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#006 札幌北斗高校演劇部…キリンとの旅②

 2017年の4月の活動は解体される旧校舎の片付けに終始していた。そんな中、新一年生が男女で10名近く入部した。春いきなり3人となった部活だったが、何とかまた頑張れそうな雰囲気になってきた。そんな中で支部大会に向けての脚本作りもスタートした。当時の自分のスタイル(現在もそんなに変わってはいないが)はというと、「お話がある日、降ってくる」というか大体そんな感じなのだ。

 当初、ぼーっと考えた時、昨年(2016年)の作品『猫を飼う』はコンテスト的にはあまり結果が出なかったなぁ、と。まぁ別にそれを意識しては書いてなかったし、意識して書くほど器用ではない。『猫を飼う」は中学生の娘を失くした夫婦の物語であり、高校生が演ずるには少々ハードルが高い芝居だった(それでも部員たちは見事やってのけました)。であれば高校演劇を意識して書いてみたら違ったものが描けるのかもしれない、そう考え、思いを巡らせていた。
以前、ふと思ったこんな疑問を持ったことをふと思い出した。

ドラえもんが来て、のび太は幸せな未来をつかんだかもしれないが、ジャイ子はどうなんだろう?

これは漫画『ドラえもん』で、のび太の子孫のセワシにより、未来でのび太は会社を倒産させ、子供らに巨額の負債を背負わせる、そしてジャイ子と結婚するという未来を示された(諸説あり)。連載当時ジャイ子の設定は今と違い、ジャイアンばりの乱暴な女の子だったこともあるが、今思うとどこか引っ掛かりを感じていた。ドラえもんが来たことにより、のび太の未来に少しづつ変化が生じ、結婚相手もしずかちゃんに変わったようだ。よかったねぇのび太、と言いたいところだが、それでいいのか?と考えてしまった。ジャイ子は未来でそんなダメなのび太と結婚し、何人もの子供のお母さんとなっていたはず。漫画家として成功していた彼女はおそらく一家を支えていたのではないかと想像するが、彼女は大変ながらも、そんな生活に幸せを感じていたかもしれないのだ。

 しかし、歴史を改変されたことにより、彼女が気がつかないうちに、のび太は彼女の下を離れてしまった。のび太との生活、思い出、家族などがジャイ子本人の記憶から消えていったに違いないので問題はないのかもしれないが、それはとても残酷なことのように思えた(このあたりの思いが2021年の作品『UCHRONIE 7』につながるのだ)。

 もちろん背負ってしまう借金は消えるのでよかったとも言えるのだが、どうもスッキリしない。改変されてしまった未来の彼女は誰といるのだろうか?
どうも私には隣で彼女を支え、守っていくのは、あの彼しかいないだろう、と想像していた。

 こんなひっかかりから、漫画家を夢見る妹と、乱暴で不器用な兄の物語が浮かんできた。シャイで内気な地味で目立たない女の子がいいな、と。するとジャイ子と昔見た、シルベスター・スタローンの映画『ROCKY』のヒロイン、タリア・シャイア扮するペットショップの店員エイドリアンが重なった。そうなると、兄はジャイアンであり、エイドリアンの呑んだくれで暴力的なロクデナシの兄ポーリーか。主人公たちのイメージは見えてきた。主人公の妹の名前は「江戸りあん」。兄の名は「武士(たけし)」。
りあんは高校3年生とする。たけしはそうなる20代半ばくらい。たけしが働いて妹の面倒見ている。その事情についてはあまり語らないでおく。観た人が推察してくれればいいだろう。他人の事情だし、そこがテーマではないのだから。ここまで決めたら、さぁ、脚本を打ってみよう、とパソコンを開く。開始早々、脚本は見事に頓挫した。

 二人、不器用で無口な二人が夕飯を食べるシーンから始めようとした途端、書けなくなったのだ。なぜか?二人とも話さないからだ。書き手に力があれば、二人芝居でも大丈夫なのだろうが、こちらはほぼ素人なのだ。しかも知らない二人が出会うシチュエーションなら、状況次第で何とかできそうだが、家族の二人ではそうはいかない。情報を互いに引き出さないからだ。

 困ったぞ。

そんな時、仲間内の顧問が「この間は猫だったから、次の舞台は象でも飼うのか?」と軽い冗談を言ってきた。もうこの瞬間、問題は全て解決できた。全てのピースはつながったのだから、世の中は面白い。

 そしてそんなこんなで書き上げた芝居が、全国大会にまで駒を進めることになるとは、当の本人ですら知るわけもなかった。

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