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流彩染めクラファン企画 染め職人・西田清さんを1年間見てきて思うこと①

はじめに

2020年5月、就職活動中の大学4回生だった僕は、京都の染め職人・西田清さんに弟子入りすることを決めた。弟子入りしてから約1年の期間がたち、弟子としていろんな角度から西田さんのことを見てきた。西田さんは自分の仕事を「そんなええもんやろか」と言って謙遜することが多いので、今回このクラファン企画を通して、西田さんのこういうところがカッコいいんだよなというところを知ってもらえたらいいなと思う。今回はその1/3回目。

1.仕事/染色への向き合い方

西田さんの仕事への向き合い方はすさまじい。例えば、出勤数だけ見ても、1年のうち362日出勤している。1年で3日しか休みがないのは明らかにヤバいが、これについて西田さんは「家にいたら嫁はんに怒られるんや」といつも冗談を飛ばしている。(もしそれが本当であれば、嫁はんはどんだけ怖いんだっていう話になってしまう。)

本当のところは、土曜日も日曜日も祝日も出勤して、仕事をしている。これは裏を返せば、染め職人はそれだけ仕事をしなければいけない状況にあるということだ。加工賃は30年前よりも低く、メーター数百円の仕事をすることもざらにある。そんな状況では、人件費に割くお金を確保することが難しいため、西田さんは休日返上で仕事に取り組んでいるのだ。

京都の染色業界では、分業で仕事を行うことが当たり前になっている。染色で着色した生地に色を定着させる業者がいたり、その生地に汚れがないか検品したりする業者がいたりと、取引先の企業に染色した生地を納品するまで、いくつかのプロセスを経る必要があるからだ。ただ、これは染め工房以外の業者のことで、本来であれば、染め工房の中にも分業は存在する。例えば、染料の色を調節する従業員がいたり、新規の仕事に必要なサンプルをとることを専門にする従業員がいたりする。しかし、こういった仕事も前述のように人件費に割くお金がないという理由から、雇うことができない。

つまり、西田さんは本来工房のなかで、他の従業員が行うべき仕事をまとめて自分がやってしまっているのだ。このほかにも、お金の管理、得意先との商談などあっちこっちと引っ張りだこの状態である。このような状況では、362日働かなければいけないという状況も理解せざるを得ない。(決して嫁はんが怖いのではない)

(休日返上で働く西田さん)

ただ、1つ言っておきたいのは、このように金銭面で厳しく、忙しい状況であっても、西田さんのする仕事は一流だということだ。国内外のハイブランドが、西田さんの作品に惚れ込んでいる。それは、フランス人デザイナーがパリコレクションで発表する作品を求め、フランスから海を渡って京都の工房にまで足を運ぶほどだ。それだけ西田さんが手がける作品はレベルが高い。

それでは、なぜ西田さんはこのように誰にも真似できない作品を生み出すことができるのだろうか。現時点で僕が思うに、その理由は2つある。1つ目は「試行錯誤の積み重ね」である。それに気づいたエピソードがある。僕は西田さんに弟子入りしてすぐに、古着の染め直しサービスを始めた。とにかくアクションを起こさないと何も始まらない、と思って始めた染め直しサービスであったが、染め直しした古着を届けるまで、想定の何倍以上も時間がかかってしまった。それは「何もできない大学生に、染め直しを頼んでくれる人の厚意に応えたい」という気持ちが先行しすぎたという点もあったのだが、それを踏まえても時間がかかりすぎていた。

(不慣れな作業には、時間がかかる)

西田さんにそのことを相談すると、「デザインを考えるとき、じっと机の上で考えていてもしゃあないで」というアドバイスをもらった。これはどういうことかというと「手を動かしながら考えなさい」ということだ。実際に西田さんを見ていると、新しくデザインを考えるときは、何もないところから生地に実際に染色してみるということをしていた。それを見て僕は、サービスを始めるときはできていたことが、実際に制作に取り掛かるとできていないということに気づいた。このとき、西田さんはとにかくやってみて、それをもとに改善するという試行錯誤を意識的に行い、それを長年かけて積み重ねているからこそ、スピード感を持ってレベルの高い作品を作ることができているのではないかと思った。

(手を動かしながら改善していく)

西田さんの仕事が誰にも真似できない理由の2つ目は、「固定観念にとらわれず、視点をずらして考える」ということをしているからだと思う。西田さんが手がける作品は、「これどうやって染めてるの?」という作品のオンパレードだ。これはつまり、西田さんは自分で新しい染色技法を生み出しているため、目の肥えた業界関係者にも、「どうやって染めているのかわからない」という現象が起こっている。だからこそ、西田さんの作品は選ばれているのだが、これはとてつもないことだと僕は思う。

(目の肥えた人が見ても、どうやって染めているかわからない技術)

京都の染め職人といわれて、今これを読んでくださっている方は、何を思い浮かべるだろうか?僕が職人についてまだ何も知らなかったころ、職人とは継承してきた技法にこだわりを持ち、その技法や信念を曲げない人というイメージを抱いていた。それはいい意味でも悪い意味でもとらえることができるが、僕は当初そういったことに対して、頭が固そうだとか、怖いとかあまりいいイメージを持てていなかった。

それが西田さんを見て職人に対するそのイメージはひっくり返った。「どうしたら今までにないデザインを作ることができるのか」西田さんはそういったことに向き合い、染める道具や材料にとらわれず、新たなデザインを追い求めてきた。それは、「染色とはこうあるべき」という固定的な視点ではなく、視点をずらして物事を考えているからこそ生まれるもので、そういった思考が数々のコレクションに納める作品を生んでいるのだと強く感じた。

(いままでにないものを)

こういった「試行錯誤」や「今までにない作品の探求」という挑戦の姿勢こそが西田さんの真骨頂なのである。それは、コロナウイルスの感染拡大によって、多くの仕事がキャンセルになり、金銭面で苦しくなった現在もそうである。

現在、西田清さんは御年74歳にして初めてのクラウドファンディングに挑戦をしている。それはこれからの染色文化のため、コロナ禍を乗り越え、またパリコレクションを目指していくためだ。

こんな痺れるぐらいカッコいい師匠の挑戦、ぜひ応援・ご支援のほど、よろしくお願いします!!!


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