轢かれ、救急搬送された。

幸い、怪我は大した事はなく
数日間の検査入院後、
無事に退院する事が出来た。

帰宅後何となくフラッシュバックしてきた
事故当時を思い出し彼はハッと視線の正体に
気づいた。

其れは彼が学生時代の頃迄遡る。

苦学生だった彼は
少しでも実入りの良いバイトを
しようと本来禁止されていた、
水商売、即ちホストクラブで 
バイトをしていた。

決して目立つ方ではなかったが、
その一生懸命な姿勢が女性客には
可愛いと映ったのか結構指名を頂戴していた

その中にB子という一人の女性客が居た

最初は極普通に彼と接するだけだったか
何時の頃からか毎日通い詰める様になり、
毎回彼を指名するようになって行った。

彼の方も毎回指名料を貰えるので
実にWin-Winの関係だったのだが
ある時期を境にB子の行動が
段々と問題になってきた。

他の客の指名を妨害したり出待ちしてたり、
同伴客と揉め事を起こす様になった。

遂に店から迷惑客として
出禁を食らうも其を無視して
彼に付き纏う様になり、
遂には下宿先に迄押し掛ける様になった。

店はこれ以上被害を与えられては困ると
バイトもクビになり彼は遂に刑事告訴した。

勿論結果は有罪、
B子は彼の周囲に近づく事を
法的に禁じられその後姿を見なくなった。

其のB子の彼を睨む視線が、
正にあの視線だと気付いたのである。

暫くなりを潜めていたと思っていたら、
又、ストーカーし始めたのかと思うと
腹立たしさに腸煮えくり返り
早速興信所を使って調べて貰う事にした。

そして動かぬ証拠を掴み
今度こそ入牢させてやろうと
思ったのである。

数日後、待ちに待った
興信所からの報告が来た。

封を開けるのも早々に
彼は書面に目を通す、
然し次の瞬間、彼は茫然自失となり、
思わず床に書類を落としてしまう。

そこにはこう書かれていた。

“B子は数年前に既に他界している”と。

興信所の調べによれば判決が出た直後、
B子は自室で首を吊り自殺を図っていた。

そんな馬鹿な!
彼は頭を抱え絶叫し床を転げ回った。

まさかそんな事が!
ならばあの突き刺す様な視線の主は
誰だと言うのか?

その日を境に彼は完全に
抜け殻となってしまった。

会社も無断欠勤が続き
遂には辞職勧告が出される事となった。

心配になった同僚が
彼のアパートを尋ねた時には
部屋は完全にゴミ屋敷と化して、
彼自身も異臭を放つ程
汚れきっていたと言う。

仲間数人で何とかゴミを片付け
彼を風呂へ入れ元の状態に戻す事は
出来たが彼自身の抜け殻状態はそのまま。

同僚の一人がお祓いにでも
行ってみたらと言われ
藁をも掴む思いで近くの寺へ行き
事情を説明し除霊をして貰う事になった。

運良く除霊後彼女の視線を感じる事は無く
今迄の非礼を土下座して会社に詫び、
仲間の説得もあり会社復帰を果たした。

其れからは人が変わった様に
彼は仕事に邁進しその御陰で
出世し、結婚して所帯を持った。

昔の様に視線に怯える事もなくなり
幸せな生活をやっと取り戻したかに見えた。

然し最近、彼の奥さんの様子が
少し可笑しい事に気付いた。

やたらと周囲を気にするようになり
常に何かに怯える様な素振りを
見せはじめるようになった。

何の事は無い、B子はまだ
彼を完全に諦めた訳ではなかったのだ。

只、その標的を彼から
彼の妻に変えただけに
過ぎなかったのだ。

さてさて、彼の運命や如何に。

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