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この絵はこの詩から生まれました ──詩の世界をアートに [第85回]



香炉峰下 礒部晴樹・画


香炉峰下新卜山居    香炉峰下 新たに山居を卜(ぼく)し
草堂初成偶題東壁    草堂 初めて成り 偶(たま)たま東壁に題す

日高睡足猶慵起     日高く睡り足りて 猶(な)お起くるに慵(ものう)し
小閣重衾不怕寒     小閣に衾(しとね)を重ねて 寒きを怕(おそ)れず
遺愛寺鐘欹枕聴     遺愛寺の鐘は 枕を欹(そばだ)てて聴き
香炉峰雪撥簾看     香炉峰の雪は 簾(すだれ)を墢(かか)げて看(み)る
匡廬便是逃名地     匡廬(きょうろ) 便(すなわ)ち是 名を逃(のが)る地
司馬仍為送老官     司馬は仍(な)お 老いを送るの官為(た)り
心泰身寧是帰処     心泰(やす)く身寧(やす)きは 是れ帰する処          
故郷何独在長安     故郷何んぞ独り 長安のみに在(あ)らんや

白居易


日はもう高く じゅうぶん寝たが 起きるのがけだるい
小さな草堂で 布団を何枚もかけて寝たから寒くない
遺愛寺の鐘の音は 枕の上で耳をそばだてて聞き
香炉峰の雪景色は すだれをかきあげて寝たまま鑑賞
ここ盧山こそ 世俗の名利からはなれた土地
司馬の任務は のんびり老後にふさわしい閑職
身も心も休まるここは 安住の地
故郷は長安だけじゃない


*先週の大河ドラマ「光る君へ」で、
清少納言がすだれをかかげ、この詩が登場しました。
枕草子で有名な部分ですね。
原詩は、老後の自由きままで、ものぐさな生活を、
しかし風光明媚な地で閑雅に暮らす楽しさを語っています。
現代人のあこがれるスローライフの老後です。
白居易、江州左遷でこの詩ができたようですが、
こんな左遷なら願ってもないですね。







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