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損害賠償 考え方・機材契約におけるポイント

機材調達契約においては、発注者とサプライヤの間で様々な損害を相手方に与える可能性があります。ここでは調達実務の観点から必要な範囲で損害賠償の基本的な考え方と調達契約でのポイントを取り上げたいと思います。

1.機材調達契約で発生する損害

機材調達契約で発生する損害は①機材契約の当事者間で発生する損害と②当事者以外と発生する損害に分けられます。

①について、発注者がサプライヤに与える損害としては支払遅延、機材の引取り拒否、発注者事情による契約解除、サプライヤ人員が工事現場に入っている際の発注者起因の事故等、サプライヤが発注者に与える損害としては納期遅延、サプライヤ事情による契約解除、製品の不適合の修補等が考えられます。

②の事例としては、工事現場に隣接する建物への損傷、第三者の知的財産権の侵害、運転開始後に機材の欠陥によりメンテナンス会社の従業員が被災する等です。工事現場において直接契約関係がないサプライヤ・サブコン間の事故も②にあたります。

②のケースでも、サプライヤが第三者に損害を与え、発注者がその第三者から賠償請求を受ける事で弁護士費用や賠償を行った場合、発注者は契約書に基づきサプライヤに求償するので①に転化する事があります。

法律用語で①に基づき加害側が負う賠償責任は債務不履行責任、②に基づき加害者が負う賠償責任は不法行為責任と呼ばれます。

2.損害賠償責任の要件

加害側の損害賠償責任が認められるには以下が要件となります。

①損害の発生
②契約違反・加害行為と損害の間に因果関係がある事
③加害者に故意過失があった事

不法行為責任の場合、①〜③の全てを被害側が立証義務を負います。債務不履行責任の場合、③は加害側が故意過失が無かった事の立証義務を負います。

3.損害賠償の範囲

賠償責任が認められる損害の範囲は、契約違反・加害行為と損害の因果関係の有無が判定基準となります。但し、風が吹けば桶屋が儲かると表現されるように因果関係は無限に続くため、単純な因果関係(事実的因果関係)を判定基準とすると損害賠償の範囲に際限が無くなってしまいます。

その為、相当因果関係という概念のもと、ある契約違反・加害行為があった場合に「通常」生じると考えられる損害の範囲に賠償範囲を限定するという考え方が国内外で広く採用されています。

例えば機材納期が遅れて発注者側で突貫工事が必要となった場合、これは通常発生する損害であり相当因果関係があると判定されるため損害賠償が認められると考えられます。一方、機材納期が遅れ、発注者の調達担当のAさんが残業でデートに行けず、その結果婚約を破棄された場合はどうでしょうか。婚約破棄のきっかけを作ったので事実的因果関係はありますが、機材納期の遅れで通常そのような損害が発生するとは考えられず相当因果関係はないと考えられるため損害賠償は認められないと考えられます。

4.機材契約書での関係条項

機材契約書で登場する損害賠償の関係条項を以下取り上げます。

①補償条項 (Indemnity条項)
上記の損害賠償責任要件・損害賠償範囲は民法の考え方に沿ったものであり、基本的に主要国の民法も似た考え方となっていますが、契約書ではIndemnity条項で明文化する事が多いです。Indemnity条項は、故意過失や作為不作為等で相手方に損害を与えた場合は損害を賠償する旨を規定します。加害側が第三者に損害を与えた場合において、第三者から相手方にクレームがあり損害を被った場合の求償も通常対象に含めます。発注者側の賠償対象事象が不合理に広くなっていないか、過大な責任を負うような条文になっていないか注意が必要です。

②間接損害免責条項(Consequential damages条項)
損害賠償の範囲について、契約違反・加害行為との因果関係が遠い間接損害は賠償責任を負わない事を規定した条項です。相当因果関係の考え方と基本的に同じです。突貫工事による追加費用など相当因果関係があると認められ得る損害を間接損害と定義していないか確認し、もしあれば当該部分は修正させる必要があります。

