あんたはここでふゆと死ぬのよ百人一首(前編)
秋の気配も深まる頃合いとなった。皆様はいかがお過ごしだろうか。
さて、私は相変わらずアイマスにうつつを抜かしながらFGOの聖杯戦線のクソゲーぶりに苛立ち、ドルフロで日々60個のクマのぬいぐるみを集める日々を過ごしている。
そんな中、こんなワードが突然ブームを巻き起こした。
「あんたはここでふゆと死ぬのよ」
「ふゆ」とはアイドルマスターシャイニーカラーズに登場する黛冬優子の……まぁ一人称であると思ってもらって良い。詳細を説明すると別に記事を立てねばならんので割愛する。
さて、ひとつ重要なことをお伝えするが、冬優子はゲーム中で一度もこの台詞を口にしていない。シャニマスが削るのは審査員のHPであったりプレイヤーの心だったり財布だったりするが、命の削り合いまではしない。
なのでこの台詞がゲーム中に登場するはずがないのである。ないのであるがめっちゃ言いそう。それゆえ途端に謎のブームとなった。
もうひとつこのワードの特徴としては、日本人の遺伝子に刻みつけられた7音+7音の心地よさがあげられる。そして、七七といえば和歌・短歌であり、Twitterでは適当な俳句に「あんたはここでふゆと死ぬのよ」をくっつけるのが大流行した。江戸時代からやってること変わらない。
そして日本人の遺伝子に刻みつけられた五七五七七のリズムといえば、お正月の風物詩であり、瀬戸麻沙美ないし広瀬すずのちはやぶってる様を思い出すアレ――そう百人一首である。
そうして私は思いついた。
「百人一首の下の句、ぜんぶ『あんたはここでふゆと死ぬのよ』にしてみたら面白いんじゃないか?」
ということで令和の藤原定家こと私が、小倉百人一首に続く新たなるスタンダード「あんたはここでふゆと死ぬのよ百人一首」をお目にかけたいと思う。選者(※私のことだが正確にはなんも選んでない)のコメントも合わせてご賞味あれ。
なお、元の歌たちの通し番号や漢字仮名表記等はこちらのサイトに準じる形とさせていただいた。悪ふざけに使っといて感謝もないもんだと思うが、サイトの管理者並びに小倉山荘の美味しいおかきに改めてお礼を申し上げる。
1 秋の田のかりほの庵のとまをあらみ あんたはここでふゆと死ぬのよ(天智天皇)
稲刈りを終えた田んぼの田園風景にいきなり立ち上る殺意。大化の改新後、弟である大海人皇子と袂をわかった天智天皇の史実を思わせる殺伐さと哀愁が伺える。平和とは長く続かないものなのだ。
2 春過ぎて夏来にけらし白妙の あんたはここでふゆと死ぬのよ(持統天皇)
季節の移ろい、つまり万物が流転する儚さを死に繋げるという王道の構成。
3 あしひきの山どりの尾のしだり尾の あんたはここでふゆと死ぬのよ (柿本人麻呂)
いきなり心中クラスの殺意を向けられた鳥さんはいい迷惑である。
4 田子の浦にうちいでて見れば白妙の あんたはここでふゆと死ぬのよ(山部赤人)
デートの誘いだと思って船に乗り、沖に出て真っ白い波濤を眺めていたら向かってくる殺意。二時間サスペンスの冒頭にありそう。
5 おく山に紅葉ふみわけなく鹿の あんたはここでふゆと死ぬのよ (猿丸大夫)
紅葉の風情とか関係なしに自然界は弱肉強食こそが絶対のルール。
6 かささぎのわたせる橋におく霜の あんたはここでふゆと死ぬのよ(中納言家持)
これは氷結系能力者の冬優子ちゃんっすね、わかるっす!かささぎは真乃ちゃんの能力で出てきたやつっすよね!!
7 天の原ふりさけ見れば春日なる あんたはここでふゆと死ぬのよ (安倍仲麿)
遠く中国の地で故郷を思って詠んだ歌だったはずが、「回想は負けフラグなのよ!」とか言って乱入してくる冬優子。カブトボーグの敵役か?
