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『夏』を壊し、『アスタリスク』と2年越しの因縁に決着をつけた話

注意

 この記事には、VRChat内ワールド『PROJECT:SUMMER FLARE』および『アスタリスクの花言葉』に関するネタバレが含まれます。
 未プレイの方は該当ワールドを攻略するか、ネタバレがあることを理解した上で先にお進みください。
 なお、『アスタリスクの花言葉』に関しては各部屋の謎について直接的な答えは出しませんが、答えが推察できる程度の情報に触れています。こちらも合わせてご注意ください。

"2年前"の因縁

 皆様は『1%の仮想』というワールドをご存知でしょうか。
 これはソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』上に存在するワールドの1つであり、ワールドクリエイターであるヨツミフレーム氏が2018年9月に開催された同名メディアアート展の会場がイベント後にPublic化されたものです。

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画像:自作キャラ「花曇咲耶」のアバターでVRChatをプレイする桜居春香

 私がこのワールドを初めて訪れたのは2019年1月のこと。……いえ、当時「花曇はるか」はまだこの世に生まれていなかったので、正確には私を構成する半身であるところの「俺」こと桜居春香の経験なのですが、ややこしいので私の経験として話を進めましょう。
 私がVR機器を初めて手に入れたのは2018年12月のことであり、この頃はまだVRChatの遊び方もろくに知らず、行ったほうが良いワールドの情報など調べる手段も分かっていません。この『1%の仮想』も、Twitterのフォロワーが勧めてくれたことでその存在を知り、興味を持つに至りました。

 さて、このワールドを実際に訪れたことのあるVRChatユーザーであれば、VR機器を買って1ヶ月しか経っていない人間が『1%の仮想』を訪れたことでひどく衝撃を受けたことは言うまでもなく察せられるでしょう。
 VR空間だからこそ成立して、VR空間だからこそ見て近づいて触れられる、もしくは、見えて近づけるのに触れられない。そういう作品があの場所には溢れていて、当時の私は「これがVRか」と思い知らされました。

画像:空を飛ぶおっさん(着席可能)

 その後、私は外国人ユーザーがAVを垂れ流しているPublicワールドに迷い込んだりおっさんにまたがって空を飛ぶワールドを見つけたり何故かジャンプすると真上にぶっ飛んでいくアバターに取り込まれたりとVRChatの洗礼を受けるわけなのですが、それでも『1%の仮想』で受けた衝撃は別格であり、記憶の中で薄れることなく残っていたのです。
 2019年の7月には、ヨツミフレーム氏含むVRクリエイターの作品が集まる合同展示ワールド『Beyond Reality』もα、βの全2種を見に行き、この頃にはすっかりヨツミフレーム氏の次回作を待ち望むようになっていました。
 そして2019年9月、ついにヨツミフレーム氏の新作ワールドである『アスタリスクの花言葉』が公開されたので、声をかけてくれたフォロワーさんと一緒に意気揚々と新作ワールドの謎解きに挑み──

 見事、2部屋目を攻略した段階でクリアを諦めたのでした。

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画像引用:当時の同行者(ナタリィ・イルハ氏)のTwitterより

 『アスタリスクの花言葉』2部屋目の謎、それはこのワールドが「ただの謎解きワールド」ではないことを挑戦者に思い知らせる最初の関門であり、これが「全9部屋あるうち2つ目の謎」だという事実が、挑戦を続ける気力を砕いたのです。もちろん、事前に作者Twitterやワールド入口の注意書きで「クリアには最低でも数日かかる」と明言されているので、挑戦してその日のうちに攻略できるとは我々も思っていませんでしたが。
 かくして『アスタリスクの花言葉』から逃げ帰った私は、作者や攻略者の言及から察せられる「最後の部屋に"何か"がある」という、探求欲を刺激される情報を知りつつも、謎解きを諦めた「敗走者」として日々を過ごすのでした。

『夏』を壊せ

 そんな『アスタリスクの花言葉』への挑戦と敗走から2年後の2021年9月。いつの間にやら「花曇はるか」という存在が誕生して1年後、という時期のことです。
 その頃の私は、VRChatで遊ぶことはたまにありつつ、始めた直後ほど熱中しているわけでもなく、ときには数ヶ月VR機器に触らない日もある、という状態でした。しかし、『P․R․O․超常現象研究機構[FILE1˸呪画像]』というホラーワールドの情報を知って興味を抱いた私は、プレイ済みのフォロワーから「2人以上で行った方が良い」と助言を受けたため、『アスタリスクの花言葉』を含め何度かVRCで一緒に遊んだことのあるナタリィさんを誘い、遊びに行くことにしたのです。