③損害賠償上限条項(Limitation of liability条項)
損害賠償の範囲は因果関係に基づき判定されるため、サプライヤは契約額や過失の度合いと釣り合わない規模の損害賠償責任を負う可能性があります。このようなリスクはビジネス判断上取れないという趣旨で損害賠償額の上限を設定するのが本条項です。

設定方法としては、(A)契約違反の態様毎に設定する上限と(B)契約全体に設定する上限があります。

(A)は納期遅延、図書提出遅延、
性能未達等に対し予め賠償額の算定方法と上限を設定するものです。損害賠償額の予定は英語ではLiquidated damagesであり、しばしば略してリキダメと呼ばれます。特に納期遅延に対してリキダメを設定する事が多く、1日あたり契約額0.1%、上限10%が相場です。但しこの場合100日の遅延で賠償額の上限に達してしまい、それ以降はどれだけ遅延しても関係ないというモラルハザードを招きます。対策として10%に達した場合の措置を別に規定すべきです。具体的には発注者に契約解除権が発生する事、契約履行保証状の請求を行う事、増員などの具体的な改善策を要求する権利を設定する事が考えられます。

(B)は契約金額の100%を上限とする事が多いです。故意重過失の場合、第三者からの知財クレーム、製造物責任に関わる賠償責任、工事現場でのサプライヤ過失による事故による賠償責任など、サプライヤの過失の度合いが高い事象や賠償額が契約額を大幅に超え得る事象については上限の適用外とすることがあります。

④契約解除条項(Termination条項)
契約解除条項は、解除が認められる要件、解除した場合の措置を規定しています。通常、サプライヤの契約違反・倒産など過失に基づく解除と発注者都合による解除で別条項とし、要件・措置を各々規定する事が多いです。

前者の場合、転注による人件費や価格差・工期遅延による突貫工事費用といった解除により発生した損害をサプライヤに賠償請求する事が規定されます。機材の仕掛品の扱いはケースバイケースですが、発注者が製作度合いに基づき有償で引き取る事を選択する事ができるとすることが多いです。

後者の場合、機材の仕掛品の製作度合いに基づき有償で引き取るか、引き取らない場合は解除までにサプライヤに生じた費用に一定の利益分(逸失利益)を加えた解除費用を支払う旨規定する事が多いです。解除費用の算定方法としては、サブサプライヤへの注文書等のエビデンスの提出を求め実費ベースとするか、製作度合いと契約金額で概算を算定する方法があります。発注者としてはより厳格な算定となるので実費ベースの適用を交渉すべきです。

⑤知的財産権条項 (Intellectual Property条項)
機材に用いられている技術について、第三者の特許権など知的財産権を侵害していることが判明した場合、その第三者はサプライヤだけでなく侵害品の使用者である発注者に対しても使用差止めや損害賠償を請求できる可能性があります。このような事態を想定し、サプライヤが訴訟に参加したり弁護士を立てる事で主体的に発注者を防御する事や発注者が起用した弁護士費用や訴訟費用を後日求償する事を規定します。Indemnity条項で規定する事もあります。

余談ですが、第三者からの侵害主張は根拠の乏しい言いがかりのようなものが多いのが実際ですが、正当な主張である可能性もあります。侵害主張を受領した場合は法務部門・サプライヤと連携しつつ、当該特許の登録状況(出願中なのか登録済なのか、どの国で出願・登録しているのか、登録済の場合有効期間はいつまでか)、特許公報の写し(原本と英訳付き)、特許クレームの具体的な侵害部分と侵害主張の根拠といった情報を収集し、対応方針を決めていくことになります。

本記事では損害賠償の基本的な考え方と機材調達契約におけるポイントを見てきました。サプライヤとの契約交渉においてこれらのポイントはよく取り上げられると思いますが、背景・考え方を理解することでより効果的な交渉が可能になります。

記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご理由下さい。




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