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#011 札幌北斗高校演劇部…猫はみえない②

 当時の副顧問から、いきなり台本勝負を挑まれる展開となった訳だが、生徒や他校の顧問に迷惑をかける事になるのが申し訳なく、そして若いとはいえ大人である副顧問の幼稚さに半ば呆れつつ、台本に着手することになった。しかしこの時ほとんど何を書いてよいやら、アイデアは降りては来なかった。

 話は変わるが、この時の数年前の3月1日の出来事について。この日は高校では卒業式が行われていた。私は卒業学年の副主任を務めてた。いつもならこの日の夜は学年団でお疲れ様の飲み会を行うのだが、この時は私自身の体調もすぐれず、飲み会は申し訳ないがキャンセルさせてもらった。3月になったというのに寒い日で、夜は−10℃以下となるそんな日だった。夜、窓の向こうから音がする。コン、コン。コン、コン。
何かが窓を叩く音だった。しかしこんな時間に、そう思って恐る恐るカーテンをめくってみた。

「あれ?何もいない…」

そう思ったのだが、よく見ると、一匹の猫が窓の前に座っており、窓ガラスをノックしていたのだ。

その野良猫はまるで自分の家に帰ってきて、鍵を忘れたから開けろ、と言わんばかり、窓を叩くのだ。しかし、野良猫を家に入れる義理はなく、そのうち諦めてどこかに行くだろう放っておいたのだが、一向にその猫はいなくなる気配はなく、コン、コンとの窓を叩き続けるのだ。

かなり冷え込んだ夜。朝起きたら、窓の外で「フランダースの犬」の最終回のように横たわって冷たくなっているのを想像すると、野良猫など入れるもんか、という決意が鈍り始めた。

で、結局窓ガラスを開けてしまう。猫はこちらを見て「遅いだろ、寒いんだから早くしてよ」と言いたげにこちらを睨みつけ、にゃあと哭き、我が家にでも帰ってきたかの如く、悠々と堂々と入ってきた。そして、またこちらを睨みつけ「飯は?腹減ってんだよ、わかるだろ」と呟いた。当たり前だが、キャットフードなどないし、寒い夜中に買いに行く義理もないので、とりあえず冷ました白いご飯を出した。するとガツガツ食べ始め、おかわりを要求したので、鰹節をトッピングしてやるといたく気に入ったようである。すると、床の上で腹をむけてゴロンと休みはじめた。警戒心など微塵もない。さて、この後、この猫をどうしようか。

結局、この猫はこの後、我が家の居候となり居着くことになる訳だが、このあたりの件は、そのまま後の台本に転用されることとなる。

降りてこない台本だったが、とりあえず書くためには自分のプライバシーを切り売りしなくてはならないようだ。
だが、こうして次の台本『猫を飼う』の創作が始まっていった。


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