「そういえばはるかさんはヨツミフレーム氏の新作やりました?」

 ナタリィさんがそう聞いてきたのは、ホラーワールドへ遊びに行く予定を立てた少し後、10月7日のこと。そう、ヨツミフレーム氏が9月23日に最新ワールド『PROJECT: SUMMER FLARE』を公開してから、まだ半月も経っていない時期のことです。
 実際のところ私も興味がなかったわけではありませんが、『アスタリスクの花言葉』で味わった難易度のイメージから、次の作品もそれなりに難しいものになるだろうという思い込みがあり、事前情報についてもしっかりとは集めていませんでした。
 しかし、1人でも攻略は可能だということや、攻略には3時間ほどかかるが難易度はそこまで高くないということを教えられて、その上「めちゃめちゃ刺さった」という評価の高い感想を聞いてしまえば、かつて『1%の仮想』に圧倒された者として、最早『PROJECT: SUMMER FLARE』を無視することは出来ません。
 そういった経緯もあり、2021年10月8日、私は1人「夏を破壊する」ためにVRChatへログインしたのでした。

※ちなみに『PROJECT: SUMMER FLARE』の前日譚にあたる展示ワールド『夏が始まる一日前。』には1回だけ訪れたことがあったものの、その際はVRChatの長時間プレイでVR酔いになりつつある中で訪れたため、結局ろくに中身を見ることなく退出していた。

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画像:核爆発を背景に無表情でピースサインをする花曇はるか

 結論から言うと、夏を破壊した後の私はこのワールドの魅力に取り憑かれ「『夏』はいいぞ」しか言えないbotと化していました。
 作者Twitterを含め至るところに張り巡らされた伏線と、ワールド内に散りばめられた丁寧な演出。このワールドを訪れたユーザーが、VRChat上でこのワールドを遊ぶこと自体に、このワールドの中での意味があるという構成。攻略後に味わう余韻は優れた映画を鑑賞した後のそれに近いものでしたが、それと同時に「自分が物語の登場人物として実際に参加した」という満足感もあり、『1%の仮想』で味わった以上の衝撃を受けたことは言うまでもないでしょう。

 ちなみにこれは余談なのですが、『PROJECT: SUMMER FLARE』初挑戦時に開始1時間でひどくVR酔いした後、再度挑戦して最初から最後まで通してプレイした結果、それ以降現在(記事執筆時点2022年1月10日)に至るまで私は一度もVR酔いを起こしていません。6時間ぶっ続けで遊んでいることもあるというのに。まさか、夏を壊す経験を経て肉体がVRに適合した……?

 閑話休題。

 かくして夏を破壊した私ですが、皆様もご存知でしょう、考察要素のある作品を摂取した人間は往々にして自分自身も考察を深めつつ、他人の考察や感想を求めるもの。もちろん私も、Twitterで考察ツイートを漁るため公式ハッシュタグ(#PROJECT_SF)で検索を繰り返したりしていました。
 この記事を書いている2022年1月には、作者であるヨツミフレーム氏から公式設定資料集も配布されており、それを踏まえて再度ワールドを訪れると未だに新しい発見があります。私も、現時点で既に片手では数え切れない数の夏を破壊していることになりますが、それでもまだ全容を理解できたとは言えないでしょう。そもそもの話ですが、通しで攻略するのに3時間は必要なコンテンツを何度もプレイしている時点で、それだけ私が魅了されている証拠と言えます。

 さて、冒頭で注意書きをした通り、この記事ではネタバレを気にせず内容について言及してしまいますが、『PROJECT: SUMMER FLARE』にはヨツミフレーム氏が過去に作ったワールドである『1%の仮想』に展示された作品が関わっています。と言っても攻略するに当たって知っておく必要があるほどではなく、世界観として関わっているという程度の繋がりなのですが、そこに関してとあるユーザーの考察記事にこんな記述がありました。

「前作に続き、今作も過去のワールドに伏線があった」

 ここで言う前作とは、間違いなく『アスタリスクの花言葉』のことです。しかし、私が知る3部屋目までのエリアに過去のワールドとの繋がりがあるようなものはありませんでした。つまり、それがあるのは4部屋目よりも先のエリア。きっとそれを見た人たちは『PROJECT: SUMMER FLARE』の攻略中にも前作との共通点を見出し、繋がりを感じることが出来たのでしょう。
妬ましい。

