連載小説『ヒゲとナプキン』 #12
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イツキはふたつのスマホを握りしめたまま、冷たくなったフローリングの床にしゃがみ込んだ。あれだけ全身を駆け巡っていたはずのアルコールは、すっかり抜けきっていた。
カタン。
手元から滑り落ちたスマホが床を叩く。思ったよりも大きな音に思わず背筋を伸ばしたイツキは、サトカが起きてしまわないかと慌ててソファの上に視線を向けた。先ほどまで半開きだった口は、いつの間にか閉じられている。まるで微笑みを浮かべているかのような穏やかな寝顔は、間違いなくいつものサトカ