見出し画像

機材調達契約における支払保証

プラント調達における機材調達は契約額が大きい事、長納期である事、オーダーメードで一度作りだすと転売できない事といった特徴があり、発注者・サプライヤ双方にとって様々なリスクが存在します。そのリスクへの対応として相手方の支払を担保させるために様々な保証が用いられます。

  1. サプライヤが求める支払保証
    サプライヤにとって、契約後に発注者が倒産したり一方的に契約を解除する、物品の引渡し後に支払いを拒絶するといった代金回収リスクが存在します。モノによりますがプラント機材の納期は12~16か月程度かかる事があり、その間に発注者側の状況や姿勢が変わる可能性はあります。また、プロジェクト毎に要求仕様が規定されるプラント機材の場合他の顧客に転売ができるケースは少ないです。特に発注者側がSPCであったりコンソーシアムの場合、発注者自体に財務実態が無かったり、コンソーシアムメンバー間での責任転嫁などが発生することがあり、サプライヤはより慎重な対応が求められます。

    こうしたリスクへの対処として、サプライヤは以下のような対策を取ることがあります。

    ①銀行信用状(Letter of credit)
    発注者の代金支払いについて、財務基盤の固い銀行に保証してもらうものです。信用状については国際商工会議所が標準を定めていて、現行版UCP600が通常適用されます。複雑な経路を取りますが、要は財務基盤のしっかりした銀行の信用力を用いることでサプライヤは契約通り船積みすれば安心して代金を回収できるというスキームです。以下フローです。

    (i)発注者が取引銀行に依頼し、発注者の与信が通れば銀行がサプライヤに対して支払保証を発行。銀行は発注者から保証料を取ります。

    (ii)銀行はサプライヤが所在する提携先の現地銀行に対して保証発行を通知するよう委(SWIFTという銀行間ネットワーク経由で電信依頼)

    (iii)現地銀行は受診した信用状を印刷し、サプライヤに郵送することで通知

    (iv)サプライヤは船積みが完了後、信用状に記載された要求図書(船荷証券、コマーシャルインボイス等)を為替手形と共に現地銀行に持ち込み、買取(negotiate)してもらう事で代金を回収します。船積みや買取は信用状に記載された期限内で実施されなければなりません。期限を過ぎてしまった場合、発注者が発行銀行に依頼して信用状を改訂したり、サプライヤから現地銀行・発行銀行経由でディスクレを許容するよう発注者に求めるケーブルネゴで対応します。ケーブルネゴは発注者が応諾すればそのまま買取されます。

    (v)現地銀行から信用状の発行銀行に要求図書が転送されます。発行銀行から発注者に連絡がいき、発注者が発行銀行に代金分を支払うことで要求図書を受領する事ができます。発行銀行が発注者から支払いを受けられなかった場合、発行銀行は手元にある船積書類を利用して、発注者と交渉したり機材の転売先を探す事で保証額の回収を図ります。尚、信用状で支払いを保証しているので、発行銀行はサプライヤに返金を求めることはできません。機材現品の処理について、既に船積み後なので現地国の港に到着していますが、未通関のまま港湾の保税場所に長期間放置する事はできません。一旦輸入通関を実施し、内国貨物として適切な倉庫等で一時保管することになるでしょう。

    (vi)発注者は受領した要求図書を用いて機材を受領し取引完了です

    リスク意識の高いサプライヤの場合、日本の銀行が発行した保証状では安心できないのでサプライヤの所在国の銀行から発行するよう求めてくる事があります。その場合、発注者は現地銀行と取引がなく与信がないため、発注者から日本の銀行に現地銀行への支払保証を発行依頼(裏保証)⇒現地銀行からサプライヤへの保証発行という形態をとります。この場合日本の銀行と現地銀行の2行分の保証料がかかるため、発注者の立場では基本避けるよう交渉すべきです。

    保証金額・発行時期・保証期間はケースバイケースです。保証金額は通常契約代金の100%を求められますが、交渉により船積み前の前払金分や契約締結時に支払う頭金分を除外する事もあります。保証発行時期は、慎重なサプライヤは契約解除リスクを考慮し契約締結時の発行を求めてくる場合もありますが、船積み直前の発行で合意することもあります。保証期間は最終支払の予定日に1か月程度の遅延マージンを乗せて設定することが多いです。信用状発行時点での支払い予定日は、その後工程遅延が発生した場合に買取が間に合わず失効するリスクがあるためマージンを設定するものです。

