ギリシア・ローマ文化のヨーロッパへの伝播の過程について

 ギリシアとローマの文学や思想は、ヨーロッパ文化の出発点として位置づけられる。
 まず起点となるのはギリシアである。そこでは、ヨーロッパ最古の文学とされるホメロスの作品を始めとした古代ギリシア文学、ソクラテス、プラトン、アリストテレスを始めとした古代ギリシア哲学、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスを始めとしたギリシア悲劇が開花した。これらの考え方の中心にあるのは、人間という存在への関心と自由な発想・創造である。
 続いて、ギリシア文化の影響を強く受けたのが、ローマ文化である。キケロやセネカを始めとして、特にラテン文学において、ギリシア悲劇の翻案などを含みながら、ギリシア文化が受容されることで発展した。そこには、ローマ文化特有の「フマニタス」の世界観が確立した。これは「人間であること」を意味し、弱い人間たちが一つに協力するとき人間の力が最大に発揮されるという考え方であり、そこでは教養が重要視され、文化の発展に大いにつながったといえる。
 ギリシア・ローマの豊かな文化は、続くキリスト教の盛隆期から中世にかけて衰退したとされる。しかし、もともと新約聖書がギリシア語で書かれたという事実や、中世において神学とギリシア哲学の融合を特徴とするスコラ哲学が誕生したことからも、ギリシア・ローマ文化はキリスト教世界でも確実に結びついていた。
 ヨーロッパへの伝播において重要であるのが、ルネサンス期である。現在まで連なるヨーロッパ文化の主要な部分が、ギリシア・ローマ文化の影響を受けて発展した。
 まずは、イタリアにおいて、ギリシア・ローマの古典世界の再発見という形で現れた。その先鞭となったのがダンテの『神曲』であり、ギリシア神話や古代ローマ詩人の登場など、ギリシア・ローマの古典的世界観を色濃く反映した作品である。さらに、ペトラルカやボッカッチョも、『イリアス』のラテン語訳などの古典研究を通じて、キリスト教世界観とは違った人間中心の考え方をそこから抽出し、作品に活かしていった。
 このルネサンス期での古典復興の姿勢は、「人文主義」として各地に波及していった。特にフランスにおいては、エラスムスやモンテーニュを始めとしたユマニストたちが、古典文芸の実証研究や活字化を通じ、人間が中心に据えた考え方を自らの作品に取り入れることで、ギリシア・ローマ文化の伝播が図られた。
 ルネサンス期以降、反動としてバロックといった動きが出てきたが、並行するように古典主義がヨーロッパ文化の主流となっていく。特に、フランスを中心に古典主義演劇が発展したが、規則性を重視したギリシア演劇の影響を大きく受けたものであった。さらに、近代哲学の端緒となったデカルトやパスカルの思想は新しい世界像を発見することにあったが、これらは古典主義を踏まえ人間の自由な発想から生まれたものであったととらえられる。
 このように、ギリシア・ローマ文化は、キリスト教世界や中世から近世ヨーロッパの文学、演劇、思想などに伝播し、豊かなヨーロッパ文化を形づくり、現代まで影響を与え続けているとみることができるのである。

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