見出し画像

国際取引における源泉徴収税

海外メーカーとのプラント機材契約に付随して工事監督(supervisor)を工事現場に一定期間派遣してもらう事が多いかと思います。その派遣契約に関し、契約や支払い時に工事現場国の源泉徴収税(withholding taxes)の取り扱いで揉めることがたまにあります。今回はこの源泉徴収税の概要について解説したいと思います。尚、調達実務観点での解説であり、また当方は税理士資格を有しませんので、厳密な解説ではありません。予めご了承ください。

1.源泉徴収税とは

皆さまも毎月の給与から一定額が源泉徴収されているはずなので、源泉徴収という言葉を聞いたことがあるかと思います。源泉徴収とは主に役務で得た所得について、支払元が事前に税金分を控除して支払先に代金を支払い、支払元が支払先に代わって税務署にその税金を納める仕組みです。このようなめんどくさい仕組みを運用している理由は、税務署が所得を得た個人や会社から確実に税金を回収する事です。源泉徴収の対象は基本的に役務取引であり、機材等の売買契約には適用されません。


2.外国企業の役務取引に対する源泉徴収

外国企業が国内で役務を提供した場合、外国企業がその取引から得た所得については国内の税務署に課税権があります。しかし外国企業が真面目に国内税務署に納税申告するとは限りません。国内に事務所や子会社を保有しない外国企業の単発取引であれば、おそらく無視して逃げ切る事になります。こうした事態を避けるため、国内の税務署は国内の発注者に対して、外国企業への役務代金支払いに際し源泉徴収する事を求めます。

源泉徴収の税率や方式は国ごとに異なりますが、概ね役務取引契約額の10〜20%を源泉徴収税として処理する事が多いです。源泉徴収税として処理する場合、この源泉徴収を持って課税関係は完了しますので外国企業は国内の税務署に対し納税申告する必要はありません。たまに源泉徴収に加えて外国企業に納税申告を求める制度の国があります。この場合、役務取引の所得について納税申告を行い、申告・納税完了後に源泉徴収額がリリースされるといったややこしいフローになる事があります。各国の制度は大手会計事務所のwebサイト等で内容を調べる事ができます。

3.源泉徴収税はメーカーにとって費用になるのか?

メーカーは契約額から源泉徴収税を控除された金額しか受け取ることができないことになりますが、それは費用という扱いになるのでしょうか? 答えは基本的にならないが、メーカーが自国の税務署に支払う所得税額や自国・国外で得た所得の比率次第では費用になり得る、となります。

日本含め主要国の税制は、自国企業が国内で得た所得だけでなく、海外で得た所得に対しても課税します(全世界所得課税)。一方、上記項で説明の通り、海外での役務取引で得た所得については海外の税務署から源泉徴収税を取られます。こうなると海外での役務取引で得た所得は二重に課税されることになり、国際取引を妨げることになりかねません。これを防ぐため、海外の税務署に納めた税金がある場合、その分は自国の税務署に支払う所得税から控除するという制度が確立されています(外国税額控除)。具体的には自国での納税申告時に外国の税務署から受領した納税証明書を添付して税額控除を受ける形になります。この制度は租税条約の締結有無は関係なく利用可能です、

上記の流れで処理できる場合、メーカーにとっては源泉徴収税額分は控除されて取りっぱぐれたように見えますが、その後の自国の納税申告で支払う所得税から同額分を減らす事ができるので、最終的には行ってこいになります。

しかし、外国税額控除は上限があり、自国での所得税額や自国・海外所得比率で控除できる金額に制限があります。赤字で所得税が発生していない場合、控除は受けられず、結局源泉徴収税額は費用になります。この場合、メーカーは源泉徴収後に契約額になるよう支払額を増額するよう求めてくる事があります(グロスアップ)。この場合発注者側の負担が増えるので避けたいところですが、基本的には契約前にこの点を明確にしておき、グロスアップを見据えた契約額の交渉で落とし所を探すしかないでしよう。

4.PEがなければ源泉徴収税は発生しない?

たまに聞く誤解ですが、外国企業の役務がPE(permanent establishment)に認定されなくとも源泉徴収税は発生します。PEはあくまで内国企業に準じた課税を行うか否かの概念です。PE認定されないような短期役務であっても、外国企業として国内で所得を得た限りにおいて、源泉徴収税は発生します。

この辺りの理屈を理解した上で契約実務に臨むとより効果的な交渉ができるとおもいます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?