円高だったが、感覚は今より円安だった

円高だった

●円高だった
 円高だった。1ドルが90円を割り、80円台にも突入していた。
 それでも節約するために、南回りの航空券を手に入れた。タイ・バンコク経由のチューリヒ行き。ヨーロッパを周遊しようと、ユーレールパスも持っていた。学生だから、もちろん、2等車のみに有効のパスだ。
 そんな一人旅だったが、最終目的地の北欧の物価高に備えて節約の日々だ。だが、最初のチューリヒでいきなり難題にぶち当たった。空港から中央駅へ列車で向かい、駅の売店でコーラを購入した。円高だったが、日本で買う2~3倍ほどの値段で驚いた。スイスって、なんて物価が高いんだ! チューリヒの宿に泊まろうと考えていたが、コーラの値段にすっかり気持ちがしぼんでしまい、物価の安いイタリアへ移動することを考え始めた。朝に到着して、その日の昼過ぎには。
 幸い、ユーレールパスを持っていたので移動にはさらなる費用がかからない。バンコクから12時間のフライトで疲れ果てていたが、若くて体力があった。長い旅のことを考え、費用の節約を最優先にした。それで出した結論が、ローマへの夜行列車を予約することだった。幸い、ローマへの列車出発までに時間の余裕があり、チューリヒでの宿泊費用を節約することは出来そうだった。そうなると、残った時間で街を回ることにした。
 ヨーロッパを周遊しようと考えていたため、ガイドブックの類はほとんど持ち合わせていなかった。駅のインフォメーションで地図をもらい、チューリヒ湖なら駅から近そうだということもあって、行ってみた。チューリヒの思い出といえば、その湖と、コーラが高かったことだけだ。昼食で何を食べたかも忘れてしまった。それぐらい、スイスの物価の高さは貧乏学生旅行者には強烈な印象を残した。
 あれから30年が経った。スイスへはそれ以来行っていない。円高の当時でも泊まらなかったスイス滞在は、仕事をしてそれなりに収入のある現在でも躊躇してしまう。
 スイスへ、次はいつ行けるだろうか。
#わたしの旅行記
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