ほぼ初めての舞台鑑賞で『スクールアイドルミュージカル』を観に行って深く刺された話

去る1月29日。ラブライブ!シリーズ初のミュージカルとして企画された『スクールアイドルミュージカル』は全公演を無事に終え、大千穐楽を迎えました。
Twiterで「#スクールアイドルミュージカル」「#みんなで叶えるSIM」のタグを見てみると、演じたキャストさんや見たファンの方、関わったスタッフの方が一体となって感想や感謝の言葉をツイートしており、それだけで今回のミュージカルが非常に素晴らしいものだったことが分かると思います。

本企画が発表された初報の時点で、私は「ラブライブがミュージカルになるの?え、作中の舞台は関西なの?しかも大阪と神戸の学校?マジで?行くしか無いやん!」とノリノリで大阪公演のチケットを申込んでいました。
そして昨年12月大阪に先立って東京公演が開幕。観に行った人たちは揃って「めちゃくちゃ良かった」と口にします。それも、ラブライブシリーズに思い入れの深い人ほどやられている、そんな感じでした。それを見た私は更に期待を膨らませながら、チケットを取った28日を迎えることになりました。

■ほぼ初めての舞台鑑賞、でも大丈夫

私はラブライブやアイマスをはじめ、ライブをやるコンテンツを色々追いかけているので、「ライブに行く」という経験は世間一般の人より豊富だと思います。
ただし「舞台」とか「ミュージカル」と呼ばれるものを観に行くのは今回がほぼ初めて。「ミュージカル」としては、大昔にテニミュを観に行ったことがあるのですが、あれもノリとしてはオタクコンテンツのライブに近いと思います。
会場である梅田芸術劇場も毎朝電車の窓から見ていますが、中に入るのは今回が初めてでした。劇場のロビーの雰囲気とか客席の椅子の柔らかさとか「わぁ……すげぇちゃんとしてる……」(語彙)という感じで、ちょっと気後れしてしまう部分も。
(あとこれは余談ですが、会場内のお手洗いがデフォルトで男性用より女性用のほうが多く設置されていたのが、「舞台鑑賞ってやっぱり女性がメイン客層のコンテンツなんだな……」と実感できておもしろかったです)
それでも特に不安になく鑑賞できたのは、事前に公式から舞台鑑賞についてのアドバイスを出して頂いてたのが大きかったです。

カーテンコールではライトを振って応援できるライブパートもあるため、各メンバーのカラーやペンライトのレギュレーションまで書いてくれてるのはありがたかったです。
この辺りの対応ひとつとっても、ステージを見に来る私達が何を求めているのかちゃんと分かってくれている、そんな安心感がありました。

■ラブライブのお約束を押さえつつ「スクールアイドルとは」を描くストーリー

そんな「ちゃんと分かってくれている」感覚は、メインとなる舞台の内容についても同じ。
本作は、全く初めましてのキャラクターで、アニメやゲームではないミュージカルという媒体で語られる物語です。言ってみれば、私達が普段親しんでいるコンテンツやキャラクターとは少し遠い世界。それでも、「これは間違いなくラブライブであり、スクールアイドルの物語なんだ」と感じられる、そんなお話でした。

主人公は芸能コースがある滝桜女学院の理事長の娘・滝沢アンズと、伝統校である椿咲花女子高校の理事長の娘・椿ルリカの二人。
アイドルとしてのメジャーデビューを目前にして自分のやりたいことが見えなくなり悩むアンズと、アンズのステージに魅了されアイドル部を立ち上げようと奔走するルリカ。そうして「ときめき」や「大好き」を原動力に動き出す物語は、まさしくラブライブの各シリーズで繰り返し描かれてきたメインテーマそのものでした。
また、それ以外にもシリーズの「お約束」をきちんと取り入れた展開が多々。アンズに憧れるルリカの姿には、A-RISE←穂乃果(μ's)←千歌(Aqours)と繋がる憧れのベクトルや、せつ菜のライブを見てときめく侑の姿が、活動に真摯に打ち込むからこそプレッシャーを感じるアンズの姿には、自らの在り方に悩む梨子やせつ菜たちの姿がそれぞれ重なってしまいます。
中盤で滝桜から椿咲花に転校してきたアンズとルリカ、そしてルリカの幼馴染・ユズハを含めたトライアングルには、サンシャインの千歌/梨子/曜や、虹ヶ咲の侑/歩夢/せつ菜の関係性がダブって見えますし、虹ヶ咲以外のシリーズで登場する「学校の存続問題」も絡んできます。
ただ、本作はそうしたシリーズの伝統を単なるファンサービスやお約束の消化にするのではなく、「スクールアイドルとは?」というラブライブ全体の根幹ともいうべきテーマにきちんと踏み込むためのものにしているのが印象的でした。

