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親の介護のために仕事を辞めないには介護とどう向き合うかを知っておくことが大切です。自分らしく働き、働き続けるためにも参考にして頂けたら幸いです。

介護をする家族の人生、生活も考える

介護をする家族にも自身の人生や生活があります。介護は生活の一部に過ぎないはずなのですが、介護にまじめに取り組み過ぎると自分自身の生活を犠牲にしまいがちです。介護がはじまると、仕事を辞めるだけでなく、それまで続けてきた趣味などもやめてしまう人がいます。親のことを考えて、介護に専念するためにはそれくらいは我慢するべきと考えてしまうのでしょうけれど、いつ終わりが来るのかわからない介護生活では気分転換やストレス発散も大事なことです。介護ではエネルギーをたくさん使います。楽しみのひとつもなく、介護に向き合う日々は疲れてしまいますし、そうした状態はいずれ苛立ちや怒りの気持ちにも変わりかねません。介護を受ける親も申し訳ないと感じつつも、やはり明るく元気に過ごして欲しいと思うにちがいありません。がんばり過ぎない介護というフレーズも聞く機会が増えましたが、できないこと、したくないことは長続きしませんし、当事者の誰にとってもよい結果は生まれないものです。自分の気持ちに正直になり、したくなくことはしたくないと言ってしまい、介護を支えてくれる介護職の皆さんや家族、親族などの周囲の人たちに頼ってしまう方がいい場合もあります。

介護うつにならないために

介護うつとは介護が原因で発症するうつ状態のことです。介護には正解がないうえ、どれだけ考えて、可能な限りの努力をしたとしても満足できることはないですし、介護に一生懸命に向き合うまじめな人ほど心身ともに疲れ切ってしまうものです。仕事、生活、プライベートを犠牲にして、多くの時間を費やし献身的に尽くしても苦労が報われない虚無感を覚えたり、先が見えない不安やもどかしさを感じ続けるとやがて介護うつを発症してしまうのです。まして認知症となってしまった親の場合には意思疎通もできず、暴言を受けたりすることもあります。ともすれば苛立ちから虐待などにも発展しかねないこともあります。

介護うつになってしまう人は、普段から身近に相談できる人がおらず、息抜きの機会にも恵まれず、介護疲れを抱え込んでしまうのです。介護によるストレスは冷静な判断や気持ちの余裕がなくなり、介護している親や周囲の人たちにもとげとげしい態度になってしまうこともあります。
昨今は各地域に認知症カフェや家族会などのコミュニティも増えてきており、そうした団体に参加することで自分と共通の悩みを抱えた人たちと交流することで、自分だけが苦しい訳ではない、自分よりももっと大変なのに明るく過ごしている姿に励まされたり、悩みを打ち明けて解決するなど気分転換になったり、安心できたりします。また、介護サービスを積極利用することで自分だけの時間を過ごすなどして精神的な安定を確保することも大事なことです。

介護はとかく家族のうち特定の誰かに頼りすぎとなる傾向があります。負担を抱え込まないようにするためにも家族で話し合うことの重要性をお伝えしましたが、介護はチームプレイで乗り越えなければならない性質のものですから、他の家族は日々の手伝いはできないとしても、いつも介護をがんばってくれている人を労ったり、経済的な負担を受け持ったりとそれぞれができることを行う必要があります。

介護にかかるお金について考えておく

介護の費用は親のお金で賄うことを原則とし、介護費用を親のお金で賄うことができるのかを先ずは確認しておくことが必要です。親が年金をいくらもらっているのか、預貯金がどれくらいあるのか、どんな保険に加入しているのかなど案外知る機会がない情報ですが、先々、高齢者施設に入所するなど追加の費用が発生した時に慌てたり、家族が想定外の負担を負わないためにもあらかじめ把握しておくことが重要です。要介護度にもよりますが、統計データの平均では在宅介護で毎月7.8万円の費用が発生しますので、その他の生活費なども含めてお金が本当に足りるのかを把握しておき、必要に応じてあらかじめ資金対策を講じる必要もあるかもしれません。

