1978年生まれとパク・テウォンと芥川賞と箱田監督と面倒くささと向きあうことと

 今年はまだブログを書いていないことにさっき気づいた。ポエトリーリーディング修業の音源を6日にアップしたのがnote初め。年初の挨拶メールを何人かに送らせていただきましたが、送っていないかたがたもどうぞ今年もよろしくお願いします。
 映画初めは般若氏のドキュメンタリー映画『その男、東京につき』。映画で俳優としてお見かけするばかりで、楽曲のほうは若かりしころにZeebra氏のラジオ番組へ送ったデモテープをyoutubeでなぜか聴いたぐらいでしたが、劇中に流れた曲はいずれもいい感じだった。さいきん見つけたweb記事で般若氏が私とおなじ1978年生まれと知る。ほかにもいろいろ知った名前がおられ、そうだったのかと。なんとなくわかる気もする顔ぶれだなと。
 読了初めは瀬戸賢一『書くための文章読本』(集英社インターナショナル新書)。文末に着目して書かれたと聞いて、文章があまりにも下手な私は勉強のためと思って読んだのだが、書かれていることはすべてとっくの昔から実践済みであった。ひさびさにゴミのような新書をつかんでしまった…。小説だとチョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)。年末に書いた記事にある、今年創刊予定のZINEに連載する掌篇のために。とても面白かったし、参考になる。似たような感じかなと思って、ずっと積んでいた朴泰遠(パク・テウォン)『川辺の風景』(作品社)も読んだ。たしかに源流といっていいのではないかと思う。パク・テウォンといえば「小説家仇甫氏の一日」が面白いので平凡社が復刊させるか書肆侃侃房が新訳を出すかしてほしい。
 また、意識の流れ関連としてズヴェーヴォの『ゼーノの意識』が岩波文庫から出るらしく、こちらは新訳。旧訳はタイトルが「ゼーノの苦悶」となっており、2012年に読んだ感想によるとどのへんが苦悩しているのかよくわからなかったらしい。

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 東京ポッド許可局のイベントも配信で楽しんだ。
 去年から参加している芥川賞(勝手に)選考会に今年も参加。いかな高級料亭でも密は密であることから、今回はメールで行なう。これなら某コンカニ師匠も参加できてたな。各自、メールで主催者に全作品の点数と評を送るのだが、皆さん私などと違って読みが深遠で評の切れ味がすごい。せっかくなので私のをここに公開しておきます。獲るだろうなと思っているのは宇佐美りん氏と尾崎世界観氏。twitterで「宇佐美世界観」だなどと言ってしまってますが。いちばんマシなのは木崎みつ子作品だと思いました。

宇佐美 りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)2点
twitterなどでやけに推されているのでどんなものかと思っていたが、大したことなかった。
主人公の生きづらさはよく描かれていて、「推し」の存在が救いになるということがとてもよく表現されていたが、それだけに留まっている。
しかし、推しの存在が救いになるという点では木崎作品のほうが…。
でもポスト中上健次とまで言ってしまっていることだし、獲らせちゃえばいいと思う。

尾崎 世界観『母影』(新潮12月号)1点
一部では文学としての純度が高い、内的必然性に満ちた文章などと言われているが、そういうのは新人文学賞でやればいいと思ったけど芥川賞も一応新人賞だった。
主人公=小学生女児が何歳なのかはっきりしない。2年生から5年生ぐらいをうろうろしている印象。
あくまでも概念としての小学生女児であり、思いつきの域を出ず、作品としての説得力に欠ける。
ジャームッシュの映画の紹介をラジオでしていたのは面白かったので、そういう作品を書けばいいと思う。
でも獲らせたほうが話題になるし、宇佐美とW受賞でいいのでは。