    ②為替手形での取立 (DP/DA)
    銀行の保証はつけない形で、銀行経由の代金支払いとする事でリスクを低減する仕組みが為替手形での取り立てとなります。為替手形とは、サプライヤが振り出す手形で、宛先を発注者として支払いを求める手形となります。国内でよく用いられた約束手形と名前は似ていますが、為替手形は発行者が宛名人に支払いを求めるもので機能は逆となります。

    取立銀行に対する為替手形の支払をもって船積書類をサプライヤに渡すDP(Documents against Payment)と為替手形の引受(後日支払う約束をする事)をもって書類を渡すDA(Documents against Acceptance)の2種類があります。プラント機材契約で適用する事はあまり聞いたことがありませんが、銀行の保証料を節約できるので、発注者・サプライヤ間で一定の信頼関係が選択肢になり得ます。但し、サプライヤ目線ではリスクが高いスキームのため、応じない可能性があることは念頭に入れておく必要があります。

    (i)サプライヤは船積みが完了後、船積書類(船荷証券・コマーシャルインボイス等)を為替手形と共に現地銀行に現地銀行に持ち込み、取立依頼をします。取立依頼時点では代金は支払われません。

    (ii)現地銀行から発注者が所在する提携先の銀行(取立銀行)に為替手形・船積書類が転送されます。取立銀行から発注者に連絡がいき、発注者が為替手形に基づく支払い(DP)又は後日支払う旨を約束する引受(DA)に応じることで発注者に船積書類が引き渡されます

    (iii) 発注者から代金回収後、取立銀行から現地銀行経由でサプライヤに代金が支払われます。取立銀行が発注者から支払いを受けられなかった場合、取立銀行は回収できなかったとして現地銀行経由でサプライヤに船積書類を返却します。その場合、サプライヤは発注者に対して契約に基づき現品の処理方法や補償を協議することになります。

    (vi) 発注者は受領した船積書類を用いて機材を受領し取引完了です

    ③親会社保証(PCG)
    大型プロジェクトになると、発注者が数社のパートナー企業と連携し、当該プロジェクトの建設・運営を目的とした特別目的会社(SPC)やコンソーシアム(民法上の組合等)を組成することがあります。SPCの場合、SPC自体は財産を有していないため、サプライヤの目線からは与信が立たず、代金回収リスクを負う事になります。また、コンソーシアムの場合は日本民法が適用される場合は構成員各社がサプライヤに対して連帯して支払い義務を負いますが、紛争が発生すると我々ではなく他の構成員に請求してくれ等と責任転嫁され実務上代金回収がままならないリスクがあります。

    こうしたリスクへの対処方法として、①・②の銀行保証に代えて又は併用して親会社がサプライヤに対して支払保証を発行する事があります(親会社保証=Parent Company Guarantee)。これは親会社の与信力を活用するものです。SPCやコンソーシアムへの出資比率に応じて各社から発行したり、代表企業が保証を発行しSPC・コンソーシアム内で代表企業に裏保証を入れたりします。保証条件(金額・発行時期・保証期間)は①の銀行保証状に準じます。

    ④貿易保険・取引信用保険
    国際取引で政府や民間企業が発注者の代金支払いを保証する制度があり、政府系は貿易保険、民間企業は取引信用保険と呼ばれます。

    政府系の信用保険は日本ではNEXI、アメリカはUS EXIM、中国はSinosureといった機関があります。サプライヤが自国の機関と保険契約を締結し、発注者が不払いとなった場合は保険金として代金相当額を受領する事ができます。但し、機関は発注者の財務状態などを審査の上保険の引受可否や保険金の上限を設定するので必ず利用できるとは限りません。また、様々な保険金支払い条件が設定されており、保険金が下りなかったり、下りたとしても回収努力義務が継続したりしますので留意が必要です。

    民間系ではCOFACE・Euller Hermes・Atradiusが世界での3大プレイヤーで日本では東京海上等の大手損保が彼らの代理店となっています。


    2. 発注者が求める支払保証
    プラント機材調達契約においては、サプライヤだけではなく、発注者もリスクに晒されます。契約後にサプライヤが倒産すると、工期遅延や転注による追加費用を被りますし、船積み前に前払金を支払っていた場合は回収が困難になります。その他機材の受領後に欠陥が見つかった場合、代金を受領済みだとこちらの問い合わせを無視したり欠陥は無いと強弁され応じない場合も実務ではよくあります。