 しかし私は、攻略を諦め敗走した身。ましてや『アスタリスクの花言葉』は複数人で数日間に渡って攻略へ挑む必要のある高難易度謎解きワールドであり、私にそれだけの人を集め、継続して攻略に挑む気力はなく。夏を破壊し、ヨツミフレーム氏の創作物に魅了されたことで生まれた「あの先の部屋を見たい」という望みは、そのまま叶うことなく封印されるはずでした。

世界を跨いでその手に鍵を

 『PROJECT: SUMMER FLARE』を攻略した翌日、予定通りナタリィさんと当初の目的であるホラーワールドを体験した私は、ついでに「夏を壊した者」同士でネタバレありの感想交換を行い、当然ながら以前攻略を諦めた『アスタリスクの花言葉』についても触れることになりました。
 そしてそれから数日後、Twitterを見てナタリィさんが再び『アスタリスクの花言葉』に挑んでいることを知ったものの、やはり前述の通り、私は継続して攻略に挑むという気力がなかったので、特に参加を希望することもなく様子を見るだけに留まっていました。どう見ても「先の部屋」に対して未練タラタラな本心は漏れ出ていましたが。
 
そして結局、未練ありまくりな私を見かねたのであろうナタリィさんに声をかけてもらったことで、私も再び『アスタリスクの花言葉』に戻ってきたのでした。

 この時点で既にナタリィさんの『アスタリスクの花言葉』攻略は4部屋目を過ぎて5部屋目の謎解きに突入しており、3部屋目と4部屋目の謎がともに「『アスタリスクの花言葉』ではない別のワールドにヒントや答えを探しに行く」というものであったことを聞きました。が、恐らく前述の考察記事で言及されていた「伏線」はこれのことではないでしょう(実際これのことではなかった)。そんなわけで、私は自分の「知りたい」という欲求を原動力に『アスタリスクの花言葉』攻略へと挑むことになりました。

画像:『アスタリスクの花言葉』攻略完了時の参加メンバー

 ネタバレありと前置きはしていますが、このワールドの「核」たる部分に触れてしまうのは野暮なので、一応詳細はぼかして話すとしましょう。
 まず私が攻略に参加した5部屋目は、2部屋目と同じく「VRChat外に答えがある」謎でした。しかし、ヒントとなるものが分かっても先へ進む方法が分からず、参加者全員であれやこれやとVR空間で暴れ回る始末。

画像:謎解きに疲れた花曇はるかが生み出した虚空に立つ鍵

 しかし、暴れ回りつつもそれらしい行動を試し続けた結果、6部屋目への扉が開くことに。これが、私の『アスタリスクの花言葉』再挑戦後における最初の「謎解き」となりました。
 実際、解けてみればヒントも分かりやすく、扉が開いたときにもすぐ納得することが出来る問題でしたが、攻略時の私は半ばやけくそ気味にその正解となる行動を試していたため、果たしてそれを「謎を解いた」と言って良いのかは少し怪しいところです。

 続いて6部屋目。ここから先は公式によるネタバレ禁止エリアなので写真を残していませんでしたが、「ネタバレあり」と前置きした場合には言及を禁止されていないため、ざっと触れましょう。まさかGithubでヒントを探すことになるとは思いませんでしたよ。ちょうどこの部屋の攻略を始めた段階でその手の分野に強い方が参加していたのでどうにか答えに辿り着けましたが、もしもそうでなかった場合、私はここで詰んでいた可能性があります。

 6部屋目について語るのであれば、外せないのは『ドキドキ文芸部』の話でしょう。『ドキドキ文芸部』を知らない人に向けて簡単に説明すると、元々は日本の恋愛シミュレーションゲームをモチーフにした海外産フリーゲームであり、その明るくポップな第一印象とは裏腹に、Steam販売ページでは「精神的恐怖」「ホラー」などのタグがつけられている、そういう作品です。詳細に触れると今度は『アスタリスクの花言葉』ではなく『ドキドキ文芸部』のネタバレになってしまうので避けますが、この作品はいわゆる「メタ演出」を用いた作品であり、あるキャラクターは作中の「主人公」ではなく、ゲームをプレイする「プレイヤー」に対して言葉を向ける場面が多々あります。VR空間(ゲーム内)の謎を解くために現実世界(ゲーム外)でゲームの編集履歴を覗く我々もある種「メタな存在」に片足を突っ込んでいるため、ここで『ドキドキ文芸部』が謎解きに関わってきたことに意味を見出すなという方が無理な話です。