8 我が庵は都のたつみしかぞすむ あんたはここでふゆと死ぬのよ (喜撰法師)
友だと思っていた相手の讒言が原因で左遷され山奥に居を構えた主人公が、そこに仇敵を呼び出して復讐を果たす、そんなダークヒーロー黛冬優子の物語が伺える。余談だが筆者が百人一首で一番好きな歌である。
9 花の色はうつりにけりないたづらに あんたはここでふゆと死ぬのよ (小野小町)
イベント「283アジェンダ」のコミュで捨てられたCDの山に思いを馳せ、「こうならない」と決意する様が思い出される。小野小町ほどの美貌であってもいつかは色褪せるもの、ならばこの場で刺し違えるというアイドル・黛冬優子の決意が読まれた一首。
10 これやこの往くもかへるも別れては あんたはここでふゆと死ぬのよ (蝉丸)
征くも地獄、帰るも地獄ならばここで永久の別れをもたらさんとする強い女の描写。こういうの好き。
11 わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと あんたはここでふゆと死ぬのよ (参議篁)
山部赤人に続き、船で漕ぎ出したらそれはもう戦の合図であることが明らかになった。
12 天津風雲の通ひ路吹きとぢよ あんたはここでふゆと死ぬのよ (僧正遍昭)
艦これの天津風をご存知だろうか。彼女はツンデレである。そして黛冬優子もツンデレである。キャラかぶりは許さない、雲が風で吹き飛ぶようにここでとどめを刺すという強い意志が見える。
余談だけど僧正遍昭って名前リズム感が良いですよね。
13 つくばねの峰よりおつるみなの川 あんたはここでふゆと死ぬのよ (陽成院)
山中の川でバトルして刺し違える、なんか平成仮面ライダーの初期で見たような気がするシチュエーションである。筑波山というロケーションも絶妙。
14 陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに あんたはここでふゆと死ぬのよ (河原左大臣)
「しのぶもぢずり」というのは乱れ模様の衣のことだそう。つまり、恋に乱れて訳が分からなくなったのでその原因を作った貴方を愛ゆえに殺します、という激情の歌である。中森明菜とかが歌ってそうですね。
15 君がため春の野に出でて若菜つむ あんたはここでふゆと死ぬのよ(光孝天皇)
春の野原でピクニックと思いきや、いきなり向けられる殺意の刃。一瞬の油断も許さないスリリングな女、それが黛冬優子である。
16 立ち別れいなばの山の峰に生ふる あんたはここでふゆと死ぬのよ (中納言行平)
「生」と「死」の文字による対比が美しい。立ち別れという言葉からは「立ったまま死ね!!!」という強い意志が見える。
17 千早ぶる神代もきかず龍田川 あんたはここでふゆと死ぬのよ (在原業平朝臣)
黛冬優子、バトルのロケーションに川を選びがち。しかし冬優子は「千早ぶる」というには胸がありすぎる気がするが、それはまた別の物語。ゆえに別のとき、別のところで語るとしよう。
18 住の江の岸による波よるさへや あんたはここでふゆと死ぬのよ (藤原敏行朝臣)
住之江の岸に寄せる波のように、夜でさえ寄ってくるあんたはここでふゆと死ぬのよ。長きにわたる因縁をここで精算するという意志のあらわれ。
19 難波潟みじかき芦のふしの間も あんたはここでふゆと死ぬのよ (伊勢)
芦の節と節との間のような短い人生だったけど、あんたとここで刺し違えるなら本望だわ。死に際にこんなカッコいいこと言える女は最高だと思います。
20 わびぬれば今はた同じ難波なる あんたはここでふゆと死ぬのよ(元良親王)
「わびぬる」とは「思い悩んでしまった」の意。ずいぶん思い悩んだけど、どうなっても同じなら命がけであんたを倒すわ!という歌になります。吹っ切れた黛冬優子は強い。
21 今来むといひしばかりに長月の あんたはここでふゆと死ぬのよ (素性法師)
「今すぐ来る」って言った割に九月の夜長をひたすら待たされたけど、こんな風にあんたと時を過ごして一緒に死ぬならそれも悪くないわね、みたいになりました。めずらしく甘めのエンド(とは?)
