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#009 札幌北斗高校演劇部…キリンとの旅⑤

 この話も長くなったが、とにかく大会直前に待望の稽古場が完成した。

 これまで、「稽古場がなくて困っている」と言うと、演劇の事情を知らない先生たちからは「演劇なんてどこでもできるでしょ?廊下とかで練習したらいいんじゃない?」とあっさり返されることが多い。まぁ日頃の稽古ならできなくはないが、大会への芝居づくりを考えると、それは少々厳しいのだ。大会での上演時間は60分以内という規定があり、支部の事情により、状況は多少異なるものの、この規定時間を超えると、何らかのペナルティがある。我々の支部では審査員評価を一段階下げられる。つまり最優秀賞を取っても、一段階下げて優秀賞となる。賞はもちろんだが、我々の支部は現在35校前後(最盛期は45校くらいは参加していた)が上演するため、タイムスケジュールもかなりタイトである。時間を超えると次の上演校に迷惑をかけるので、絶対60分の壁は超えてはいけないのだ。

 ちなみに事前に行われるリハーサル時間は一校につき24分(ちょっと前までは19分)。だから大会直前の稽古では顧問と舞台監督(舞監)はストップウォッチとにらめっことなる。稽古で60分を安定して切らないない不安で仕方がない。舞台では何が起こるかわからない。普段しないトラブルが突然起こるのを、何度もこの目で見てきている。セリフが飛んで固まる部員(他校だが、役者のセリフが飛び、15分くらい役者がフリーズし、最終的には舞台監督が上演中、台本を持って舞台に現れたことがある)、同じシーン二度繰り返したりすると、もう時間が大幅にロスしてしまう。なかなか校内で劇場の舞台(舞台袖も含む)のサイズを取れる練習場所は少なく、あるとしたら体育館である。そうなると文化系の演劇部には使用させてもらう権利は一切ない。そこで毎年9月中旬の週末に校内合宿を組んでいる。運動部があがり学校が閉まる夕方からは演劇部が校内すべてを占拠できるのだ。今となればあまり大きな声ではいえないが、体育館など自由に使える夕方から深夜まで時間の許す限り、通し稽古を行うのだ。休憩時間は部員らは死体のように横たわり目をつぶる。そうして、大会に持っていく舞台が毎年完成している。

舞台装置の大キリン。そこのホールの一番高い脚立をお借りして、黄色い布をかける

 支部大会は3年連続の最優秀賞を頂き、苫小牧での全道大会に出場することとなる。全道の上演順は顧問が事前の会議でくじを引き決定する。前年の旭川大会で私は上演番号1番だったが、今回は最終上演を引いてしまった。極端だが、こればっかりは仕方がない。最終上演が吉と出るか凶と出るか。

 支部大会版と全道版ではラストシーンが違っている。支部では、後日談が付き幕が降りたのだが、全道版はそのシーンが全てカットした。動物園で始まった芝居は動物園でラストとなる。こちらの方がすっきりしており、芝居は良くなっている。

 この芝居では、『Stand by me』が何度も流れる。様々なカバーのものが使われている。前作『猫を飼う』では『Tears in heaven』が何度が流され、芝居の中の重要なメッセージとなっていたが、今回も同様だ。もっとも最初は流す楽曲の一つに過ぎなかったのだが、稽古を進めるうちにこの曲が、この芝居を象徴するテーマソングになるのではないかと考え、シーンにあったバージョンが使われた。

 『Stand by me』…「そばに居て」というシンプルで深いラブソングだが、この芝居で兄タケシに守られるりあん、そしてりあんの側には見守るように、もう一人の自分であるキリンが常にいた。そしてスケッチブックやGペンなども、りあんのそばにいる大切な道具たち。いろいろな『そばに居て』という気持ちと、そこのから脱却しようとする心の成長を描こうとした。ケイリー・スワンソンという、アメリカのカントリー歌手が唄ったバージョンが心から離れず、大きく揺さぶられた。この曲をオープニングとラストに使用した。

全道大会で優秀賞(第一席)を頂いて

 苫小牧大会では、優秀賞となり、さらには横浜で開催される「春季全国高等学校演劇研究大会フェスティバル2018」に推薦された。結果を発表された時は、何が何だかさっぱりわからなかったが、全国大会に行くことができたのだと、少しづつ理解をした。

神奈川県青少年センターにて
横浜の夜景
大会パンフレットが立派だった。

 部員が3人となり、稽古場がなくなり、大会直前になりやっとまともな稽古ができた。そんな年の舞台が札幌、苫小牧そして横浜までたどり着いた。思いもよらない旅となっった。横浜最後の夜、皆で食べた中華街の料理が今でも忘れられない。

横浜最後の夜は中華街

【DATE】

 ●2017年10月06日    札幌市教育文化会館小ホールにて上演
 ●2017年11月19日    苫小牧市民文化ホール大ホールにて上演
 ●2018年02月20・21日 北方圏学術情報センター・ポルトにて上演
 ●2018年03月18日    神奈川県立青少年センターにて上演

  男4・女4・男女多数

  ※著作権は作者に属します。

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