木崎 みつ子『コンジュジ』(すばる11月号)5点
出されているバンドについて、実在するのかどうかたしかめたいとも思わないのは致命的と言えなくもないが、それは私の趣味や性格の問題だろう。ヒップホップグループとかだったらぐぐっていたかもしれない。
ここでの「推し」は主人公のイマジナリーフレンドとして存在しており、残酷な状況の中で生き抜いていく主人公の姿を見せられている身として、すこしばかりの救いとしても機能していた。
それが話が進むにつれて、主人公が内面化してしまっている価値観(性犯罪の被害者のほうに非があるものとして責めてしまうなど)を帯びてきて、かつて主人公が手にした評伝で読んでいなかった箇所をあとで読んでみて「推し」の負の部分を知ってしまうあたりはうまいなと思った。
しかし、それによって「推し」を父親と重ねてしまったがために「推し」への幻滅を「赦し」へと昇華しようとする過程で完全に失敗しているように思う。
だいたいイマジナリーフレンドのお話は最終的にイマジナリーフレンドからの卒業が話の主軸になるところ、イマジナリーフレンドと心中しようとしたのだということだろうが、説得力に欠けた。

砂川 文次『小隊』(文學界9月号)3点
お子様大国となっている今回の候補の中では異彩を放っていたが、なにがそんなに評価されているのかはよくわからない。
もっと雪深いところで戦闘してほしかった。
AMラジオなのに「DJ」であることが違和感。

乗代 雄介『旅する練習』(群像5月号)4点
こういうのは堀江敏幸『いつか王子駅で』で終わりにしてほしい。
小学生女児の描きかたという点では、大人の男性が求める感じに則っている。
つまり堀江敏幸。
このままでは堀江敏幸だと思ってあのラストの展開を持ってきたのだと邪推するが、フラグを見せはじめるのが早すぎるし、見せる頻度もしつこすぎる。
しかも簡単に結末まで予測できてしまう展開であり、端的に言って下手。
立てるだけ立てておきながら全部無視するという選択肢はなかったのだろうか。
蘊蓄小説自体は嫌いではない。
堀江敏幸の評が楽しみ。


 あまりにも軽いですね。適当ですね。芥川賞をなんだと思っているのでしょう。イマジナリーフレンドといえば、映画になると妙に実在感があって戸惑ったりするのですが(ごく最近だと『チャンシルさんには福が多いね』、まだ観てないけど『おらおらでひとりいぐも』)、実在感ありすぎイマジナリーフレンド映画の名作として名高い『ブルーアワーにぶっ飛ばす』は私でさえ2回観ているので、だいたいの人は10回ぐらい観てるはずなのですけれども、あの映画の監督が、U-NEXTの、劇場で観られるあのCMを手がけたらしく、なんとなく作家性が見えるなあと感心したのだった。いいCMですよね。

 twitter上で「自己評価が低いひとのめんどくさい心模様」を描いた漫画が紹介されていて、私もこの通りの思考に陥りがちだなあと非常に共感してしまったのだった。ほぼ信じてもらえませんが。作品を褒められてるツイートとかブログとかスクショ撮って保存したりしてるんですが、それでもどうも癖になってしまっているので駄目ですね。作品はこのwebsiteに公開しておりますので、いつでも褒めてください。よろしくお願いします。


さいきん読み終えた本
瀬戸賢一『書くための文章読本』(集英社インターナショナル新書)
チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)
朴泰遠(パク・テウォン)『川辺の風景』(作品社)

さいきん観た映画
『その男、東京につき』(岡島龍介)シネ・リーブル梅田
『羅小黒戦記』(MTJJ)第七藝術劇場
『チャンシルさんには福が多いね』(キム・チョヒ)シネ・リーブル梅田
『殺人者の記憶法』(ウォン・シニョン)シネマート心斎橋
『香港画』(堀井威久麿)第七藝術劇場
『分断の歴史──朝鮮半島100年の記憶』(ピエール=オリビエ・フランソワ)第七藝術劇場
『新感染半島──ファイナル・ステージ』(ヨン・サンホ)シネマート心斎橋


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