連載小説『ヒゲとナプキン』 #7
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JR新宿駅の南口を出ると、正面には完成して間もない高速バスのターミナルビルが目に入った。その奥にそびえる巨大なデパートを見上げながら、スーツ姿のイツキは、「あそこは新宿高島屋なんて名乗っておきながら、住所は渋谷区なんだよな」などと同僚のタクヤが得意げに語っていたトリビアを思い出していた。信号が青に変わる。イツキは人並みに紛れて甲州街道を渡ると、代々木方面に歩を進めた。
一軒の雑居ビル。イツキはエレベーターで三階に上がった。
〈高野メンタルクリニック