そこには、本作がタイトルに「ラブライブ」の文字を冠さず、「スクールアイドルミュージカル」とした意味も込められていると思います。
劇中では「ラブライブ」という言葉はおろか、「スクールアイドル」という言葉もクライマックス直前まで登場しません。
母の期待を背負い、目標だったメジャーデビューを控え葛藤を抱えていたアンズと、母を支えるという亡父との約束を果たそうとするルリカが「やりたいこと」に向き合った結果辿り着いた結論は、「学校の部活動としてアイドルをやる」「特別じゃなくてもいい、やりたい気持ちがあればアイドルを始めて良い」……まさしくスクールアイドルという在り方そのものでした。
理事長の二人がガラケーを使っている、動画配信といった概念が登場しないことなどから、おそらく劇中の時系列は00年代のどこかと想像できます。μ'sすら影も形もない時代に、スクールアイドルという概念にたどり着いた少女たちがいた――本作はいわばラブライブ世界のオリジンを描く物語でもあったわけです。そりゃシリーズに思い入れがある人ほど刺さる訳だよ……

■演出に見る「ラブライブらしさ」と「ミュージカルらしさ」

そんな風にきちんと「スクールアイドルの物語」を描ききっている本作ですが、演出についても語っておきたいと思います。
思い返せばもう10年前。μ'sの活躍を描いたアニメ第一話の冒頭は、路上での「ススメ→トゥモロウ」の歌唱シーンでした。時を重ねて、このようなミュージカル調のシーンづくりはいつしかラブライブシリーズの伝統と言うべきものになっていきました。もちろんステージで歌うライブシーンもたくさんありますが、路上や学校、街中での歌唱シーンも非常に印象的です。

なので、ラブライブの世界とミュージカルの相性が良さそうなことは、鑑賞前からなんとなく感じていました。そうして実際に舞台を見てみると、「相性が良さそう」どころじゃないベストマッチぶり。

ラブライブのアニメにおける歌唱シーンは各話のハイライトでもあり、歌割りやダンス、演出に様々な文脈が乗った情報量の塊でもあります。
本作でもそうした文脈を乗せるような演出は存分に発揮されており、滝桜メンバーがメインの『ひらりきらり舞う桜』、アンズと椿咲花のメンバーで作った『君と見る夢』の劇中での使われ方は、百点満点中百億満点でした。

まず、『ひらりきらり舞う桜』。冒頭で滝桜のメンバーによる歌唱が披露されるのですが、まずその完成度に度肝を抜かされます。
その後で、アンズにときめきを感じたルリカが滝桜のメンバーに混ざってこの曲を歌うシーンがあります。これはルリカの夢の中の出来事なのですが、ルリカの明らかに違和感のある動きが、それを強調しています(一糸乱れぬフォーメーションの中を自在に動き回るルリカ役の堀内さんもすごい)。それと同時にメジャーデビューを控える滝桜女学院アイドル部と、それに憧れるルリカの現在の距離感をも感じさせるシーンでした。これが後のクライマックスでは、アンズが椿咲花のメンバーに混ざってパフォーマンスするという真逆の構図になります。ルリカとアンズ、二人にとってまさしく対極からのスタートを表した曲だといっていいでしょう。

そしてなんといっても、『君と見る夢』の劇中での使われ方が本当に素晴らしいのです。歌詞の中に登場する「あなた」と「キミ」は、アンズとルリカのことにも、ルリカとユズハのことにも聞こえます。
ルリカが立ち上げた椿咲花のアイドル部のために、ユズハが歌詞を、アンズが曲をそれぞれ担当したこの曲は、歌詞や歌割りを見ると「決してひとりでは歌えない曲」であることを意識されているように思います。そしてそのことが作中の演出にめちゃくちゃ効いてくるのです。
まず、アンズが滝桜に戻り消沈する椿咲花のメンバーと、そんな中1人でもストリートライブに挑もうとするルリカのシーン。もとはアンズが歌っていたパートを担当し、孤軍奮闘するルリカに手を差し伸べるのが幼馴染のユズハ。まずここで一回泣きました。
そしてクライマックス、滝桜の文化祭にオープニングアクトとして参加することになった椿咲花アイドル部のメンバー。当然歌うのはこの曲なのですが、ダンスも歌も、明らかに一人分のポジションやパートが抜けてます。そう、アンズの居場所を用意して待ってくれているのです!ここでアンズの背中を押し、ルリカたちのもとに快く送り出してくれる滝桜のメンバーもめちゃくちゃいいし、そしてそれがクライマックスでの理事長たちの和解と二校の合併につながっていく、というのももう……もうね……泣くしか無いだろこんなん……(語彙消失)
ついつい取り乱しましたが、楽曲の使い方、活かし方の上手さは非常にラブライブイズムを感じる部分であった、ということが伝われば嬉しいです。

