『あしたの少女』とペ・ドゥナと平野区と西田辺と『福田村事件』と9月1日と文学フリマ大阪タイムシフトと

 9月1日、さいきんまた仕事が終わるのが遅くなりがちで、もし18時半に終われれば映画へ行こうかと考えていたところ18時45分に終わり、それでもなんとか間にあうかもしれないと考え、シネマート心斎橋へ。『あしたの少女』を観る。途中から出てくるペ・ドゥナがとにかくかっこよかった。思えばさいきん『ベイビーブローカー』で見たときもペ・ドゥナがやたらかっこいいなと思っていたが、今回とくに監督がかっこよく演出したペ・ドゥナを撮りたくてたまらなかったんじゃないかというくらい吸引力がすさまじかった。話自体もしっかり作りこまれていて、とてもいい作品であった。どれだけペ・ドゥナがかっこよく撮られていようと作品自体が駄目だったらそれは駄目なものでしかないが、観ていて、わが国のやりがい搾取だとか技能実習生問題だとかが当然呼び起こされ、けっして他人事ではないなと。そして、ダンススタジオでたった一度邂逅していた少女の無念を感じ取ったペ・ドゥナが、大人としての責任を果たすために奔走する姿がとにかくかっこよかった。物語内でしっかり説明されることはないのだけれど、ペ・ドゥナもけっしてこれまで順風満帆ではないし、いくつもの挫折を味わってきたんだろうなと感じさせる表情とかがとにかくかっこよかった。こうしてちゃんと「大人」が描けるというのは大事なことだし、強いな、と思った。年齢の近い者として、ペ・ドゥナがかっこいいことは希望であると言えるかもしれない。
 ちなみにこの日映画館へ行こうというツイートにイイネをつけた人の中には、私が『福田村事件』を観に行くものと思った人もいたのかもしれない。

 2日はかねてより約束のあった会食の誘いに応じて平野区へ。『白鴉』33号に載せた私の「バケモン」が衝撃であったという話を男性ふたりから聞かされる。あ、同時掲載の「うまれるところ」じゃないんだ、とちょっと残念がりながらもありがたく受け止める。そのとき忘れていたけど、あれはもともと『吟醸掌篇』vol.4用に(3作用意しなければならなかったので)さらっと読める軽めのものというコンセプトで一週間ぐらいで第一稿をまとめあげたものなのだった。ラストの場面と言われて、同人誌評でよく出てくるあの会話のことかなと思ったら、「上等やんけ」のとこだったのも意外だった。あそこはホアキン・フェニックスの演じたジョーカーを思い浮かべながら書いてます。そんな話はどうでもいいですね。あと、いくつか質問に答えているうち、私が書くのは権力への復讐という面もたしかにあるなーと、自分でそう答えておきながら思った。わりと文校にいたころから権力とは言ってなくても「力」批判はしてきている。手相を見てもらったところ、実際の運命以上のことを私はしていて、しかもそれは正解らしい。まじか。それで現況かよ。
 終了後、タクシーで西田辺まで送ってもらう。かつて自死した親友が最後に住んでいたマンションが近くにあったはずだなー、書きつづけなかったら呪うとか物騒なこと言ってきてたなー、とか思いながら地下へ潜り、梅田へ。『福田村事件』に間にあいそうだったのでシネ・リーブル梅田を目指す。果たして間にあい、話の展開のさせかたがうまいな、これはそうとう気合入ってんな、とかだいぶ感心させられた。時代背景はもちろん、さまざまな階層の差別意識や生活などといった情報をさりげなく織り込んで提示してくる。『菊とギロチン』の主演を務めた木竜麻生氏も重要な役で出ていた。脚本になぜかtwitterで相互フォローさせてもらえている、『アジアの純真』脚本の井上淳一氏がかかわっているのは知っていたけど、ほかにふたりいるようだった。脚本3人体制。「福田村事件を描く」というコンセプトに対して抱いていた不安は永山瑛太氏のセリフ「朝鮮人なら殺してもええんか」で解消された。朝鮮人虐殺の場面も思想犯惨殺の場面もちゃんと描いていて、さすがの脚本だった。私がさいきん資料を集めはじめた堤岩里教会事件のことも出てきていて、やっぱ出すよねーと。主題からしてもちろん重い話ではあるが、カットやら場面転換などの巧みさにより飽きさせない、上質のエンタテイメント映画となっておりました。さすが。
 ラストの舟のカットはなんかのオマージュっぽい気がするのだけれど、それが今後判明するのか、どうか。
 どうも一連の虐殺をなかったことにしたい権力者が多数いるようだけれど、もちろんそう簡単に忘れさせてはならないことであり、忘れてはならないことであり、自分自身もおなじように虐殺に走ってしまう可能性を秘めている存在であるということを肝に銘じておくべきだ。私はこれまでのいくつかの作品にも書いたように言葉の発音が得意ではないので、あの当時の首都圏近辺にいたら私も殺されていた可能性は高いと常に考えているが、人は常におのれの被害者性よりも秘めたる加害者性のほうに目を向けるべきなのだ。

 来週、10日はいよいよ文学フリマ大阪であり、『白鴉』も参加します。33号を持って、なので33号をすでに持っているかたには、ひょっとしたら作者に直接、作品への賛辞を送れるかもしれないですね。ちなみに私の店番は設営~12:00、14:00~16:00の2回です
 また、K-53の「アイスコーヒー」ブースにて販売される批評誌『Silence vol.2』に、私も「だとすると「病」とは何なのか」という文章を寄稿しております。よろしければこちらにも足を運んでみてください。


さいきん読み終えた本
金東椿『朝鮮戦争の社会史──避難・占領・虐殺』(平凡社)

さいきん観た映画
『ソウルに帰る』(デイヴィー・チョウ)シネ・リーブル梅田
『あしたの少女』(チョン・ジュリ)シネマート心斎橋
『福田村事件』(森達也)シネ・リーブル梅田


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