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【義足プロジェクト #12】 テクノロジーが、人を笑顔にする。

この記事は、23日(日)に「FRaU×現代ビジネス」にも掲載されます。

 三人がハンディの開発に取りかかる半年前、森川さんは当時働いていた石鹸工場で機械に右腕が巻き込まれ、肘から先がバラバラになってしまった。なんとか再生しようと治療を受けたがうまくいかない。「動かないのなら、いっそのこと落としてください」と医師に伝え、最終的に切断手術に踏み切った。

 しかし、義手という選択肢を選んだものの、森川さんにはどうしても受け入れられないことがあった。人間の肌に似せた義手を着けることが、なんだかこそこそ隠れているような気がしていやだったのだという。

 そんなとき、日本の三人の若者が3Dプリンターでメカニックな外装の義手を作り、ダイソンアワードを受賞したことを知る。ネットで画像を検索すると、いままでの義手のイメージを一気に吹き飛ばすようなデザインだった。

「この義手ならつけてみたい。三人に会ってみたい」

 その気持ちが出発点となり、三人との面談が実現したのだった。

「写真で見るよりずっとすばらしい。親指の付け根のふくらみとか、手のひらから手首までの曲線とか、とてもリアルで美しいしなあ」

 森川さんははじめて目にしたメカニックな義手に対する熱い気持ちを語り、「これからはなんでも協力します」と三人を激励した。三人は、自分たちが開発した義手の方向性に自信を持った。

 その後の三人の行動は迅速だった。そろって会社を辞めると「イクシー(exiii)」を起業し、ハンディの次世代モデルの開発を目指すことにした。

 やや使いづらい筋電義手から、腕に力を入れたときの筋肉のふくらみを察知して動く、より操作が簡単な電動義手に切り替え、ハンディに続く次世代モデル「ハックベリー(HACKberry)」を完成させた。義手のデザインファイルとソースコード(プログラムの設計図)をすべてオープンソース化し、世界中の誰もが利用できるようにするという画期的な試みも、ハックベリーの評価を高めた。

 じつは私も以前に彼らのラボを訪ね、このハックベリーを体験したことがある。

 私の短い腕でも、ぎゅっと力を込めると義手の指が折れ曲がる。もちろん使いこなすことは難しく、ポーチのファスナーを開ける作業では引き手の部分がなかなかつかめなかった。しかし、ほんの少し力を入れるだけで指先が動く感覚は、なんとなく覚えている幼いころの義手の使い勝手とは大違いだ。短い腕の延長線上に義手がある感覚がうれしくて、ファスナーを一センチほど開けたときは、年甲斐もなくはしゃいでしまった。

 二〇一八年十月、小西氏はイクシーから独立して「イクシーデザイン(exiii design)」を立ち上げた。わが家を訪ねてくれたのは、ちょうどそのタイミングということになる。

 森川さんはいま、大阪市内の病院で事務の仕事をしている。仕事では重量にも耐えられる筋電義手、プライベートでは軽くて負担の小さいハックベリーと使い分けて暮らしている。「手足を切断しようかどうしようかと悩んでいる人に、切断してもこんなふうに元気になれるんだと思ってもらえればうれしいです」と語り、義手ユーザーとしてイベントに参加したり、人前で話したりする機会も少なくないという。

 小西氏には森川さんのことで、忘れられない場面がある。

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