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『いりえで書く』9月テーマ 「最近読んだ本」                       永井荷風『すみだ川』を読む

八月も半ばを迎える頃、知人からある読書会へのお誘いを受けた。指定された作品は永井荷風『すみだ川』。
作家の名前は知っていたが、作品は読んだことがなく全く馴染みがない。
だがこの機会を逃したら一生読む機会がなさそうなのと、こういう話が来たのも何かの縁だと思い、二つ返事で「行きます。」と答えた。

実際、作品を読み始めて最初に受けた印象は、時代小説っぽい雰囲気とでもいうのだろうか。実際は時代小説にも自分は馴染みがないので、子ども時代に親につきあって観ていたテレビの時代劇のイメージ。そんな世界観という印象を受けた。

先ず出てくる登場人物は、俳諧師の松風庵蘿月(しょうふうあんらげつ)。いきなり馴染みのない設定のキャラにハードルの高さを感じる。
しかし、読み進めてみると少し離れたところに住んでいる妹に会いに行く用があるのに晩酌を始めたり、家を出たかと思えば近所のこれまたほろ酔い加減の話好きに呼び止められて話し込んでその日は帰って来たりと、なんだかぐずぐずでいい加減なのである。これはあれだ、町田康の小説の主人公みたいなやつだ。(逆か?)
昔の日本の文学には苦手意識があったのだが、勝手な自己解釈を含めながらも意外と抵抗なく読み進められた。

ざっくりとあらすじを書いてみると、羅月は盆に会えなかった妹のお豊に会いに行き、甥の長吉の近況を聞く。長吉は立身出世のため大学進学を目指す学生なのだが、母親のお豊は最近の長吉の様子に気が気でない。
と、言うのも長吉は近所の幼馴染みの煎餅屋の娘、お糸と毎朝家の窓越しに何やらやり取りをしているようで、お糸の姿が見えない日はぼんやりしたりしているというのだ。
お糸は近いうちに芸者になる予定で、自分から遠い存在になってしまうことに長吉は悩んでいた。長吉は考え抜いた末、少しでもお糸の住む世界に近付こうと役者になる道を志すことにする。
しかし、そんな申し出をお豊が認めるわけもなく、羅月にも長吉が思い直すように説得することを頼むのだが…

時代性を感じるところは当然、多々あるのだが今でもありそうな会話のやりとりや心理描写などもあり、意外と現代にも通ずる作品だと自分は思った。

読書会は、早稲田大学文学学術院現代文芸コースで研究されている方が司会で、丁寧に作られたレジュメとともに当時の時代背景も解説してもらって、より一層作品と作者への理解が深まった。
参加者は若い方が多く、比較的少人数の会で発言も自由にできる感じで良かった。

読書会に誘ってもらった知人の方も永井荷風を読むのは初めてだったらしいのだが、帰り道に「あの場面のセリフは、今の○○と一緒だ。」という話で盛り上がり、自分と同じような見方をしてたので面白く感じた。
また、永井荷風の別の作品も読んでみようと思う。





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