また一方で、ミュージカルらしい良さが光る部分もたくさんありました。
最初に語るべきは、キャスト陣の表現力のすごさ。ダンスはもちろん、ちょっとした動きや所作でキャラクターを表現する力のすごさにやられました。特に、「運動が苦手」というユズハが時折見せる変な動きとか、滝桜アイドル部の部長・ミスズの堂々として美しい立ち姿は目を引きました。
もちろん、舞台上を元気いっぱいに動き回るルリカと、アイドル部のセンターとしての確かな存在感を見せるアンズ、主役の二人もそれぞれ違った華やかさがあって素晴らしかったです。
加えて、プロの舞台人って本当にすごい!と思わされたのが脇を固める理事長役のお二人と、八名のアンサンブルキャストの皆さんでした。まず、ベテランの風格と圧倒的な歌唱力で物語に深みをもたらしてくれた理事長の二人の存在感は本当にすごかったです。娘たちのスクールアイドル活動を通して、それぞれ娘との関係性、お互いの関係性を見直して大団円の結末に向かっていく姿は、もうひと組の主役と言っても過言ではないでしょう。スペシャルアンコールで思いっきり娘を応援するはっちゃけぶりも、微笑ましくて良かったです。
そして様々なシーンでモブ役を担当したアンサンブルキャストの皆様の凄さ。二校のモブ生徒の雰囲気の違い、私立高校の会議シーンで披露されるやたら解像度の高い関西のおばちゃん的空気感、そしてときに主役の十人を食わんばかりのクオリティで披露されるダンスと歌唱。それらをたった8人で表現しているという事実には感嘆するほかありませんでした。
あとは、裏表がそれぞれの学校の背景になっている回転舞台の使い方も舞台ならではの要素で面白かったです。角度の付け方で学校だけでなく舞台裏やストリートなど様々な場所を表現したりするのは、めちゃくちゃ考えられててすげえ!になりました。

そして、関西人として個人的に期待していた地元要素も、あちこちに散りばめられていて大変満足でした。
椿咲花の校歌に出てくる北野坂や、マーヤが雑誌を買いに行くアニメイト、ユキノがおつかいで頼まれたケンミンの焼きビーフン(千秋楽の日は551の豚まんだったそうな)、ストリートライブの会場となったハーバーランド……それらは全て、私にとって子供の頃から慣れ親しんだものばかり。
そんな自分と縁の深い場所が、ラブライブという大好きなコンテンツの舞台となってくれたことにも、嬉しさを感じます。

■いつかまた、みんなに会いたい

そんなこんなで「ラブライブらしさ全開のまっすぐなストーリー」「初めて体験するミュージカルの素晴らしさ」「慣れ親しんだ地元へのリスペクト」がたっぷり詰まった約二時間半の公演は、本当に楽しいものでした。

ちなみにこれを読んでいただいている皆様は、メンバーの推しは出来ましたか?私は天草ヒカルちゃん!

私は活動的でかっこいい女の子が好き!そしてみんなを締めてくれるポジションの子が好き!なので一幕目が終わった瞬間にアクキーを買いに走っておりました。
マーヤをはじめとした椿咲花のメンバーの行動にツッコミを入れつつも、アイドル部をやりたいというルリカに積極的に乗っていくアクティブな姿勢がすごく良かったです。あと黒髪ストレートのポニーテールが「お嬢様学校の運動部のエース」感があって最高ですよ。
ちなみにスペシャルアンコールでもずっとヒカルの姿を追いながら緑のコンサートライトを振っていましたし、演じた小山璃奈さんのTwitterもフォローしてしまいました(行動力だけはあるオタク)。
……ただやはり物語の主役はルリカとアンズなので、スポットライトが当たる機会が少なかったのも事実です。他のキャラクターについても、もっと掘り下げが欲しい!というのも正直なところ。
ルリカとユズハの幼馴染馴れ初めエピソードとか、ユキノとトアの後輩組がどうしてそれぞれルリカとアンズに憧れるようになったのかとか、アンズをライバル視するミスズの心境とか、学校が合併してスクールアイドル活動を始めてからのわちゃわちゃとか、学生時代からライバルだった理事長二人の過去エピソードとかめちゃくちゃ見たいものがありすぎる……!!
それ以前に今回のミュージカルが映像ソフトにも残らないのが勿体なすぎるし、予定されている唯一の供給である5月のボーカルアルバム発売まで長過ぎる……!!

いきなり早口オタクになってしまいましたが、何らかの形で、できれば同じキャストさんで、またこの世界でスクールアイドルをやっている10人の姿を見てみたい!というのが心からの願いです。
ミュージカル鑑賞の経験がほぼ皆無の私のような人間を深く刺していった素晴らしい舞台が、より多くの人の目に触れる機会があってほしいと思います。ハッシュタグで感想を追っていると、私のようなラブライブのオタクだけでなく、キャストさんのファンやミュージカルが好きな人にも、その良さはきちんと伝わっているみたいです。そうして色んな垣根を超えて刺さるだけの力を持ったこの作品が、もっとたくさんの人に届いてほしいし、その世界がもっと深く、大きく広がっていってほしい。
荒唐無稽な願いかもしれませんが、何かを願って言葉や行動に移すことは、きっと何かを動かすと信じたいです。それは私達がルリカやアンズたちの姿から受け取ったメッセージでもあると思うからです。
再演でも、BD化でも、続編でもいいです。
いつかまた、みんなに会いたい。願うことは、ただそれだけです。

そんな願いがいつか叶うことを祈りながら、この文章の締めとさせていただきたいと思います。

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