22 吹くからに秋の草木のしをるれば あんたはここでふゆと死ぬのよ (文屋康秀)
下の句の言葉遊びがたいへん技巧的で良いのですが、当然全部なくなったので「秋風に吹かれる草木のようにアンタを枯らしてやるわ!」という精一杯の虚勢になりました。これはこれで。
23 月見ればちぢにものこそ悲しけれ あんたはここでふゆと死ぬのよ(大江千里)
月を見て物悲しい思いに耽りながらも、敵が現れたら即座に臨戦態勢に入る。そうした切り替えの速さは時に重要です。
24 このたびは幣も取りあへず手向山 あんたはここでふゆと死ぬのよ(菅家)
幣とは「神様への捧げもの」という意味だそうですが、「あんたも私も、ここで死んだら一緒くたに神様に捧げられるのよ」という無常観が出ますね。
25 名にしおはば逢坂山のさねかづら あんたはここでふゆと死ぬのよ (三条右大臣)
さねかづらとは蔓の生える植物のこと。「有名な逢坂山にあるさねかづらの蔓をたぐるように、因縁をたどってあんたにようやくたどりついたわ……」という執念の歌。
26 小倉山峰のもみぢ葉心あらば あんたはここでふゆと死ぬのよ (貞信公)
山の紅葉に向けて「心があるならば」と言っておいて殺意をぶつけてくるの、心がないのはどっちだよという気分にさせられる。
27 みかの原わきて流るる泉川 あんたはここでふゆと死ぬのよ(中納言兼輔)
黛冬優子川バトル名勝負シリーズ。
28 山里は冬ぞさびしさまさりける あんたはここでふゆと死ぬのよ (源宗于朝臣)
何もない山里は冬になると寂しさが一層募るけれど、この場所であんたはふゆと暮らしてそして死んでいくの……という寂しさの中にあるささやかな幸せ。こういうのもいいですね。
29 心あてに折らばや折らむ初霜の あんたはここでふゆと死ぬのよ (凡河内躬恒)
pSSR「オ♡フ♡レ♡コ」のコミュがバンプのスノースマイルっぽいと言われていましたが、なにかそこに通じるものがあるように思えます。冬の寂しさの要素を入れると下の句が「寄り添って生きていく」に見えてくるのは何?
30 有明のつれなく見えし別れより あんたはここでふゆと死ぬのよ (壬生忠岑)
そっけない別れをするくらいなら、熱い燃えるような心中を選ぶ。情の強い乙女だ……
31 朝ぼらけ有明の月と見るまでに あんたはここでふゆと死ぬのよ (坂上是則)
朝が来るまで必死で持ちこたえてなんとか鬼舞辻無惨を倒そうとしているように見える。
32 山川に風のかけたるしがらみは あんたはここでふゆと死ぬのよ (春道列樹)
また山とか川でバトルする。しがらみというワード、因縁の表現としてとても好きなので良いです。
33 久かたの光のどけき春の日に あんたはここでふゆと死ぬのよ (紀友則)
これはおだやかな春の日に一緒に命が尽きるまで添い遂げるやつ。
34 誰をかも知る人にせむ高砂の あんたはここでふゆと死ぬのよ(藤原興風)
「誰を親しい友人にしようか」と言って、「あんたはここでふゆと死ぬのよ」を突きつけてくるの、「あんたは友達としてあたしのために死ねるの?」と聞かれているわけで、それは信頼の証にほかならないんですよ。
35 人はいさ心も知らずふるさとは あんたはここでふゆと死ぬのよ (紀貫之)
郷里に現れた仇敵をこの村に一歩たりとも入れるわけにはいかない。「あんたにはふるさとを思う心なんてないでしょうけどね」と言いながら戦いに臨む冬優子、なんかトライガンで見た気がする。
36 夏の夜はまだよひながら明けぬるを あんたはここでふゆと死ぬのよ(清原深養父)
「夏の夜ってのは短いのね。戦ってたらもう夜明けじゃない。でも、日が昇るまでには死んでもかたをつけるわ!」バトル漫画の引きのコマだ。
37 白露に風の吹きしく秋の野は あんたはここでふゆと死ぬのよ (文屋朝康)
秋の野原、葉の上にある露のしずくが敵と対峙する冬優子を魚眼レンズのように映すカットが入って台詞が流れるやつ。ufotableが好きそうな演出。
38 忘らるる身をば思はず誓ひてし あんたはここでふゆと死ぬのよ (右近)
いつか忘れ去られる自分の身は案じていない、だけど死んでもあんたは倒す。アニメだったらこの台詞が入った後イントロからエンディングに入る。
