#010 札幌北斗高校演劇部…猫はみえない①
2016年の春。札幌周辺の高校の演劇部が毎週集まり、合同で1本の芝居をつくり公演する『さっぽろ高校生演劇合同ワークショップ』に生徒たちと参加していた。3月末から6月中旬まで休みがなくなるのはきついが、他校の顧問や生徒たちとワイワイやるのは楽しかった。この公演の稽古をしながらその裏で顧問らは、今年の舞台の脚本どうしようか考えているアイデアの相談をしていた。
この前年、アクシデントがあり、脚本を構想含め3日で書く羽目になったが、だいたい自分の中でのスケジュールはと言うと
①1~3月:構想期間(漠然とした何となくアイデア段階)
②4月 :新入部員が入部し、今年の人数・顔ぶれが固まると具体的なア
イデアを考える。自分はストーリーをノートなどにフローチャ
ートのようなもので書きなぐってみる。
③5~6月:合同ワークショップの稽古をさせつつ、脚本を書く。
④6~7月:合同ワークショップが終わった頃、脚本を生徒に渡す。
だいたいこのパターンだった。
当時、私の他に若い副顧問(現在の副顧問とは別の)がおり、前年度にあったアクシデントから「昨年の事をふまえ、今年は私が書くよ」と宣言した。
とはいえ、特段書く事が決まっているわけではなく、アイデア段階のものが何本かあっただけだった。このアイデアが途中で上手くいかないということは、このアイデアのどこかに問題があるということで、そこを解消できるまでは、頭の中のストックヤードに置いておくことにしている。
ただこの時、副顧問がなぜか生徒の前で台本を描き始め、秋の大会は正顧問(私)と自分のどちらの作品になるかわからないと伝え始めたことから、部内に少々の混乱が生じ始めた。さらに、副顧問が私に「自分がどんなに優れた作品を書いたとしても、あなたは自分の台本をやりたいのだから先生はアンフェアだ」と言ってきたのだ。正直、今でも自分が台本を進んで書きたいなどとは思っていない。むしろ書かずに済むならそれにこしたことはないとも思っている。ただその副顧問はその段階で一本も台本を書いてはいないのだ。さらに、自分の書いた作品と、私の書いた作品のどちらかを大会で上演するか決めましょう、ジャッジは公平性を保つためにも他校の顧問の先生たちに決めてもらうと宣言されました。そんなことを頼まれる他校の顧問の先生の事を考えると、本当に迷惑だろうし、忙しい中、申し訳ない思いでいっぱいとなりました。
前年のアクシデントとは、その副顧問がその年の春、台本を書かせて欲しいと訴えてきたので、じゃあ書いてごらん、その代わり書くと決めたら必ず書くんだよ、タイムリミットは6月の合同ワークショップの期間内だよ、大体いつまでにどの段階までやるのかを、示してあげたわけです。しかし、期限が過ぎても何一つ上がって来ず、「今どの段階?困っていたら相談に乗るよ」と声かけてましたが、「あと、もう最後の方です」という返事しか返ってきませんでした。台本が上がらないと稽古に入れないため、私だけではなく部員たちも正直焦り始めていました。ただ部員は「どうですか?先生はお忙しいですよね、待ってますね」と探りを入れてき始めています。当時私は生徒指導部長をしていたので、連日、生徒の問題行動の指導やそのための会議、保護者対応に明け暮れており、書く時間などなさそうなのは側から見ていてもわかるようだ。それでも部員たちは私が書いていると思っているのだ。そんなある日、一通のメールが来た。差出人はその副顧問。毎日顔を合わせているのだから直接言えばいいのだが、メールにはこう書いてあった。
「僕には時間がない。決してやる気がないわけではありません。」
要するに台本が書けない、ということのようだ。じゃあどうするの?と本人に確認すると「僕から部員に謝っておきます」と言う。ただ謝られれば、部員たちも文句は言えないだろうが、失われた時間は帰っては来ない。そこで私が構想から3日でまずは第1稿を挙げるという奇跡的な事になったわけだ。そしてその台本が支部大会最優秀賞をもらいさらに驚くことになる。
そんな出来事があったにも関わらず、その翌年には、どんなに優れた作品を書いてもあなたに潰される、アンフェアだ!と非難され、挑戦状を叩きつけられた訳だ。私の性分からすると売られた喧嘩(買わなくても良い喧嘩も含め)はついつい買う性質なものだから、俄然やる気には火がついた。
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