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渋谷の街にはいつでもたくさんの人。みんなそれぞれの世界を生きながら、スタスタと歩いている。携帯の画面の中、イヤフォンの音楽の中、今後の予定の中、足早に。

駅の構内にいると、人の多さに立ちすくんでしまうことがある。圧倒されて、行き交う人たちの中で苦しくて泣き叫びそうになる。膜に覆われていて、どこか時空が歪んでいるようで、音はずっと遠くに聞こえる。視界にはこんなにもたくさんの人がいるのに、喧騒は遠く、誰の声も届かず、誰にも声は届かない。本当に泣き叫んでも問題がなさそうだ。

どんっ、と人と鈍くぶつかって音が戻ってくる。戻ってきた喧騒は複雑な音の集まりで、一人一人は誰と話すことなく独自の世界の中にいるように見えるのに、どうしてこんなにも割れるように大きな音で迫ってくるのか、不思議だ。そして私のいた音のなかったあの場所は、一体どこなのだろう?といつも後ろを振り返ってみるのだけれど、そこにはもうない。

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