職人弟子入り日誌 0日目 ④

~職人に弟子入りするまで~

④トーゴで学んだこと

 ドタバタしながらも様々な手続きを済ませ、僕は中須さんとトーゴ共和国へ向かった。片道30時間くらいのフライトを経てトーゴに到着すると、照り付ける日差しの中、空港にはガソリンのにおいが漂っていて、なんとなくではあるが「アフリカに来たんだ」と実感したことを覚えている。そこから相席タクシーに乗りこみ、ぎゅうぎゅう詰めの状態で目的地のホテルへ向かったのだが、ここでも車内から見えるのは、植物が生えまくっている広大な山々や、日本では見られなない赤土の道路だったりして、アフリカに来た実感はどんどんと増していった。

 「トーゴについたぞー!」

 滞在期間中、中須さんとはホテルの部屋も一緒だったので、まさに寝食を共にするレベルで一緒に過ごしていた。そんな状況ということもあり、中須さんが休憩している隙を見つけては、僕が悩んでいることや疑問に思ったことをどんどん質問していった。その内容は就職活動、働くこと、生きること、幸せについてなど多岐にわたったが、中須さんはその質問一つ一つに対して、自分の経験を交えながら丁寧に答えてくれた。答えてもらった言葉の中には意味を理解できないものもあったが、トーゴに住む人々の生活に触れることで、その意味も次第にわかるようになっていった。

例えば、質問の答えの中には「生きることはシンプルなことだ」という言葉があった。就職活動で悩みまくっていた僕にとっては生きることとはとても複雑なもので、常に漠然とした不安に駆られながら毎日を過ごしていた。しかし、トーゴに住む人たちは違った。お腹がすいたらご飯を食べる、楽しかったら踊りだす、暗くなったら仕事をやめ、困っている人がいたら助け合う、といったように自分の気持ちに正直に、シンプルな生活をしていた。また、そんな彼らは悩んでばかりの僕に比べて、とても幸せそうだったし、一日一日を大切に生きているようにも見えた。そういったようにトーゴに住む人々は質問の答えだけではなく、僕が就職活動に気を取られ、せわしなく過ごしている中で忘れかけていた大切なことも教えてくれた。

「大切なことを教えてくれた仲間たち」

 そのように中須さんとのやり取りやトーゴの人々の生活に触れる中で、僕も「自分はどう生きていきたいのか」ということを何となくではあるが、考えられるようになっていった。ちょうどそんなことを考えているときに聞いた中須さんの仕事に関する話は、今でも僕の記憶の中に鮮明に残っている。「僕は自分がカッコいいと思える仕事をしたい。僕は自分の子どもたちにそうやって父ちゃんのカッコいい背中を見せていきたい。」中須さんはそう言った。その話をする中須さんはとても輝いたし、いろいろ悩んでいた僕の中にその話はスッと入っていった。そんな姿に影響を受けて、僕も「自分がカッコいいと思える仕事をしたい」という気持ちが芽生えていった。

「確かにこの背中はカッコいい」

トーゴでの生活はほかにも「現地の人と全くコミュニケーションをとれない」、「そんな中でスマホの電波も制限されている」、「何かにつけて謎の木の汁を飲むことになる」など大変なことも多かったが、それらも全部含めて僕の人生において大切な時間だった。片道分のフライトチケットだけをもって乗り込んだトーゴでの生活は、終わってみたらだいたい2週間ほどだったが、僕にとってはかけがえのない期間となった。

「謎の木の汁をすする僕」


つづく。

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