39 浅茅生のをののしの原しのぶれど あんたはここでふゆと死ぬのよ (参議等)
まばらに草が生えた野原で戦いに臨む。和風RPGのボス戦にありそうな風情で良いですね。
40 しのぶれど色に出でにけりわが恋は あんたはここでふゆと死ぬのよ (平 兼盛)
隠しているはずなのに恋心が顔色に出てしまう。「そんなことを知られるくらいならあんたを殺してふゆも死ぬ!」というツンデレラブコメヒロインの王道を行く展開。そうですこれを待っていた。
41 恋すてふわが名はまだき立ちにけり あんたはここでふゆと死ぬのよ (壬生忠見)
……とか言ったのに、冬優子が恋をしているという噂が立ってしまった。「あんたが漏らしたんじゃないでしょうね、だったらほんとにあんたを殺してふゆも死ぬわよ!」というツンデレラブコメヒロインの王道。……完全に連作じゃねえかコレ。
個人的には平兼盛と壬生忠見の間のこれらの歌にまつわる因縁も好きだったりします(随分昔に夢枕獏の陰陽師で読んだやつ)
42 契りきなかたみに袖をしぼりつつ あんたはここでふゆと死ぬのよ (清原元輔)
「かたみ」というワードがあるので「あんた」はもう死んでいることが伺えます。つまり、故人を思いながら「あんたはここでふゆと死ぬはずだったのに……ばか……」と言っているパターン。未亡人冬優子、アリでは!?
43 逢ひ見ての後の心にくらぶれば あんたはここでふゆと死ぬのよ (権中納言敦忠)
「実際に逢ってからの恋心に比べれば」という上の句から続く、「あんたはここでふゆと死ぬのよ」という狂おしいまでの激情。恋心とは己を焦がすことがわかっていても、止められないほど急激に燃え上がるものなのです。
44 逢ふことの絶えてしなくはなかなかに あんたはここでふゆと死ぬのよ (中納言朝忠)
「逢うことがなくなったらかえって思いが募るので、恋を幸せなままにしておくならあんたとここで一緒に死ぬのもいいかもね」という惚気です。ひゅーひゅーと言いたくなるアツアツぶりだな(久川凪)。
45 あはれともいふべき人は思ほえで あんたはここでふゆと死ぬのよ (謙徳公)
「自分のことを哀れんでくれる相手は思いつかないから、あんたが(そういう人になっていつの日か)あたしとここで死んでくれる?」という命がけの告白。佳い……。
46 由良のとをわたる舟人かぢをたえ あんたはここでふゆと死ぬのよ (曽禰好忠)
「由良」とは由良川のこと、「と」とは河口で川と海がぶつかる場所なので、たいへん流れの激しい川の出口をイメージしてもらえばよいか。そんな場所で船乗りが舵をなくしたらエライことなのはおわかり頂けるだろう。
それぐらい緊迫した状況であっても、最低でも刺し違える状況に持っていくという自負が伺える。
47 八重むぐらしげれる宿のさびしきに あんたはここでふゆと死ぬのよ (恵慶法師)
あてのない旅の果てにたどり着いた場末の宿で得た束の間のぬくもりに、もうここで二人で死んでも良いかも……と思っている。こういうちょっとビターな風味も良いもの。
48 風をいたみ岩うつ波のおのれのみ あんたはここでふゆと死ぬのよ (源重之)
風、岩、波。巌流島の決闘を思わせるシチュエーションで戦いに臨む。時代劇が好きならたまらないシチュ。正直一番カッコいいやつかもしれない……
49 御垣守衛士のたく火の夜はもえ あんたはここでふゆと死ぬのよ (大中臣能宣朝臣)
衛兵が火をたき不寝番をしている、それだけで厳戒態勢であることは伺えますが、そこに大胆不敵にも現れた仇敵。下っ端の衛兵では相手にならず一蹴される中、颯爽と現れる冬優子!これもカッコいい!!!
50 君がため惜しからざりし命さへ あんたはここでふゆと死ぬのよ(藤原義孝)
冬優子にとっては命とは使い捨てるものだった。だが、その命を本当に捧げても良いと思える出会いを経て、「命を使う」ことの意味を考え始める。そして最愛の存在を危機から守るために、初めて納得の上でその生命を使う覚悟を固める――!!!いやあまりにもマッチし過ぎではないですか???
というわけで「あんたはここでふゆと死ぬのよ百人一首」前半戦でした。
後半に続く!(キートン山田)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?