法律による備えの選択肢も知っておく

介護をしていくなかで、親の金銭管理を行うことも当然あるかと思いますが、介護費用の記録をきちんと残しておくのが望ましいです。金銭管理をしていたきょうだいは親が亡くなって相続が発生した時に、他のきょうだいから親のお金を使い込んでいたのではと疑われたり、親が支払うべき費用を肩代わりしていたことなどの事情があっても考慮されずに、相続分の権利主張をする他のきょうだいへの対応策として心がけておくべきです。また、介護を続けているうちに脳梗塞などで認知症になってしまう場合も視野に入れて財産管理のために任意後見などの対策も考えておくべきです。介護は誰がどう関わっていたかで相続発生時にもめる原因にもなりやすいので、家族間で意識合わせと役割分担、情報共有の仕方をあらかじめ決めておいた方が心配も減ります。

また、親としても介護をしてくれる子どもの苦労に報いるためにも遺言を書いたり、生命保険などを検討することも必要なことだと言えます。介護をする子どもは相続に有利と考えて介護をすることはなくても、長期にわたって親を支えてきた気持ちが強いものですし、親としてもこうした気持ちに報いるのも自然なことです。当然ですが、各種対策は全て判断能力があるお元気なうちにしかできないことですので、縁起でもないと先送らずに介護を話題の中心として親子で話し合う機会を持つことが望ましいです。

介護を続けているうちにやはり高齢者施設への入所を検討した時に手持ち資金が足りなければ親の自宅を処分して入所費用等に充てようと考えた時点で親が認知症であったら、ご存じのとおり家族が代わりに自宅を売却することはできません。判断能力がない本人のためには成年後見制度を利用することが選択肢となりますが、自宅を売却するためだけなのに後見人を選び、本人が亡くなるまで後見人に対して毎月の報酬を支払う必要があり、仮に後見人に月額報酬3万円を7年間となれば252万円もの報酬支払いが発生してしまいます。

後見制度が意味のないものとはもちろん言わないですが、本人や家族にとっての目的や利益、負担などを総合的に勘案した場合にこの制度を利用するかどうかは判断の難しいところです。それよりも本人である親が元気なうちに自宅を対象とした家族信託契約で介護費用の備えをするほうが現実的な対応と言えそうです。また、不動産以外の預貯金等の管理では、信託銀行をはじめとする金融機関では信託契約も以前と比べて利用しやすい商品も販売されていますので、資産の種類に応じて複数の対策をとりながら判断能力が低下した親の資産を介護費用に充当することを考えておくことも大事です。※家族信託契約とは親の不動産をはじめとする資産を家族が代わりに管理、処分する権限を与える家族間の契約のこと。

介護においては、支出が増え、介護離職してしまえば家計収入が減ってしまうこともあるので、財産管理も含めて、いかに支出を減らし、資産を蓄えるか、維持するかを検討する必要があります。住宅ローンの団体信用保険では高度障害でローンの支払い免除があったり、遠距離介護では航空会社の割引制度などもありますので、お金に関する情報は多いに越したことはありません。

まとめ

介護に関しては課題や考えるべきことが多岐に渡ります。介護が必要となった親と家族はどう向き合うか、どんな介護サービスを受けたらよいのか、施設は何を基準に選んだらよいのか、どれくらいのお金が必要なのかと働き盛りの人たちがそれこそ一人で悩むには大変なテーマです。自分らしい働き方を全うしたいのに、家族のこと、とりわけ介護は負担がかかりやすい出来事です。自分ひとりで抱え込まずに気軽に相談できる先を確保し、もし親の介護が必要となった時でも介護のために仕事を辞めない方向で取り組んで頂きたいと切に願います。