 そして前述したIT技術畑の参加者がヨツミフレーム氏の正気を疑う原因になった7部屋目。この部屋では謎を解くために「別のソーシャルVRプラットフォームを見に行く必要がある」という事実が判明し、しかもそこでヒントを得た上で扉を開く方法が分からないという事態になり、非常に攻略は難航しました。そして実は、攻略当時にはとある理由からVRChatの外どころか『アスタリスクの花言葉』内だけでギミックが解ける状態だったことも後に発覚した
 実際、攻略中に扉が開いたのも、別の参加者が行った行動が偶然ギミック解除のきっかけになっただけで、私を含めた参加者全員が『アスタリスクの花言葉』内での答え合わせを受けるまで「何故あのとき扉が開いたのか」を理解していませんでした。しかしまあ、運も実力の内ですし、偶然とはいえ答えに辿り着けたのだから、これを逃さぬ手はありません(というかこれを逃すとまた7部屋目の謎に挑む羽目になる)。

 ということで偶然が味方したお陰で突入できた8部屋目。ここも7部屋目と同じく、とある理由からワールド公開当時とは攻略方法が変わっており、「現実世界で特定の場所に行かなければいけない」という公開当時の縛りがなかったお陰で難易度は下がっていました。下がっていないと私が現地に行くまで攻略不可でした(他の参加者が遠方で私の居住地だけ「特定の場所」に近いため)。
 ただし、難易度は下がっていたものの「手に入れた答えをどうやって使うのか」に気づくまで結構な時間がかかりました。私はこの部屋を攻略するまで、VRChatをVRモードでプレイしている最中に"それ"が使えることを知らなかったのですが、この機会に"それ"が使えることを知ったお陰で、今は色々な場面で快適な思いをしています。『PROJECT:SUMMER FLARE』でVR酔い耐性を得たことといい、私はヨツミフレーム氏のワールドを攻略すると毎回副産物を得ていますね。

 そんなこんなで辿り着いた最後の部屋、9部屋目。この部屋の謎解きは今までの部屋と比較すれば非常に簡単でしたが、この部屋における本題は謎を解くことではありません。『アスタリスクの花言葉』というワールド自体に込められた意味を知ることが最大の謎解きであり、同時に、私が2年間知りたいと思いながら知ることのなかった「最後の部屋にある"何か"」を自分の目で見る、それがここまで私が来た目的でした。

 先に書いてある通り、9部屋目で挑戦者が知る「真実」はこのワールドの「核」たる部分なので、私はこの場でその詳細を語りません。が、1つだけ断言出来ることは、およそ2週間に及ぶ攻略期間を経てエンディングに辿り着いたこの体験は、この先VRChatをプレイする限りずっと私の心に残り続けるだろうということです。
 確かに「謎解きワールド」として見れば、出題内容は理不尽かもしれませんし、難易度も高いですが、それとは別の視点でこのワールドを「VR体験ワールド」として見た場合、このワールドは他に類を見ない無二のVR体験を味わわせてくれる最高のワールドだと言えます。少なくとも私は、この作品をそう表現します。ここには最高のVR体験が在る

 2021年10月23日『アスタリスクの花言葉』攻略完了。私にとっては9日間であり、主催者のナタリィさんにとっては12日間の謎解きが終わりを迎え、我々にとって2年に渡る因縁に決着がついた瞬間でした。
 初挑戦から再挑戦に至るまで、私を引っ張って因縁に決着をつけさせてくれたナタリィ・イルハさんを始め、再挑戦時の攻略で共に謎へ挑んだほかの参加者たちに、改めて感謝を伝えたいと思います。

後日譚

ずっと覚えていたいもの

画像:花曇はるかのホームワールド

 『PROJECT:SUMMER FLARE』攻略から『アスタリスクの花言葉』攻略の間にホームワールド用のキットを買って、自分のホームワールドを作ったりしていました。そこに写真立てを置いたので、『アスタリスクの花言葉』を攻略した際の記念写真も飾っています。良いですよね、こういう空間。
 ここには、私がVRCで一緒に遊んだ人と撮った写真がどんどん増えていく予定なのですが、その中でもこの写真は『アスタリスクの花言葉』を一緒に攻略した戦友という文脈が在るので、特に思い入れがある写真としてここに残ることでしょう。

いずれ消えてしまうもの

画像:リアルワールドインスタンス

 それから、本来の仕様であれば8部屋目の攻略で行くはずだった場所にも行ってきました。
 こういうのも聖地巡礼と呼ぶのでしょうか。1人で行って1人で見て、特に何もせず1人で帰ってくるだけでしたが、現地で攻略中のことを思い出して感慨深い気分になったりもしました。
 攻略当時は感染症対策のために閉鎖されていたらしく、それに伴って攻略方法が変更されていたのですが、どうやらこの施設は近く取り壊される予定があるそうなので、この光景を見られるのも今のうちだけのようです。

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