    こうしたリスクに対処する為、発注者は以下のような支払保証を求める事が多いです。尚、保証状はここではGuaranteeで統一していますが、Bondとも呼ばれます。

    ①入札保証状(Bid Guarantee)
    契約前の入札段階で、サプライヤが一方的に商談を降りたり、選定したサプライヤの気が変わり契約に応じないといった事が発生すると、入札のやり直しが必要となり、それにより追加費用や工期の遅延に繋がります。対応として、入札開始時にサプライヤに対して入札後に商談を継続する事や選定時は契約に応じる事を保証する入札保証状の提出を求める事があります。これはサプライヤが自身の取引銀行に発行を依頼し、取引銀行が発注者に対して保証状を発行するものです。発注者はサプライヤが違約した場合保証金の支払いを受ける事で損害をカバーします。保証金額は発注者が指定する事や見積額の1-3%程度とする事が多く、発保証期間は見積提出〜サプライヤ選定です。

    入札のハードルが上がるので入札者が減り結果的に競争環境を阻害する可能性があります。プラント機材契約の実務では発行を求めるケースはあまり無いかと思われます。

    保証請求時の保証金の回収をより確実にしたい場合、保証発行銀行を国内の銀行に指定する事があります。この場合、サプライヤの所在国の取引銀行が国内銀行に対し裏保証を発行し、それに基づき国内銀行は保証状の発行に応じます。但し、信用状の場合と同様、保証料は2行分かかるので要否はよく考える必要があります。以下の他の保証状も同様です。

    ②前払金返還保証(Advance Payment Guarantee)
    機材契約ではサプライヤに代金の一部を船積み前に前払いする事がよくあります。これはサプライヤが材料購入や外注をする前にその原資を提供する事でキャッシュフローをニュートラルにするという趣旨です。しかし発注者の視点から見ると、前払金の支払い後にサプライヤが倒産したり、持ち逃げされるリスクがあります。前払金を受領後にサプライヤが契約を履行しない場合に保証金を支払うのが前払金返還保証状です。

    保証金額は前払金と同額、保証期間は船積みまでとします。複数回の前払金がある場合、都度保証状を発行します。

    ③契約履行保証状(Performance Guarantee)
    サプライヤが発注者との契約における義務(機材を契約納期までに製作し引渡す、引渡し後の瑕疵担保責任を履行する等)を履行する事を銀行が保証するものです。

    保証金額は契約銀額の10%程度、保証期間は契約時から船積完了予定日・工事完工予定日・機材保証満了予定日のいずれかです。終期はケースバイケースです。船積完了までとする場合、契約履行保証状の返却の引き換えに③の瑕疵担保保証状を発行するケースが多いと思われます。

    たまに前払金返還保証状を提供するから契約履行保証状は不要ではないかとった議論がでる事がありますが、前払金返還保証状だけでは契約不履行により受ける損害はカバーできない為、両方取得すべきです。

    ④瑕疵担保保証状(Warranty Guarantee)
    サプライヤは機材の保証期間(通例引渡から12ヶ月や18ヶ月)の間不具合が発生した時修理等の瑕疵担保責任を負いますが、不具合を認めない等素直に対応しない事があります。その場合に発注者が自ら修理するしかありませんが、その費用をサプライヤから回収しなければなりません。その為に事前に瑕疵担保保証状を確保しておきます。
    保証金額は通常契約銀額の5%程度、保証期間は受領日から瑕疵担保期間の満了までとなります。瑕疵担保保証状を個別に提出する代わりに、契約履行保証状の終期を瑕疵担保期間の満了までとして兼用する場合もあります。

    ⑤スタンドバイ信用状(SBLC)
    米国においては銀行が法令上他人の保証を請け負えない為、信用状の形をとって実質的な保証状を提供しています。ISP98という標準規格がよく用いられます。

    SBLCは信用状と同様に買取書類を指定しており、保証を受ける側は買取書類を発行銀行に持ち込む事で保証金を受ける事ができます。利用目的に縛りはなく、サプライヤ・発注者いずれの支払保証としても用いる事ができます。繰り返し取引において個別取引は送金扱いで一定期間の有効なSBLCを担保として発注者がサプライヤに提供するといった利用方法があります。

    ⑥保証金
    財務悪化等で与信が立たない等サプライヤが保証状を提供できない場合、瑕疵担保責任が満了するまで代金の一部の支払いを発注者が留保する事で保証金とする事があります。金額は④に準じます。保証金は発注者が長期間代金の一部を預かる事からサプライヤにとってリスクが高く、利用されるのは特別な事情がある場合に限定されます。


    以上、機材調達で利用される支払保証を概観してきました。支払保証は発注者・サプライヤ双方の支払回収リスクを軽減するもので、上手く活用する事でサプライヤとの合意を促進する事が可能です。

    記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご留意ください。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?